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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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10話 村人初覚醒

朝。


太陽が山の向こうから顔を出す。


冷たい空気が村を包んでいた。


だが村人達の顔は明るい。


以前とは違う。


数日前までの村は死を待つだけだった。


病。


飢え。


盗賊。


絶望。


それしかなかった。


今は違う。


井戸は綺麗になった。


病人は回復している。


畑改革も始まった。


そして。


魔力循環訓練。


村人達は毎日続けていた。


ケルナインは何も命令しない。


やるか。


やらないか。


決めるのは本人達だ。


それでも。


誰も休まなかった。


変われる可能性を知ってしまったからだ。


広場では朝から訓練が始まる。


マイケル。


エルナ。


エミリー。


多くの村人達が座っていた。


目を閉じる。


呼吸。


循環。


集中。


魔力を感じる。


流す。


巡らせる。


繰り返す。


繰り返す。


繰り返す。


やがて。


最初の変化が現れた。


「……あっ」


声を上げたのはマイケルだった。


両手の間。


小さな光。


豆粒ほどの光が浮かんでいる。


本人が一番驚いていた。


「で、出来た……」


震えている。


光は弱い。


風が吹けば消えそうなほど小さい。


それでも。


紛れもなく魔法だった。


村人達が集まる。


「おお!」


「光だ!」


「本当に魔法だ!」


歓声が上がった。


マイケルは目を潤ませていた。


今まで何も出来なかった。


失敗ばかりだった。


弱かった。


だから。


余計に嬉しかった。


ケルナインは近付く。


「成功だな」


マイケルが振り向く。


「僕でも出来ました」


「当然だ」


「努力したからだ」


その言葉が胸に響く。


才能があった。


そう言われるより嬉しかった。


努力したから。


出来た。


その事実が。


少年を強くした。


昼。


訓練は続く。


次の変化はエルナだった。


ハーフエルフの少女。


優しくて弱い。


戦いが苦手。


争いも嫌い。


そんな彼女が両手を合わせる。


小さな光が宿る。


柔らかな光。


暖かな光。


そして。


近くにいた老人の手に触れた。


老人が驚く。


「痛みが……」


長年痛めていた指。


関節の痛みが消えていた。


完全ではない。


だが軽くなっている。


エルナ自身が驚いていた。


「私……何をしたんでしょう」


ケルナインは答える。


「治癒だ」


「治癒?」


「お前は治癒適性が高い」


エルナは目を見開いた。


戦えない。


弱い。


そう思っていた。


でも。


誰かを助ける力がある。


それが嬉しかった。


老人が涙を流す。


「ありがとう」


エルナは慌てる。


「そんな」


「まだ少ししか治せません」


老人は首を振った。


「それでも嬉しい」


周囲も拍手した。


エルナは顔を赤くした。


初めてだった。


自分の力で誰かが喜んだのは。


午後。


事件が起きた。


エミリーだった。


狼獣人。


村で最も戦える存在。


悔しがり。


負けず嫌い。


訓練中も必死だった。


誰よりも。


その結果。


変化が起きる。


体内の魔力循環が急激に加速した。


身体強化。


筋肉強化。


水属性による身体補助。


自然に発動した。


本人も気付いていない。


広場の隅。


大人二人で運ぶ丸太。


それを。


エミリーが片手で持ち上げた。


全員が固まる。


エミリーも固まる。


「え?」


丸太を見る。


持ち上がっている。


軽い。


異常なほど軽い。


村人達が叫ぶ。


「持ち上げた!」


「片手だぞ!」


「嘘だろ!」


エミリーは慌てて丸太を置いた。


ケルナインが近付く。


「身体強化だ」


「成功した」


エミリーは唖然とする。


力が湧いてくる。


身体が軽い。


感覚が違う。


狼獣人の身体能力。


そこに魔力が加わった。


初めての覚醒だった。


エミリーは笑った。


子供のように。


純粋に。


「強くなった」


その笑顔は眩しかった。


夕方。


さらに変化が起きる。


今度はセリナだった。


ダークエルフ。


冷静。


知的。


理論派。


彼女は訓練中も観察していた。


感覚だけで終わらせない。


理解しようとしていた。


だから早かった。


目を閉じる。


意識を広げる。


魔力を外へ伸ばす。


風。


音。


空気。


鳥。


木々。


全てが見えた。


いや。


感じた。


セリナは目を開く。


驚いていた。


「見える」


ケルナインが聞く。


「何がだ」


「村の外」


「森」


「鳥」


「ウサギ」


「二百歩先の動きまで」


周囲が息を呑む。


索敵能力。


探索能力。


感知能力。


戦場では極めて重要な力だった。


ケルナインは頷く。


「索敵適性か」


セリナは理解した。


だから自分は戦うだけの人間ではない。


見つける。


読む。


判断する。


それが役割だ。


夜。


村は祭りのようになっていた。


酒はない。


豪華な食事もない。


それでも皆が笑っていた。


村人が魔法を使った。


治癒が出来た。


力が強くなった。


索敵が出来た。


奇跡だった。


この世界では。


貴族だけが持つと思われていた力。


それを村人が得た。


エミリーが焚き火の前で言う。


「変わったね」


マイケルが笑う。


「うん」


「変わった」


エルナも頷く。


セリナは静かに言う。


「違う」


三人が見る。


「元々あった」


「使えなかっただけ」


その言葉に全員が黙った。


確かにそうだ。


力は最初からあった。


才能もあった。


可能性もあった。


無かったのは教育。


教える人。


環境。


それだけだった。


少し離れた場所。


ケルナインは夜空を見ていた。


村人達が笑っている。


希望を持っている。


それだけで十分だった。


彼は英雄ではない。


王でもない。


支配者でもない。


ただ教えるだけだ。


そして。


人は育つ。


環境が変われば。


人は変わる。


教育があれば。


人は伸びる。


今日。


この貧困村で。


最初の覚醒者達が生まれた。


小さな光。


小さな力。


だが。


それは確かな始まりだった。


後に大陸を変えることになる村の。


最初の一歩だった。







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