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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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68話 麺革命

都市は成長を続けていた。


人口八千人。


食料充足率二百%超。


穀物倉庫は満杯。


果樹園も拡大。


畑も増え続ける。


かつて盗賊に怯え、飢えと病に苦しんでいた貧困村の面影はもうない。


農業革命は成功した。


しかし。


成功したからこそ新たな問題が生まれていた。


保管である。


大量に収穫できる。


大量に食べられる。


だが。


さらに大量に余る。


豊作は時として難題になる。


穀物は保存できる。


しかし加工方法が限られていた。


パン。


粥。


焼き菓子。


それくらいだった。


もっと効率良く。


もっと長期間。


もっと運びやすく。


そんな保存食が求められていた。



発端はパン工房だった。


若い職人が失敗する。


パン生地を作り過ぎたのだ。


大量の小麦粉。


大量の水。


大量の生地。


焼き窯が足りない。


捨てるしかない。


そう思われた。


だが。


職人はふと思いつく。


薄く伸ばした。


さらに伸ばす。


細く切る。


長い紐になる。


「これ……乾かしたらどうなるんだ?」



試作品が作られた。


風魔法。


火魔法。


蒸気乾燥。


様々な方法が試される。


数日後。


完成した。


細長い乾燥食品。


見た目は奇妙だった。


「なんだこれ?」


「縄か?」


「食えるのか?」


周囲は首を傾げる。



大鍋に湯を沸かす。


大量の湯。


乾燥した細い生地を入れる。


数分後。


柔らかくなった。


香りが立つ。


職人達は顔を見合わせた。


器に盛る。


醤油。


味噌。


胡麻油。


香辛料。


炒めた肉。


野菜。


全てを加える。


そして。


試食。



最初に食べた職人が固まった。


無言。


周囲が不安になる。


数秒後。


「うまい」


全員が集まる。


奪い合う。


鍋が空になる。


あっという間だった。


「なんだこれ!」


「食いやすい!」


「腹にたまる!」


「美味い!」


歓声が上がる。


新しい料理だった。


麺。


この世界で初めて誕生した食文化だった。



醤油麺。


味噌麺。


塩麺。


胡麻麺。


香辛料麺。


様々な派生が生まれる。


料理人達は熱狂した。


香辛料革命の次は麺革命だった。



そして。


トミーが飛んできた。


商業ギルド責任者。


物流責任者。


市場を見続けてきた男。


彼は麺を見た瞬間に叫んだ。


「これだ!」


周囲が驚く。


「どうした?」


トミーは麺を掴む。


乾燥麺を掲げる。


目が輝いていた。


「保存食革命だ!」



皆が首を傾げる。


トミーは興奮していた。


「見ろ!」


「軽い!」


「割れにくい!」


「運びやすい!」


「腐りにくい!」


「湯さえあれば食える!」


「兵士が持てる!」


「冒険者が持てる!」


「商隊が持てる!」


「難民も食える!」


「遠征軍も食える!」


次々と言葉が飛び出す。


誰よりも先に価値を理解していた。



物流担当達も気付く。


確かにそうだった。


パンは傷む。


粥は運べない。


肉は腐る。


野菜も日持ちしない。


しかし。


乾燥麺は違う。


長期保存できる。


大量輸送できる。


災害時にも使える。


都市はまた一段階進化した。



市場は大混乱になった。


麺屋が生まれる。


行列ができる。


職人達が競争する。


味噌麺専門店。


醤油麺専門店。


香辛料麺専門店。


次々に開業した。



料理人達も覚醒し始める。


料理スキル。


加工スキル。


保存食スキル。


発酵理解。


香味理解。


新しい才能が芽吹く。


環境が変われば人も変わる。


それを都市は証明し続けていた。



さらに。


農業側でも大きな成果が出ていた。


今年の収穫量。


小麦。


大麦。


ライ麦。


燕麦。


全てが大幅増産。


前年の倍近い。


農民達も驚いていた。


土壌改良。


水路整備。


肥料研究。


農業教育。


農業スキル。


全てが噛み合った結果だった。



巨大な穀物倉庫。


山のような袋。


天井近くまで積み上がる。


誰もが見上げる。


「食い物がある」


その安心感は大きかった。


飢餓は人を壊す。


飢餓は国家を壊す。


逆に。


食料は人を育てる。


食料は国家を育てる。



夕方。


市場広場。


子供達が麺をすすっている。


老人も食べている。


冒険者も食べている。


職人も食べている。


皆が笑っていた。


豊かさとは何か。


それは金だけではない。


腹いっぱい食べられること。


明日も食べられること。


家族が笑うこと。


それも豊かさだった。



夜。


物流倉庫では乾燥麺の生産が続く。


工房では新しい味の研究が続く。


農地では次の収穫へ向けた準備が始まる。


農業革命。


香辛料革命。


そして麺革命。


環境が人を育てる。


育った人が技術を生む。


技術がさらに環境を豊かにする。


都市はもう村ではなかった。


人材が人材を育てる。


そんな循環が完成し始めていた。







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