52話 救出作戦開始
夜。
月明かりが森を照らしていた。
風は弱い。
雲も少ない。
作戦には絶好の条件だった。
奴隷商アジト殲滅作戦。
救出対象八十四名。
敵勢力百二十七名。
逃走経路封鎖済み。
索敵完了。
配置確認済み。
準備は整っていた。
ロバートは森の中で部隊を見渡した。
かつてなら考えられない光景だった。
戦闘部隊三百。
索敵部隊三百。
全員が魔法を使える。
全員が超能力を扱える。
全員が飛行可能。
そして。
全員が自分で考えて動ける。
「開始する。」
短い言葉だった。
しかし十分だった。
念話が広がる。
テレパシー。
村全体で共有されている超能力。
各隊長。
各副長。
各班長。
全員が同時に理解する。
命令は最小限。
それでも動ける。
教育が行き届いているからだった。
◇
空へ。
飛行部隊が静かに浮上する。
風属性。
レビテーション。
飛行魔法。
複数の技術を組み合わせた移動法。
百名以上が音もなく夜空へ消えた。
地上部隊も動く。
エミリー隊。
リーヴ隊。
ティグリス隊。
ソフィア隊。
カタリナ隊。
ガイル隊。
六方向から包囲を開始した。
◇
索敵部隊はさらに先行する。
ミシェルが目を閉じる。
クレヤボヤンス。
透視。
リモート・ビューイング。
遠隔透視。
念聴。
複数の索敵能力が重なる。
奴隷収容施設。
地下牢。
見張り。
武器庫。
全て見えていた。
「位置確認。」
念話が飛ぶ。
即座に全隊へ共有。
◇
地下牢。
そこには八十四人の人間がいた。
痩せ細った者。
傷だらけの者。
泣き疲れた子供。
絶望した老人。
獣人。
エルフ。
人族。
種族は様々だった。
共通しているのは一つ。
全員が奴隷だった。
◇
見張りは何も気付かない。
その瞬間。
影が動く。
シャドウバインド。
ロバート直属の隊員たちだった。
闇属性魔法。
影拘束。
見張りが悲鳴を上げる前に拘束される。
次々と。
静かに。
確実に。
◇
別方向。
エミリー隊。
風刃。
氷縛。
土牢。
敵を殺さない。
まず拘束。
救出優先。
それが今回の作戦だった。
◇
リーヴ隊は屋上制圧。
飛行部隊との連携。
逃亡経路封鎖。
敵が走る。
逃げようとする。
しかし無駄だった。
風牢。
氷牢。
土壁。
三重封鎖。
誰一人逃げられない。
◇
地下施設。
索敵部隊が到達する。
扉は分厚い鉄。
しかし問題ない。
テレキネシス。
念動力。
巨大な鉄扉が軋む。
そのまま開く。
中にいた奴隷たちが震えた。
また売られる。
また殴られる。
そう思った。
しかし違った。
◇
「助けに来た。」
若い隊員が言う。
優しい声だった。
誰も信じない。
当然だった。
何度も裏切られてきた。
◇
そこで副長が前へ出る。
ティグリスだった。
「安心しろ。」
「ここは終わりだ。」
その言葉には力があった。
戦士の言葉だった。
◇
その瞬間。
副長たちの新たな力が発動する。
アイテムボックス。
覚醒。
ケルナインだけの能力ではなくなっていた。
教育。
理解。
魔力操作。
魔力循環。
そして実践。
積み重ねた結果だった。
◇
副長たちは驚かない。
もうそういう村だった。
新しい能力が生まれても。
まず使い方を考える。
◇
アイテムボックス。
生物以外は無限収納。
時間停止。
劣化なし。
保存可能。
そして。
生物保護機能。
◇
「保護対象収納。」
副長が宣言する。
光が走る。
奴隷たちが消える。
しかし苦しんでいない。
恐怖もない。
傷も悪化しない。
安全な保護空間。
それがアイテムボックスだった。
◇
一人。
二人。
十人。
二十人。
八十四人全員。
保護完了。
◇
戦闘部隊は同時に制圧を続ける。
奴隷商たちは混乱していた。
何が起きたか分からない。
索敵能力で完全に読まれている。
飛行部隊が空から監視。
地上部隊が包囲。
逃げ道なし。
◇
ソフィアの斧槍が振るわれる。
氷壁が立つ。
カタリナの土牢が閉じる。
ガイルの石壁が逃走路を塞ぐ。
全て連携。
全て訓練通り。
◇
ロバートは前線を見渡した。
戦場が静かだった。
圧倒している。
だからこそ冷静だった。
◇
敵の指揮官が叫ぶ。
「なぜだ!」
答える者はいない。
理由は単純。
お前たちが人を売ったからだ。
◇
夜明け前。
戦闘終了。
奴隷商組織壊滅。
奴隷全員救出。
村側死者ゼロ。
重傷者ゼロ。
◇
朝。
村へ帰還する。
保護された八十四人はアイテムボックス内で安全を確保されている。
治療もできる。
食事もできる。
恐怖もない。
◇
その頃。
村ではさらに変化が起きていた。
人口増加。
移民流入。
教育拡大。
識字率向上。
技術者増加。
魔法使い増加。
◇
そして。
防衛組織も拡大された。
人口は四千五百人を超えた。
村議会は決定する。
人口の一割を防衛組織にする。
◇
戦闘部隊。
索敵部隊。
それぞれ大幅増員。
新規隊員募集開始。
教育開始。
訓練開始。
◇
さらに。
魔道具工房。
職人たちは大量生産を続けていた。
マジックバッグ。
完成。
完成。
完成。
◇
人数分貸与。
戦闘部隊。
索敵部隊。
全員が携行する。
武器。
食料。
治療薬。
資材。
全て収納可能。
機動力はさらに向上した。
◇
ロバートは新たなマジックバッグを受け取る。
笑う。
「本当に変わったな。」
かつて。
この村は貧困村だった。
病があった。
飢えがあった。
奴隷商に怯えた。
盗賊に怯えた。
◇
今は違う。
村人が守る。
村人が救う。
村人が育つ。
◇
ケルナインは相変わらず前に出ない。
指示もしない。
命令もしない。
ただ育てた。
それだけだった。
◇
そして育った人々が。
今度は誰かを救う側になっていた。
環境が人を育てる。
その証明が。
この救出作戦だった。




