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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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60話 拡大

国境国家西部。


奴隷商拠点壊滅から二週間。


村は止まらなかった。


むしろ加速していた。


最初の拠点。


第二拠点。


第三拠点。


第四拠点。


第五拠点。


村は五つの拠点を順番に削った。


焦らない。


無理をしない。


確実に潰す。


それがロバートの方針だった。


敵を侮らない。


敵を恐れない。


その積み重ねが結果になった。



五つ目の拠点。


そこも同じだった。


見張りは弱い。


訓練不足。


連携不足。


補給不足。


奴隷商達は長年弱者を狩ることで生きていた。


強敵と戦う経験が無い。


だから村の戦闘部隊とぶつかった瞬間に崩れた。


エミリーが率いる前衛部隊が突入する。


リーヴが風魔法で退路を断つ。


ティグリスが土壁を築く。


ソフィアが正門を破壊する。


カタリナが暴れる。


ガイルが鉄を回収する。


ロバートが全体を統率する。


もはや作業だった。


一時間後。


拠点は空になる。


武器。


鎧。


鉄格子。


檻。


鎖。


鉄扉。


鉄杭。


金貨。


銀貨。


荷車。


全て回収。


奴隷達も保護。


残るのは空っぽの建物だけだった。



「五つ目終了。」


ロバートが報告書を閉じる。


セリナが頷く。


「敵側の被害は大きいですね。」


「当然だ。」


ロバートは地図を見る。


「奴隷商は物流だ。」


「物流は拠点が無くなれば死ぬ。」


セリナも理解していた。


国境国家は強そうに見える。


だが実際は違う。


奴隷商。


盗賊。


傭兵崩れ。


犯罪組織。


それらが互いに利益を分け合っているだけ。


拠点が消える。


商品が消える。


金が消える。


人が消える。


それだけで機能不全になる。



村は強くなっていた。


人口六千二百三十八人。


二ヶ月前とは別世界だった。



食料充足率。


二百十七%。



農地は広がり続ける。


農業革命が進んでいる。


水路網。


灌漑設備。


肥料。


土壌改良。


種子改良。


教育。


全てが噛み合っていた。



畑では農民達が笑っている。


かつて貧困村だった場所。


病と飢えに苦しんでいた土地。


今では食料が余る。



余った食料は保存される。


交易に使われる。


家畜に回される。


酒になる。


調味料になる。


村の財産になる。



さらに。


紡織産業も急成長していた。


獣人達が羊毛を集める。


エルフ達が糸を紡ぐ。


ドワーフ達が機械を作る。


人族達が布を織る。



服が作られる。


毛布が作られる。


寝具が作られる。


交易品が作られる。



貧困は減る。


生活は豊かになる。



環境が人を育てる。


その言葉を証明するようだった。



村中央。


訓練場。


今日も訓練が行われている。



戦闘部隊。


索敵部隊。


どちらも拡充中だった。



ロバートの判断だった。


「まだ足りねぇ。」


誰かが言った。


「もう十分強いんじゃないですか?」


ロバートは首を振る。


「強いから増やすんだ。」


「弱くなってから増やしても遅い。」


誰も反論しない。


正しいからだ。



戦闘部隊。


五百人。



七百人。



九百人。



千人。



索敵部隊。


五百人。



七百人。



九百人。



毎日のように増えていく。



ミシェルが指導する。


透視。


念聴。


遠隔透視。


念話。



村人達は覚えていく。


才能が無かったわけではない。


教わらなかっただけ。


その事実が証明され続けていた。



マイケルも教師として成長していた。


「次。」


「光属性。」


「索敵魔法。」



若い村人達が集中する。


光が灯る。


失敗する。


やり直す。


また失敗する。


また挑戦する。



誰も笑わない。



なぜなら。


全員が同じ道を通ったから。



エルナもいた。


リーンもいた。


リーザもいた。


リーブもいた。



かつて戦えなかった者達。


今では普通に魔法を扱う。



自己防衛。


仲間を守る力。


それを身につけている。



エミリーが巡回していた。


狼獣人の女戦士。


かつては村を一人で守ろうとしていた。


今は違う。



仲間がいる。


部下がいる。


後輩がいる。



「焦らなくていい。」


「一歩ずつ。」


「昨日より少し強くなればいい。」



優しい声だった。



昔のエミリーなら言えなかった。



環境が彼女も育てた。



その様子を遠くから見る者がいた。


エレノア・グランディア侯爵。



七十代後半。


だが。


見た目は四十代前半。



長命化。


若返り。


健康化。



食事。


治療。


魔力循環。


生活環境。


全てが作用した結果だった。



杖を持つ必要もほぼ無くなった。



「信じられませんね。」



エレノアは呟く。



昔の貴族社会。



人は生まれで決まった。



才能も。


地位も。


未来も。



だが。


この村は違う。



農民が教師になる。



孤児が治癒師になる。



流民が指揮官になる。



元奴隷が職人になる。



獣人が隊長になる。



環境が変わるだけで。


人はここまで変わる。



エレノアは微笑んだ。



「素晴らしいですね。」



近くにいたロバートが笑う。


「まだ途中だ。」



「途中ですか?」



「当たり前だ。」



ロバートは訓練場を見る。



千人近い戦士。



千人近い索敵部隊。



六千人を超える村人。



豊かな農地。



巨大な倉庫。



紡織工房。



鍛冶工房。



治療院。



学校。



公衆浴場。



集合住宅。



何もかも揃っている。



それでも。


ロバートは満足していなかった。



「敵はまだいる。」



「奴隷商も。」



「盗賊も。」



「国境国家も。」



「だから止まらねぇ。」



その言葉に周囲が頷く。



村は変わった。



弱者が集まる場所だった。



今は違う。



弱者が強くなる場所だった。



環境が人を育てる。



教育が人を育てる。



仲間が人を育てる。



そして。


六千人を超えた村は。


さらに大きくなろうとしていた。



次の索敵報告が届く。



まだ拠点がある。



まだ救うべき人がいる。



まだ回収できる資源がある。



ロバートは地図を広げた。



その周囲には。


エミリー。


セリナ。


ソフィア。


カタリナ。


ミシェル。


ガイル。


トミー。


マイケル。


エルナ。


エレノア。


多くの仲間達。



誰も怯えていない。



誰も諦めていない。



六千人を超える共同体は。


もう貧困村ではなかった。



人を育てる国。


その入口に立っていた。








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