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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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59話 奴隷商壊滅

夜明け前。


空はまだ暗い。


冷たい風が草原を撫でていた。


国境国家の西部。


山間部に築かれた奴隷商拠点。


そこは長年、多くの人々を苦しめてきた場所だった。


獣人。


エルフ。


人族。


魔族。


流民。


孤児。


戦災難民。


食うために旅へ出た者。


家族を失った者。


病で村を追われた者。


弱い者達が捕らえられ、売られ、消えていった。


奴隷商達にとっては金だった。


数字だった。


商品だった。


だが。


この日。


その拠点は終わる。



丘の上。


索敵部隊が伏せている。


隊長はミシェルだった。


鳥人族。


空を飛び。


風を読み。


遠くを見る。


村最強クラスの索敵能力を持つ女。


彼女の周囲には百名以上の索敵兵がいる。


全員が教育を受けていた。


全員が魔法を扱える。


全員が超能力を扱える。


かつて農民だった者もいる。


元盗賊もいる。


元流民もいる。


今は違う。


村人だった。



「確認完了。」


ミシェルが静かに言う。


「敵戦力百三十六。」


「奴隷三百七十八。」


「地下牢確認。」


「周囲の伏兵なし。」



念話が飛ぶ。


テレパシー。


教育によって習得した超能力。


即座に戦闘部隊へ伝達される。



ロバートが頷いた。


「了解。」



魔族の将軍。


五百人の戦闘部隊を率いる男。


彼の後ろには戦士達が並ぶ。



エミリー。


リーヴ。


ティグリス。


ソフィア。


カタリナ。


ガイル。


そして多くの村人達。



誰も緊張していない。



理由は単純だった。


敵が弱い。



昔なら違った。


村人は怯えた。


逃げた。


泣いた。


奪われた。



今は違う。



環境が人を育てた。


教育が人を育てた。


訓練が人を育てた。



ロバートが剣を抜く。


「開始。」



それだけだった。



瞬間。


戦闘部隊が動く。



風魔法。


身体強化。


筋肉強化。



人間離れした速度。



見張りが気付く。


「敵――」



言い終わらない。



風刃。


ウォーターバレット。


ストーンバレット。



無数の魔法が飛ぶ。



見張り塔が崩壊した。



奴隷商達が飛び起きる。


「襲撃だ!」


「敵だ!」


「武器を持て!」



遅い。



エミリーが突入する。


狼獣人。


親分としての風格が既にあった。



身体強化。


筋肉強化。


風属性付与。



剣が走る。



一撃。


二撃。


三撃。



敵が倒れる。



リーヴも続く。


風の刃。


風の弾。


風の拘束。



逃げる敵を吹き飛ばす。



ソフィアは正面突破だった。


巨大な斧槍が振るわれる。



防壁。


門。


武器庫。



全てが吹き飛ぶ。



カタリナは笑っていた。


「弱いな。」



グレイブが舞う。



敵が宙を飛ぶ。



ガイルは戦斧を振るう。


「鍛冶屋に良い鉄を持って帰るぞ!」



敵より鉄の方が気になる。


ドワーフらしい。



十分後。


戦闘終了。



敵戦力。


壊滅。



逃亡者。


ゼロ。



死傷者。


戦闘部隊側。


ゼロ。



ロバートは周囲を見る。


「地下牢を開けろ。」



戦士達が動く。



鉄格子。


鉄扉。


鉄鎖。



全て破壊される。



中には痩せた人々がいた。



獣人。


エルフ。


人族。


魔族。



皆。


怯えている。



当然だった。



今まで助けられた経験など無かった。



奪われるだけだった。



その時。


マイケルが前へ出る。



治癒師。


教師。


かつて泣き虫だった青年。



今は違う。



「大丈夫です。」


「助けに来ました。」



ヒール。



光が広がる。



傷が癒える。



痩せた身体に力が戻る。



泣き出す者がいた。



崩れ落ちる者もいた。



マイケルは支える。



かつて助けられた少年は。


今度は人を助けていた。



エルナも駆け寄る。



温かい毛布。


水。


食事。



優しい言葉。



村の母性。


その才能が花開いていた。



「もう大丈夫ですよ。」



その言葉で泣く者がいた。



何年も聞かなかった言葉だった。



救出完了。



そして。


ここからが村らしかった。



ロバートが命じる。


「回収開始。」



全員が動く。



武器。


鎧。


盾。


鉄格子。


鉄扉。


鉄鎖。


鉄杭。


鉄製家具。



全て回収。



アイテムボックス。



収納。


収納。


収納。



どんどん消える。



何も残らない。



ガイルが笑う。


「こりゃ工房が喜ぶぞ。」



ベルンも頷く。


「鋼材不足が一気に解消する。」



村は鉄を無駄にしない。



敵ですら資源になる。



徹底した合理主義。



やがて。


拠点内部は空になった。



本当に空だった。



武器が無い。



鉄が無い。



奴隷がいない。



食料も無い。



資材も無い。



金貨も無い。



何も無い。



建物だけが残る。



トミーが笑った。


「盗む側が盗まれる気分はどうだろうな。」



誰かが吹き出した。



事実だった。



この拠点は終わった。



再建できない。



鉄が無い。



金が無い。



人が無い。



商品だった奴隷もいない。



商売にならない。



ロバートは遠くを見る。



「一つ。」



静かに呟く。



「まず一つだ。」



国境国家には。


まだ多くの拠点がある。



奴隷市場。


密輸港。


盗賊団。


傭兵団。



だが。


それらは繋がっている。



一つ失えば弱る。



二つ失えば苦しくなる。



三つ失えば崩れ始める。



十失えば立てなくなる。



だから焦らない。



一つずつ。


確実に。



削る。



村が得意なのは戦争ではない。



改善だ。



最適化だ。



教育だ。



そして。


相手を少しずつ機能不全にすることだった。



救出された奴隷達を乗せた馬車が動き出す。



向かう先は村。



病が治る場所。



飢えない場所。



学べる場所。



働ける場所。



家族を作れる場所。



五千人を超える人々が暮らす共同体。



かつての貧困村。



今は違う。



人材を育てる村だった。



後方。



ケルナインは何も言わない。



ただ静かに見ている。



ロバートが決めた。



皆が動いた。



皆が考えた。



それで良かった。



環境が人を育てる。



その証明が。


目の前にあった。



奴隷商拠点。


壊滅。



そして。


国境国家が失ったものは。


一つの拠点だけではなかった。



未来だった。







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