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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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67話 香辛料革命

人口八千人を超えた都市は、今日も成長を続けていた。


畑は広がる。


果樹園も広がる。


紡織工房も増える。


物流網も拡張される。


食料充足率は二百%を超えたまま維持されていた。


飢えはない。


病も少ない。


盗賊に怯える日々も遠い昔の話だった。


そんな中で。


新たな革命が始まろうとしていた。


食の革命。


香辛料革命である。



都市南部。


新設された試験農場。


セリナは広大な畑を見渡していた。


そこには穀物ではない作物が植えられている。


唐辛子。


山椒。


胡椒。


右近。


クミン。


コリアンダー。


菜種。


胡麻。


これまで生産していなかった植物だった。


農業班の責任者が報告する。


「発芽率良好です」


「病害もありません」


「土壌適性も確認できました」


セリナは満足そうに頷いた。


穀物だけでは豊かになれない。


野菜だけでも足りない。


食文化。


それが必要だった。


人は腹が満たされるだけでは幸せになれない。


美味しいものを食べて初めて豊かになる。


それを都市は理解し始めていた。



最初に収穫されたのは胡麻だった。


黄金色の粒。


農民達は不思議そうに眺める。


「これ食えるのか?」


「小さいな」


「鳥の餌みたいだ」


すると加工担当の職人達が笑った。


「見てろ」


石臼が回る。


圧搾機が動く。


やがて。


透明な黄金色の液体が流れ出した。


胡麻油。


香りが広がる。


周囲の人々が目を丸くする。


「おお……」


「いい匂いだ」


「なんだこれ」


料理人達が飛びついた。



続いて菜種。


こちらも油になる。


大量生産が可能だった。


料理人達は歓喜した。


油は文明だった。


焼く。


揚げる。


炒める。


料理の幅が一気に広がる。


これまで煮るだけだった料理が変わる。


食卓が変わる。


生活が変わる。



そして唐辛子。


最初の犠牲者は若い農夫だった。


赤い実をかじる。


数秒後。


「ぐあああああああああ!!」


畑中に悲鳴が響いた。


周囲は騒然。


水を飲む。


転げ回る。


涙を流す。


鼻水も出る。


皆が慌てる。


しかし。


料理人達は笑っていた。


「面白い」


「使えるぞ」


「これは武器だ」


辛味。


この世界には珍しい刺激だった。



山椒も凄かった。


舌が痺れる。


誰も経験したことがない感覚。


料理人達は興奮する。


「肉に合う」


「魚にも合う」


「保存食にも使える」


次々に試作品が生まれた。



クミン。


コリアンダー。


こちらはさらに衝撃だった。


香り。


それまでの料理には存在しなかった概念。


焼いた肉に振る。


煮込みに入れる。


スープに加える。


それだけで別物になる。



料理工房。


都市中の料理人達が集まっていた。


職人達は競争を始める。


誰が一番美味い料理を作れるか。


誰が新しい調味料を生み出せるか。


戦争のような熱気だった。


そして。


覚醒が始まった。


「え?」


若い料理人が固まる。


頭上に光が浮かぶ。


鑑定持ちが驚いた。


「料理スキルだ!」


周囲も騒然となる。


料理人達は次々覚醒していく。


料理スキル。


味覚強化。


香気理解。


調合。


発酵理解。


保存加工。


食材鑑定。


これまで存在しなかった職業スキルだった。



グランは笑った。


醤油。


味噌。


味醂。


酢。


ウスターソース。


様々な調味料を生み出してきた男である。


「面白くなってきたな」


弟子達も燃えていた。


新しい調味料を作る。


誰も見たことがない味を作る。


その競争が始まる。



最初の傑作は唐辛子味噌だった。


辛い。


旨い。


保存も利く。


爆発的に広がった。


次は胡麻味噌。


さらに山椒醤油。


胡椒塩。


香草酢。


様々な調味料が誕生していく。



市場も変わった。


人々が集まる。


試食会が始まる。


歓声が上がる。


「美味い!」


「なんだこれ!」


「肉が別物だ!」


都市は祭りのような熱気に包まれていた。



トミーは物流倉庫で頭を抱えていた。


「足りねえ!」


「全然足りねえ!」


香辛料が売れすぎる。


調味料が売れすぎる。


生産が追いつかない。


倉庫が空になる。


市場から在庫が消える。


嬉しい悲鳴だった。



マーガレット・ヴァレリアも驚いていた。


商会本部。


山のような注文書。


「全部売れるの?」


部下が頷く。


「全部です」


「王都も欲しがっています」


「貴族も欲しがっています」


「商業都市も注文しています」


マーガレットは笑った。


また新しい商品が生まれた。


また都市が強くなる。



夕暮れ。


中央広場。


様々な料理が並ぶ。


焼肉。


煮込み。


串焼き。


野菜炒め。


スープ。


保存食。


全てに新しい香辛料が使われていた。


人々は笑う。


子供も笑う。


老人も笑う。


戦士も笑う。


職人も笑う。


豊かさとは何か。


それは数字だけではない。


美味しいものを食べること。


家族と笑うこと。


明日を楽しみにできること。


それもまた豊かさだった。



夜。


都市の灯りが輝く。


畑では新しい香辛料が育つ。


工房では新しい調味料が生まれる。


料理人達は眠らない。


もっと美味いものを作るために。


環境が人を育てる。


そして育った人が文化を生む。


食の革命は始まったばかりだった。







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