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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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55話 育つ者たち

人口五千人突破。


その報告は、もはや驚きではなかった。


村の中央広場。


朝の掲示板には新しい数字が張り出されている。


人口 五千二百三十四人


食料充足率 二〇三%


教師数 一二四七人


戦闘部隊 五百二十名


索敵部隊 五百三十五名


治療院稼働率 安定


犯罪率 極小


飢餓者 ゼロ


村人たちは数字を見て頷く。


誰も騒がない。


誰も浮かれない。


当たり前になっているからだ。


だが。


数年前を知る者たちは理解していた。


これは奇跡ではない。


積み重ねの結果だ。


かつては貧困村だった。


食べ物がなかった。


病人が溢れていた。


盗賊に怯えていた。


奴隷商に怯えていた。


その村が今では五千人を養っている。


しかも食料は余っている。


農業革命。


教育。


物流。


医療。


治安。


全てが噛み合った結果だった。



訓練場。


朝から大勢の村人が集まっている。


戦闘部隊。


索敵部隊。


そして非戦闘職。


全員が整列していた。


エミリーが前へ出る。


狼獣人の女性。


かつては村を守るため一人で無茶をしていた。


今は違う。


部隊長として数百人を率いている。


「今日は防衛訓練だ。」


静かな声。


だが全員に届く。


「敵は選ばない。」


「農民だから襲われない訳じゃない。」


「教師だから襲われない訳じゃない。」


「治癒師だから襲われない訳じゃない。」


誰も反論しない。


それは事実だからだ。


奴隷商は弱者を狙う。


盗賊も弱者を狙う。


だから最低限の自衛は必要だった。



最前列。


マイケル。


エルナ。


エルフ薬師リーン。


リーザ。


リーブ。


リーン。


そして。


エレノア・グランディア侯爵。


老女侯爵まで並んでいた。


若者たちは少し緊張している。


だがエレノア本人は平然としていた。


「生涯学習ですな。」


微笑みながら木剣を持つ。


周囲が苦笑する。



訓練開始。


まずは身体強化。


全員が魔力を循環させる。


魔力循環。


身体強化。


筋肉強化。


基本中の基本。


しかし重要だった。


エミリーは繰り返し教える。


「力を入れすぎない。」


「流す。」


「循環させる。」


「焦らない。」


何度も。


何度も。


何度も。


繰り返す。



マイケルが汗を流す。


以前ならすぐに倒れていた。


今は違う。


魔力の流れが安定している。


身体も強くなった。


教師。


治癒師。


その肩書きは変わらない。


だが。


もう弱者ではなかった。



エルナも努力している。


優しい女性だった。


争いは苦手。


戦いも嫌い。


それでも剣を振る。


なぜなら守りたいものがあるから。


孤児たち。


治療院。


村人たち。


そのために強くなる。


エミリーはそれを知っていた。


だから優しく指導する。


「上手くなってる。」


「焦らなくていい。」


「昨日より良い。」


その言葉だけでエルナは頑張れる。



リーンも変わった。


薬師として有名になっている。


だが薬師だけでは足りない。


薬を作る前に襲われたら終わりだからだ。


だから学ぶ。


剣。


魔法。


超能力。


全て。



リーザも。


リーブも。


同じだった。


エルフは元々身体能力が高い。


魔法適性も高い。


教育が加わると伸び方が異常だった。



「風刃!」


リーザが放つ。


風の刃が飛ぶ。


以前とは比較にならない。


精度が違う。


速度が違う。


威力が違う。



リーブも放つ。


風弾。


風壁。


身体強化。


どんどん使いこなしていく。



エミリーは満足そうだった。


才能があったからではない。


続けたからだ。



そして。


最も変化したのはエレノアだった。


老女侯爵。


白髪。


杖。


誰が見ても戦士には見えない。


しかし。


身体強化を使う。


光属性魔法を使う。


浄化を使う。


念話も使う。


訓練を続けた結果だった。



「若い頃に学びたかったですな。」


エレノアが笑う。


「今からでも遅くない。」


エミリーも笑う。


その言葉に周囲も頷く。


この村では年齢は理由にならない。


学ぶ意思があるか。


それだけだった。



午後。


模擬戦。


戦闘部隊が相手を務める。


もちろん手加減あり。


しかし本気で動く。



マイケルが前に出る。


治癒師。


教師。


だが戦える。


光盾。


身体強化。


光弾。


連携も良い。



エルナは後方支援。


治癒。


防御。


補助。


まさに治療院の要だった。



リーンたちは魔法支援。


風。


光。


水。


様々な魔法を使う。



戦闘部隊も驚いていた。


「強くなったな。」


「前は守る側だったのに。」


「今は普通に戦力だ。」



夕方。


訓練終了。


全員が疲れている。


だが表情は明るい。


強くなった実感があるからだ。



エミリーは訓練場を見渡す。


五千人。


そのうち誰もが最低限戦える。


魔法を使える。


超能力を使える。


連携できる。



かつての貧困村ではない。


誰か一人の英雄が守る村でもない。


皆で守る村だ。



ケルナインは遠くからそれを見ていた。


相変わらず口は出さない。


指示もしない。


命令もしない。


必要ないからだ。



環境を整える。


教育する。


機会を与える。


その後は人が育つ。



マイケルが育った。


エルナが育った。


リーンが育った。


エレノアが育った。


エミリーも育った。


そして村そのものが育った。



夕陽が訓練場を赤く染める。


五千人の村。


誰もが学び。


誰もが成長し。


誰もが未来を作る。


それが今の村だった。


そしてその成長は。


まだ始まったばかりだった。







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