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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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53話 後始末

奴隷商拠点制圧から一夜。


夜明けの光が森を照らしていた。


戦いは終わっている。


奴隷たちは救出された。


敵は壊滅した。


普通ならここで帰る。


だが、この村の人間たちは違った。


ロバートは周囲を見渡した。


「作業開始だ。」


短い号令。


それだけで全員が動く。


もう説明はいらない。


教育されているからだ。


何を優先するべきか。


何が危険か。


どうすれば村の利益になるか。


全員が理解していた。


まず回収。


戦場には大量の武器が残っていた。


剣。


槍。


斧。


盾。


鎖。


鉄杭。


鉄格子。


奴隷用の首輪。


足枷。


手枷。


どれも鉄だ。


そして鉄は資源だった。


「全部持ち帰る。」


ロバートが言う。


隊員たちが頷く。


誰も反対しない。


鉄は畑から生えない。


掘るにも人手がいる。


精錬にも技術がいる。


ならば敵が集めた鉄を使えばいい。


戦闘部隊。


索敵部隊。


全員がマジックバッグを持っていた。


さらに隊長と副長たちはアイテムボックスを持つ。


収納能力は桁違いだった。


巨大な鉄格子が消える。


地下牢の扉が消える。


鉄製の檻が消える。


鎖が消える。


武器庫が空になる。


まるで建物そのものが削り取られていくようだった。


ソフィアが笑う。


「敵からすると悪夢だな。」


カタリナも笑った。


「ここまで徹底するとは思わなかった。」


「残す理由がない。」


ティグリスが答えた。


それで話は終わる。


本当にその通りだった。


残せば誰かが使う。


盗賊が来るかもしれない。


別の奴隷商が住み着くかもしれない。


なら空にする。


それだけだった。


索敵部隊も動いていた。


ミシェルが上空から周辺を確認する。


透視。


念聴。


遠隔透視。


複数の能力を重ねる。


「地下倉庫発見。」


念話が飛ぶ。


即座に共有される。


隊員たちが向かう。


地下には大量の物資があった。


鉄塊。


鉄板。


農具。


木材。


保存食。


水樽。


奴隷商は長期活動を前提としていたらしい。


だから備蓄も多い。


それも全部回収。


必要な物は使う。


不要な物は解体。


村の資源になる。


誰も遠慮しない。


悪党の財産だからだ。



昼前。


別の問題が発生する。


死体だった。


百名以上。


戦闘で倒れた奴隷商。


傭兵。


盗賊。


森の中に転がっている。


普通なら埋葬。


焼却。


そうなる。


しかしセリナは首を振った。


「放置は危険。」


ロバートも頷く。


この世界にはアンデッドが存在する。


死体が魔力を吸う。


死霊術師が利用する。


魔物が寄ってくる。


最悪の場合。


アンデッド化する。


「全部回収する。」


決定は早かった。



隊員たちは死体を回収していく。


嫌な作業だった。


誰も好きではない。


しかし必要な仕事だった。


教育とはそういうものだ。


格好いい仕事だけではない。


誰かがやらなければならない。


だからやる。


ロバートも運ぶ。


ティグリスも運ぶ。


エミリーも運ぶ。


副長だからやらない。


そんな考えは存在しなかった。



アイテムボックスが活躍する。


保護機能。


隔離機能。


収納機能。


死体も安全に運べる。


衛生問題もない。


病気も広がらない。


村に持ち帰った後で処理できる。



夕方。


奴隷商拠点は完全に空になった。


武器なし。


鉄なし。


物資なし。


死体なし。


奴隷なし。


人もいない。


建物だけが残っている。


ロバートは周囲を見た。


「終わったな。」


「綺麗さっぱり。」


ソフィアが笑う。


「盗賊が来ても泣くだろうな。」


「何もない。」


カタリナも肩をすくめた。


実際そうだった。


価値のあるものは全て回収された。



帰還。


村へ戻る。


荷物は大量。


しかし問題ない。


アイテムボックス。


マジックバッグ。


収納能力は圧倒的だった。


荷車すら不要。


馬車すら不要。


人だけで運べる。



帰還すると工房が騒がしくなった。


ベルンが目を見開く。


「なんだこれは。」


大量の鉄。


大量の鉄板。


大量の武器。


大量の鎖。


大量の金属。


山のようだった。


ガイルが笑う。


「全部使えるぞ。」


ベルンの顔が変わる。


職人の顔だった。


「分解班!」


「選別班!」


「精錬班!」


「全員集まれ!」


工房が一斉に動き出す。



鉄は溶かされる。


不純物が除去される。


精製される。


より良い鉄になる。


さらに鋼になる。


武器になる。


農具になる。


建材になる。


生活用品になる。


村の力になる。



ドワーフたちも興奮していた。


バルド。


グラン。


ベルン。


若い職人たち。


全員が忙しく動く。


「これだけあれば半年分の素材になる。」


「いや一年分だ。」


「農具も増やせる。」


「鍋も作れる。」


「釘も作れる。」


「建築が進むぞ。」


笑顔が広がる。



一方。


トミーは別の計算をしていた。


帳簿を眺める。


回収量。


加工量。


消費量。


在庫量。


全て確認する。


商売スキルが働く。


数字が見える。


流れが見える。


「足りなかった鉄問題が消えたな。」


誰に言うでもなく呟く。


これで生産能力が上がる。


建築速度も上がる。


農具も増える。


結果として食料も増える。



農業区画。


こちらも変化していた。


農業革命は続いている。


新しい農具。


新しい灌漑設備。


新しい倉庫。


全て鉄を使う。


だから今回の回収は大きかった。



紡織工房も同じだった。


機織り機。


糸車。


部品。


全て金属が必要になる。


職人たちは喜んでいた。


生産力が上がるからだ。



夜。


村では報告会が行われる。


ケルナインも出席していた。


相変わらず静かだった。


前には出ない。


自慢もしない。


功績も語らない。


ただ報告を聞く。



ロバートが結果をまとめる。


「救出成功。」


「奴隷全員保護。」


「敵勢力壊滅。」


「武器回収完了。」


「鉄資源回収完了。」


「死体回収完了。」


簡潔だった。


十分だった。



ケルナインは一度だけ頷く。


それで終わりだった。


指示はない。


命令もない。


もう必要ないからだ。



村人たちが考える。


村人たちが動く。


村人たちが改善する。


それが今の村だった。



かつては貧困村だった。


病に苦しんだ。


食料もなかった。


盗賊に怯えた。


奴隷商に怯えた。


毎日が生き残るための戦いだった。



今は違う。


敵を倒す。


救出する。


資源を回収する。


加工する。


生産する。


さらに豊かになる。


循環が生まれていた。



教育が人を変えた。


環境が人を育てた。


そして育った人々が。


村をさらに強くしていく。


奴隷商の拠点が消えたその日。


村はまた一段階、大きな国家への道を進んでいた。







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