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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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57話 黒幕判明

村は豊かになった。


かつて貧困村と呼ばれた場所は、もはや存在しない。


人口は五千人を超えた。


食料充足率は二〇〇%を維持している。


農業革命は完全に成功した。


農地は広がり続けている。


水属性魔法による灌漑。


土属性魔法による開墾。


光属性魔法による病害対策。


村の農民たちは、もはや普通の農民ではなかった。


教育を受けた農業技術者であり、魔法使いであり、防衛戦力でもある。


紡織産業も拡大していた。


獣人たちが育てた繊維。


エルフたちの織布技術。


ドワーフたちの機械化技術。


全てが結び付き、村の産業は急速に発展していた。


貧困は消えた。


病も減った。


飢える者もいない。


だからこそ。


村は次の段階へ進んでいた。


敵を知る段階へ。



村の会議室。


長机を囲むように主要人物が集まっていた。


エミリー。


セリナ。


ロバート。


トミー。


マイケル。


ミシェル。


エレノア・グランディア侯爵。


そしてケルナイン。


部屋の中央には巨大な地図が広げられている。


静かな空気。


誰も軽口を叩かない。


今回の議題が重大だからだ。


セリナが口を開いた。


「調査結果がまとまりました。」


ダークエルフの冷静な声が響く。


部屋全体の視線が集まる。


「奴隷商。」


「盗賊。」


「傭兵崩れ。」


「流民狩り。」


「人身売買。」


「これらは別組織ではありません。」


沈黙。


セリナは地図の一点を指した。


「全て同じ資金源です。」


「背後に黒幕がいます。」


部屋の空気が変わった。



トミーが目を細める。


「やっぱりな。」


「おかしいと思ってたんだ。」


「動きが統一され過ぎてた。」


セリナは頷く。


「はい。」


「普通の盗賊なら縄張り争いをします。」


「普通の奴隷商なら利益を優先します。」


「ですが彼らは違いました。」


地図に印が増えていく。


「複数の街。」


「複数の奴隷市場。」


「複数の盗賊団。」


「全て同じ方向へ人を流していました。」



エレノア侯爵が杖を握る。


老いた瞳に怒りが宿る。


「やはりか。」


「わしが王都で反対していた時代から変わっておらぬ。」


静かな声だった。


しかし重みがあった。


「人を家畜のように扱う者たちがおる。」


「その連中が生き残っていたか。」



セリナはさらに資料を広げた。


「黒幕は辺境諸国の複数貴族。」


「そして奴隷市場を運営する商人連合。」


「さらに傭兵国家の軍閥。」


「三者が結託しています。」


誰も驚かなかった。


怒りはある。


だが驚きはない。


村人の多くが被害者だからだ。



エミリーが静かに拳を握った。


狼耳がわずかに動く。


「リーヴの村も。」


「ティグリスの村も。」


「全部繋がってたのか。」


「その可能性が高いです。」


セリナは断言した。



マイケルが資料を見る。


かつて泣き虫だった少年はもういない。


教師。


治癒師。


そして村の幹部の一人。


「じゃあ。」


「奴隷商を潰しても終わらない。」


「元を断たないと駄目なんですね。」


セリナは微笑んだ。


「その通りです。」



会議室に沈黙が落ちる。


皆が考える。


誰かが答えを待つわけではない。


この村は変わった。


命令待ちの集団ではない。


自分で考える。


自分で判断する。


それが教育の成果だった。



最初に口を開いたのはロバートだった。


「潰す。」


短い。


単純。


しかし全員が理解した。


「奴らを残せばまた被害者が出る。」


「なら終わらせる。」


誰も反対しなかった。



トミーが笑う。


「商売的にも邪魔だ。」


「まともな商人は奴隷なんて扱わねぇ。」


「市場を歪める。」


「物流も荒らす。」


「害悪だ。」



エミリーも頷く。


「戦う。」


「でも今回は守るためじゃない。」


「終わらせるためだ。」



その言葉に全員が頷いた。



ミシェルが報告する。


「索敵部隊。」


「現在五百名。」


「全員が探索魔法を使用可能。」


「透視。」


「念聴。」


「遠隔透視。」


「危機感知。」


「運用可能です。」


会議室が静かにざわめいた。


五百人。


普通なら国家級戦力である。



続いてロバート。


「戦闘部隊。」


「五百名。」


「身体強化。」


「筋肉強化。」


「各属性魔法。」


「近接戦。」


「集団戦。」


「全員訓練済み。」


こちらも国家級。


もはや村ではない。


一つの軍事組織だった。



しかし誰も慢心していない。


理由は簡単。


教育されているからだ。


強さは自慢するものではない。


責任だからだ。



エレノア侯爵が立ち上がった。


老女とは思えぬ威厳。


貴族としての格。


長年積み重ねた経験。


全てが滲み出る。


「後ろ盾なら任せよ。」


「正式な書状も出す。」


「貴族連中が文句を言うならわしが相手をする。」


部屋の空気が軽くなる。


侯爵という地位は大きい。


それも民を守る側の侯爵だ。



エミリーが微笑む。


「助かります。」


「怖くありませんか?」


誰かが尋ねた。


エレノアは笑った。


「怖い?」


老女は首を横に振る。


「わしは若い頃から奴隷制度に反対してきた。」


「今さら怖がる理由などない。」


「むしろ。」


「ようやく戦える。」


その瞳は燃えていた。



会議は深夜まで続いた。


索敵。


補給。


情報収集。


捕虜救出。


住民保護。


交易路確保。


全てが議論される。


誰か一人の指示ではない。


全員で作る計画だった。



そして。


最後までケルナインはほとんど喋らなかった。


ただ聞いていた。


見ていた。


皆が考えている。


皆が成長している。


皆が判断している。


それで十分だった。



会議終了後。


ケルナインは夜空を見上げた。


星が輝いている。


後ろからエミリーが歩いてくる。


「みんな強くなったな。」


彼女は言った。


ケルナインは頷く。


「そうだな。」


「俺がいなくても動ける。」


エミリーは笑った。


「それがあんたの望みだったんだろ?」


「そうだ。」


短い返事。



環境が人を育てる。


才能が人を作るのではない。


環境が作る。


教育が作る。


仲間が作る。


責任が作る。


この村はそれを証明していた。



翌朝。


索敵部隊五百名。


戦闘部隊五百名。


全員が広場に集まった。


誰一人として怯えていない。


誰一人として逃げようとしない。


守りたいものがあるからだ。


家がある。


家族がいる。


仲間がいる。


未来がある。



ロバートが剣を掲げる。


エミリーが前へ出る。


セリナが資料を配る。


ミシェルが索敵網を展開する。


エレノア侯爵が正式支援を宣言する。



村人たちは理解していた。


これは復讐ではない。


次の被害者を出さないための戦いだ。



かつて貧困村だった集落は。


今や五千人を超える共同体となった。


農業革命を成し遂げた村。


紡織産業を持つ村。


教育を持つ村。


治療院を持つ村。


防衛力を持つ村。


そして。


仲間を守る意志を持つ村。



黒幕は判明した。


次は終わらせる番だった。







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