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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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78話 人は豊かな場所へ流れる

ジョンウン王国。


かつて周辺諸国を脅かした軍事国家。


民を搾り。


兵を徴発し。


力によって支配してきた国。


その王国が今。


崩壊の入り口に立っていた。


王都。


宮殿。


国王ジョンウンは報告書を机へ叩きつけた。


「ふざけるな!」


怒声が響く。


しかし。


誰も顔を上げない。


報告は事実だった。


三万の侵攻軍。


全軍喪失。


正確には違う。


戦死ではない。


投降。


三万人全員が敵へ流れた。


剣を交えることなく。


都市国家へ吸収された。


それが問題だった。


死んだのなら補充できる。


逃げたのなら違う。


民は知る。


兵士達は知る。


向こうで生きていると。


向こうで食べていると。


向こうで働いていると。


向こうで学んでいると。


情報は止まらなかった。


風魔法放送。


ジョンウン王国では存在しない技術。


都市国家は毎日放送している。


農業情報。


物流情報。


学校情報。


医療情報。


移住者募集。


教育制度。


新規事業。


民は聞く。


兵士も聞く。


国境の向こうから流れてくる声を。


王都の官僚が震える。


「人口減少が止まりません」


国王は睨む。


「どれだけ減った」


「現在人口二万人です」


静寂。


重い沈黙。


元は六万人を超えていた。


戦争。


飢餓。


徴兵。


そして亡命。


全てが重なった。


結果。


残り二万人。


国家維持限界。


官僚達も理解していた。


農地が維持できない。


街道が維持できない。


徴税が維持できない。


軍が維持できない。


国家とは人だった。


人が消えれば終わる。


一方。


都市国家。


人口五万五千を超えた都市は今日も動いていた。


市場。


学校。


治療院。


工房。


紡織工場。


農地。


全てが稼働している。


朝。


マイケルは学校を歩いていた。


教師達の声が響く。


読み書き。


算術。


魔法理論。


農業理論。


建築理論。


戦術理論。


様々な授業が進む。


マイケルは笑った。


昔の自分なら信じなかった。


教師総数一万五千。


教導スキル保持者一万人以上。


教育が教育を生む。


そんな世界。


ある教室では。


元ジョンウン王国兵が座っていた。


文字を学んでいる。


二十代の男だった。


昨日までは兵士。


今日は学生。


彼は真剣だった。


生まれて初めて学んでいる。


隣の席には元農民。


後ろには元盗賊。


前には獣人。


誰も差別しない。


皆学ぶ。


それだけだった。


「どうしてこんな事を教えてくれるんですか」


男が質問する。


教師は答える。


「人材は財産だからです」


男は理解できなかった。


兵士は消耗品だった。


農民は税を払う道具だった。


それがジョンウン王国。


しかしここでは違う。


人を育てる。


それが当たり前だった。


昼。


トミーは物流倉庫にいた。


膨大な物資。


穀物。


野菜。


果実。


布。


薬。


肉。


魚。


全てが記録されている。


在庫スキル。


流通スキル。


原価スキル。


商売スキル。


彼の能力は都市全体を支えていた。


部下が報告する。


「亡命希望者増加」


「またか」


トミーが笑う。


報告は続く。


「今週だけで二千人」


「累計一万人突破」


トミーは帳簿を見る。


人口。


六万五千。


数字が増えていた。


戦争で増えたわけではない。


人が来た。


それだけ。


理由は簡単だった。


生きたいから。


夕方。


中央会議所。


主要メンバーが集まっていた。


セリナが地図を広げる。


ジョンウン王国。


赤い印が減っている。


「村が消え始めています」


エミリーが眉をひそめる。


「戦争?」


「違います」


セリナは首を振る。


「住民がいません」


静寂。


誰も驚かない。


予想していた。


「亡命か」


ロバートが呟く。


セリナは頷く。


「ええ」


「兵士も」


「農民も」


「職人も」


「皆こちらへ」


エレノア侯爵が腕を組む。


若返った黒髪の侯爵。


現役政治家。


王都でも有数の知性。


彼女は静かに言った。


「国は滅ぶでしょう」


誰も反論しない。


人口二万人。


国家維持は不可能。


税収が足りない。


兵力が足りない。


生産力が足りない。


全てが足りない。


ケルナインは窓の外を見ていた。


何も言わない。


セリナが問う。


「どう思われますか」


ケルナインは少し考える。


そして答えた。


「当然だ」


短い。


だが全員が聞く。


「人は豊かな場所へ流れる」


「それだけだ」


誰も反論できない。


自然の流れだった。


水が高い場所から低い場所へ流れるように。


人も流れる。


飢えた国から。


豊かな国へ。


夜。


風魔法放送が始まる。


都市全体へ声が響く。


「明日の農業講習について」


「新規学校建設について」


「紡織工場拡張について」


「移住者受け入れについて」


人々は聞く。


学ぶ。


理解する。


行動する。


その放送は国境を越える。


ジョンウン王国にも届く。


暗い家。


空っぽの倉庫。


飢えた家族。


彼らは放送を聞いていた。


「学校……」


「無料……?」


「治療院……?」


「仕事……?」


誰かが呟く。


そして決意する。


「行こう」


それは一人ではなかった。


十人。


百人。


千人。


人は流れる。


剣では止められない。


法律でも止められない。


豊かな環境がある限り。


夜空の下。


都市国家はさらに大きくなる。


農業革命。


教育革命。


紡織産業。


医療。


物流。


その全てが人を引き寄せていた。


かつて貧困村だった場所。


今や周辺最大の希望。


そしてジョンウン王国は。


戦争に負けたのではない。


人材を失った。


それが敗北だった。


環境が人を育てる。


そして。


人は環境を選ぶ。


その事実が世界を変え始めていた。







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