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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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70話 人が人を育てる国

一万人都市。


その言葉が、もはや誇張ではなくなっていた。


かつては盗賊に怯えるだけだった貧困村。


病が流行れば人が死に。


干ばつが来れば飢え。


冬が来れば凍える。


そんな土地だった。


今は違う。


農地は広がり続けている。


果樹園は実をつける。


紡織工房は昼夜を問わず動く。


鍛冶工房からは鉄を打つ音が響く。


学校では子供も大人も学ぶ。


治療院には病人よりも勉強に来る者の方が多い。


食料充足率は二百%を超えていた。


飢えない。


病に強い。


働ける。


学べる。


そんな環境が整っていた。


そして。


この都市は新しい段階へ入ろうとしていた。


人材の大量育成である。



都市中央会議所。


大きな机を囲んでいたのは各部門の責任者達だった。


セリナ。


エミリー。


ロバート。


トミー。


ミシェル。


マイケル。


エルナ。


リーン。


それぞれが今や数百人規模を率いる存在になっている。



セリナが報告する。


「人口は一万三百二十四名」


「先月だけで四百八十七名増加」


「今月も増加傾向です」



皆が頷いた。


驚く数字ではなくなっている。


むしろ問題は別だった。



人が足りない。



正確には。


教師が足りない。



マイケルが資料を広げる。


「治療院の希望者は増えています」


「魔法教育希望者も増加」


「ですが教師が不足しています」



エルナも続ける。


「孤児院も限界です」


「教育担当が足りません」



リーンも頷く。


「薬師希望者も増えています」


「教えられる人数が追いつきません」



沈黙。


嬉しい悲鳴だった。



するとミシェルが翼を揺らした。


「なら増やしましょう」



全員が見る。



ミシェルは笑った。


「教師を」



その一言だった。



翌日から計画が始まる。


教育者育成計画。



まずマイケル。


教導スキルを持つ治癒師。


彼は三百名を選抜した。



魔法適性。


学習能力。


忍耐力。


人格。


全てを確認する。



選ばれた者達は昼夜を問わず学ぶ。


治療。


教育理論。


魔力循環。


魔力操作。


鑑定。


応急処置。


衛生管理。



半年後には教師として独立できる水準を目指す。



続いてエルナ。


孤児院。


初等教育。


生活教育。


人格教育。



彼女も三百名を選抜した。



優しいだけでは駄目。


厳しいだけでも駄目。


人を育てられる人間。


そこを重視した。



リーンも動く。


薬師育成。


薬草栽培。


調合。


保存。


病気予防。


衛生管理。



こちらも三百名。



そして。


ミシェルである。



索敵教師。


鳥人族。


全属性索敵魔法の達人。



彼女は千人規模の索敵部隊を率いていた。



そのミシェルが新たな才能を開花させる。



ある日の訓練場。


千人を超える索敵部隊。


数百人の新兵。



ミシェルは空を見上げた。



なぜ人が育つのか。


なぜこの都市だけが伸びるのか。


答えは単純だった。



教える人間がいるから。



その瞬間。


彼女の身体を光が包んだ。



新たなスキル。


【教導】



マイケル。


エルナ。


リーンに続く。


四人目の教導スキル保持者。



歓声が上がる。



ミシェルは笑った。


「ようやく追いつきましたね」



その結果。


教師育成計画は一気に加速する。



三千名。



新たな教育者候補。


治癒師。


薬師。


生活教師。


索敵教師。


魔法教師。



人が人を育てる。


その仕組みが完成し始めていた。



同じ頃。


索敵部隊が奇妙な情報を持ち帰る。



国境国家。


北方の閉鎖国家。


ジョンウン王国。



セリナが資料を見る。



「また増えています」



亡命者だった。



一人。


二人。


そんな数ではない。



数十。


数百。



毎月増えている。



トミーが眉をひそめる。


「何が起きてる」



亡命者達への聞き取りが始まる。



内容は似ていた。



重税。


徴発。


強制労働。


食糧不足。


処刑。


監視。


密告。



そして。


飢餓。



老人が震える声で言った。


「麦を作っても持っていかれる」



若い母親が言った。


「子供が餓死しました」



元兵士は俯く。


「反対した者は消える」



重い空気が流れる。



セリナが整理する。


「国家崩壊の兆候です」



ロバートも頷く。



「民が逃げ始めた国家は弱い」



歴史が証明していた。



しかし。


全員受け入れるわけにはいかない。



スパイ。


犯罪者。


工作員。



混じる可能性がある。



そこで選別が行われた。



索敵。


聞き取り。


経歴確認。


技能確認。


人格確認。



徹底的だった。



結果。


受け入れられた者達は驚く。



飯がある。



仕事がある。



学校がある。



治療院がある。



殴られない。



奪われない。



子供が笑っている。



涙を流す者もいた。



ある老人が言った。


「夢を見ているようだ」



誰も答えなかった。



なぜなら。


この都市に住む者達も。


昔は同じだったから。



盗賊に怯え。


病に苦しみ。


貧困に沈み。


明日を諦めていた。



だから分かる。



人は環境で変わる。



才能が無かったのではない。



育つ場所が無かっただけだ。



会議所の窓から。


夕陽が都市を照らしていた。



戦闘部隊一千名。


索敵部隊一千名。


教師育成候補三千名。


人口一万人超。


食料充足率二百%以上。



そして。


今日も新しい亡命者達が門をくぐる。



誰かに捨てられた人間達。



その人々を迎える都市の看板には。


ただ一言だけ書かれていた。



「学べ」



その言葉こそ。


この都市がここまで大きくなった理由だった。







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