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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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58話 国境国家関与

夜だった。


会議室には明かりが灯っている。


かつては数十人しか住まなかった貧困村。


今では五千人を超える人々が暮らしている。


農業革命は成功した。


食料充足率は二〇〇%を超えている。


紡織産業は急成長を続けている。


治療院は病を減らした。


公衆浴場は衛生を変えた。


学校は人を育てた。


そして今。


村は新たな敵に向き合おうとしていた。


黒幕である。



大きな円卓。


その周囲に集まる村の中核。


ロバート。


エミリー。


セリナ。


トミー。


ミシェル。


マイケル。


エルナ。


エレノア・グランディア侯爵。


そしてケルナイン。


だが。


ケルナインは何も言わない。


会議の中心にいるのは別の者達だった。



セリナが資料を広げる。


「調査結果がまとまりました。」


全員の視線が集まる。


ダークエルフの頭脳は既に村の中核だった。


「奴隷商。」


「盗賊団。」


「傭兵崩れ。」


「流民狩り。」


「人身売買。」


「これらは全て繋がっています。」


静寂。


そして。


セリナは地図の一点を指した。


「黒幕は国境国家です。」



空気が変わる。


誰も驚かなかった。


むしろ納得していた。


これだけ大規模な犯罪。


個人でできるはずがない。


盗賊団だけで成立するはずもない。


国家規模の支援が必要だった。



ミシェルが資料を追加する。


「確認済みの奴隷市場二十六。」


「盗賊団百三十二。」


「密輸組織三十八。」


「傭兵団十七。」


「全て国境国家へ資金が流れています。」



エミリーが歯を食いしばる。


「リーヴの村。」


「ティグリスの村。」


「他にも滅んだ村があった。」


「全部あいつらか。」


「その可能性は高いです。」


セリナが答えた。



マイケルは資料を見る。


そこには数字が並んでいた。


売られた子供。


売られた女性。


売られた獣人。


売られたエルフ。


売られた農民。


数字は数千。


いや。


数万に届いていた。



エルナが静かに呟く。


「酷い……。」


優しい彼女の声が震える。



そこで。


ロバートが立ち上がった。


魔族。


大剣使い。


かつて流浪の冒険者だった男。


今は違う。


五百人の戦闘部隊を率いる将軍だった。



全員の視線が集まる。


ロバートは地図を見る。


そして口を開いた。


「殲滅しない。」



会議室が静まる。


エミリーが眉を上げる。


「どういう意味だ?」



ロバートは地図の上を指でなぞる。


「一気に潰すと敵は団結する。」


「追い詰められた獣は暴れる。」


「それは損だ。」



彼は将軍だった。


だから知っている。


勝つことと暴れることは違う。



「削る。」


ロバートは言った。


「少しずつだ。」


「確実にだ。」



地図に印を付ける。


最初の印。


奴隷市場。


「まずここを潰す。」


次。


密輸港。


「次にここ。」


次。


盗賊団。


「次にここ。」


次。


傭兵団。


「ここもだ。」



トミーが笑った。


「商売と同じだな。」


ロバートも頷く。



「市場を失う。」


「輸送路を失う。」


「護衛を失う。」


「利益を失う。」


「信用を失う。」


「人材を失う。」



「最後に国家を失う。」



誰も反論しない。


合理的だった。



セリナが頷く。


「賛成です。」


「索敵部隊五百で全拠点を監視できます。」



ミシェルも続く。


「補給路も把握済みです。」


「密輸路も見えています。」



エミリーも立ち上がる。


「戦闘部隊五百。」


「いつでも動ける。」


「防衛戦じゃない。」


「今度は守るために攻める。」



その言葉に全員が頷いた。



そこで。


エレノア・グランディア侯爵が立ち上がった。



その姿に。


新しく来た移住者達は今でも驚く。


なぜなら。


彼女は七十代後半だからだ。



だが。


誰もそうは見えない。



白銀の髪。


張りのある肌。


美しい姿勢。


強い瞳。


四十代前半にしか見えない。



老女ではない。


成熟した美女だった。



長年の病。


栄養不足。


疲労。


全てが村で消えた。



治療院。


食事。


魔力循環。


身体強化。


生活環境。



全てが重なった結果。


肉体年齢そのものが若返っていた。



リーンが以前言った。


「エルフ化に近い状態です。」



耳は尖らない。


だが。


寿命が延びる。


老化が遅くなる。



エレノア自身も困惑していた。



しかし。


今では受け入れている。



「後ろ盾なら任せなさい。」


その声には力があった。



「王都にも話は通せる。」


「味方の貴族もいる。」


「国境国家は嫌われている。」


「奴隷商を守る国家など本来存在してはならない。」



会議室に安心感が広がる。



政治。


軍事。


経済。


情報。



全てが揃っていた。



トミーが笑う。


「俺達。」


「村じゃなくなったな。」



誰も否定できなかった。



人口五千。


戦闘部隊五百。


索敵部隊五百。


学校。


治療院。


工房。


紡織工場。


公衆浴場。


集合住宅。



国家の形が出来始めている。



だが。


ケルナインは何も言わない。



ロバートが振り返る。



「ケルナイン。」



初めて全員が彼を見る。



「俺達はこのやり方で行く。」



それは確認ではない。


命令を求める言葉でもない。



報告だった。



自分達で決めた。


自分達で考えた。


自分達で責任を持つ。



その報告だった。



ケルナインは静かに頷く。



「そうか。」



それだけだった。



しかし。


全員が笑った。



昔なら違った。



誰かが答えを求めた。


誰かが指示を待った。


誰かが責任を押し付けた。



今は違う。



環境が人を育てた。


教育が人を育てた。


仲間が人を育てた。



ロバートは将軍になった。


エミリーは指揮官になった。


セリナは参謀になった。


トミーは商人になった。


マイケルは教師になった。


エルナは人を支える存在になった。



そして。


村は一つになった。



敵は国境国家。



だが怖くない。



戦闘部隊五百。


索敵部隊五百。


五千人の村人。


そして同じ未来を見る仲間達。



一度に潰さない。


少しずつ。


確実に。



市場を削る。


物流を削る。


利益を削る。


人材を削る。


戦力を削る。



最後に国家を削る。



国境国家はまだ気付いていない。



自分達が狙われていることを。



貧困村だと思っていた場所が。


いつの間にか。


自分達を喰らう存在へ変わっていたことを。







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