表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/290

69話 金貨三万枚

人口一万人。


その数字はもはや誰も否定できなかった。


かつて盗賊に襲われるだけだった貧困村。


奴隷商に狙われ。


病に苦しみ。


飢えに怯え。


冬を越えられるかどうかだけを考えていた村。


その面影はもうどこにもない。


広大な農地。


果樹園。


紡織工房。


鍛冶工房。


学校。


治療院。


浴場。


住宅街。


巨大倉庫。


市場。


人口は一万人を突破した。


食料充足率は二百%以上。


小麦。


大麦。


果実。


根菜。


家畜。


全てが増え続けていた。


そして今。


都市の中心で新たな革命が始まろうとしていた。


麺である。



都市中央市場。


昼時。


広場には長い列ができていた。


目当ては麺。


最近登場した新しい料理。


安い。


美味い。


腹に溜まる。


保存できる。


職人も。


農民も。


冒険者も。


兵士も。


皆が夢中になっていた。



そんな市場へ大型商隊が入ってくる。


十台を超える豪華な馬車。


精鋭護衛。


商人達がざわついた。


「ヴァレリア商会だ」


「会頭が来たぞ」


「本物か」


道が自然と開く。


そして馬車から降りた。


燃えるような赤髪。


長身。


圧倒的な存在感。


成熟した美女。


マーガレット・ヴァレリア。


大陸有数の商会を率いる女傑だった。



彼女は市場を眺める。


人。


人。


人。


一万人都市。


数字だけは報告を受けていた。


だが実際に見ると違う。


活気がある。


皆の顔に余裕がある。


商人の目には分かる。


金が回っている。


食料が足りている。


未来を信じている。


そんな顔だった。



「面白いわね」


マーガレットは微笑む。


「本当に化けた」



案内された先は麺屋だった。


店内は満席。


外には行列。


料理人達が忙しく働いている。


香りが漂う。


醤油。


味噌。


脂。


香辛料。


食欲を刺激する香り。



席に着く。


運ばれてきた。


醤油麺。


透き通った琥珀色の汁。


細い麺。


焼いた肉。


刻み葱。


湯気が立つ。



マーガレットは箸を取る。


麺を持ち上げる。


一口。


すする。



止まった。


完全に止まった。


護衛も幹部も固まる。


会頭が固まるのは珍しい。



もう一口。


さらに一口。


三口。


四口。


五口。


止まらない。



やがて器を置いた。


静かに言う。


「嘘でしょう」



誰も何も言えない。



「これ……売れるわ」



商人達が苦笑する。


そんなことは分かっている。


問題はどれだけ売れるかだ。



マーガレットは即座に理解した。


これは料理ではない。


商品だ。


それも国家級の商品。



保存できる。


軽い。


安い。


輸送できる。


大量生産できる。


兵糧になる。


冒険者食になる。


災害備蓄になる。



つまり。


どこでも売れる。



「トミーを呼んで」


即決だった。



商業庁舎。


都市の経済を司る建物。


そこへトミーがやってくる。


狐獣人。


物流責任者。


商業責任者。


かつては調子のいい若者だった。


今では都市経済を支える男になっていた。



「久しぶりですね」


「ええ」


マーガレットが微笑む。


「あなたに会いに来たわ」



トミーは席に座る。


お互い笑顔。


だが。


商人同士である。


戦場はここだ。



マーガレットは前置きを省いた。


「独占販売権が欲しい」



部屋が静まる。



「麺よ」


「全部欲しい」



トミーは驚かない。


予想していた。



「条件は?」



マーガレットは即答した。


「金貨三万枚」



全員が息を呑む。


金貨三万枚。


国家予算級。


普通の都市なら即決する額だった。



しかし。


トミーは表情を変えない。



「安いですね」



今度はマーガレットが笑った。


「そう来ると思った」



商人同士。


腹の探り合いが始まる。



「この商品は十年売れる」


トミーが言う。


「二十年売れる」


「百年売れるかもしれません」



誰も否定できない。



「独占は無理です」



トミーは続けた。


「ですが」


「優先販売権なら可能です」



マーガレットが目を細める。



「契約金は金貨三万枚」


「それは受ける」


「販売価格は商品ごとに個別契約」


「年間最低購入量を設定」


「物流網は共同投資」


「販路開拓はヴァレリア商会担当」



沈黙。



完璧だった。



都市は利益を得る。


商会も利益を得る。


独占はない。


しかし先行利益はある。



マーガレットは笑う。


本当に楽しそうに笑った。



「成長したわね」



トミーも笑った。



「環境が良かったので」



その言葉に。


マーガレットは都市を見た。


職人。


教師。


農民。


兵士。


商人。


皆が育っている。



かつての貧困村は消えた。


そこにあったのは。


人材が人材を育てる都市。



そしてその日。


金貨三万枚の契約が締結された。



市場は歓喜した。


工房は増産を始める。


物流は拡張される。


倉庫は新設される。



麺はただの料理ではなくなった。


都市を支える産業となった。


そして。


一万人都市はさらに大きく成長していくのだった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ