51話 奴隷商アジト発見
春。
人口四千五百人を超えた村は、さらに拡大を続けていた。
農地は増え。
紡織産業は成長し。
魔道具工房は昼夜を問わず稼働している。
かつて貧困村だった面影はもうない。
しかし。
豊かになったからこそ、見逃せない問題があった。
奴隷商である。
人攫い事件から数週間。
索敵部隊は周辺地域の徹底調査を続けていた。
そして。
ついに見つけた。
◇
索敵本部。
大型地図が広げられている。
セリナ。
ミシェル。
ロバート。
エミリー。
ティグリス。
リーヴ。
主要幹部たちが集まっていた。
地図には赤い印が打たれている。
セリナが説明する。
「発見しました。」
静かな声だった。
「奴隷商の拠点です。」
部屋の空気が変わる。
「数は?」
ロバートが尋ねる。
「確認できた人数は百二十七。」
「結構いるな。」
「周辺に見張りが三十名ほど。」
「地下施設あり。」
「奴隷収容施設あり。」
エミリーの表情が険しくなった。
「奴隷は?」
「現在確認できるだけで八十四人。」
部屋が静まり返る。
誰も軽口を言わない。
この村には奴隷商に人生を壊された者が多い。
リーヴもその一人だった。
◇
セリナはさらに資料を並べる。
念写。
遠隔透視。
透視。
念聴。
索敵能力を総動員して集めた情報だった。
「戦力差は?」
ロバート。
「こちらの圧勝です。」
セリナは即答した。
「問題になりません。」
誰も反論しない。
事実だからだ。
戦闘部隊三百。
索敵部隊三百。
全員が魔法を使える。
全員が超能力を使える。
飛行も可能。
装備も整っている。
数年前なら国家戦力だった。
◇
ロバートは腕を組む。
「救出優先だな。」
「そうなります。」
「奴隷を傷付ける訳にはいかん。」
ティグリスも頷く。
「囲んで逃がさねぇ。」
「その後捕縛か?」
セリナは首を横に振った。
「違います。」
「殲滅です。」
部屋が静かになる。
誰も反対しない。
人攫い。
奴隷売買。
村の敵。
答えは決まっていた。
◇
会議は続く。
飛行部隊。
索敵部隊。
地上制圧部隊。
役割が決まっていく。
ロバートが全体指揮。
エミリー隊は東側封鎖。
リーヴ隊は逃走経路封鎖。
ティグリス隊は正面制圧。
索敵部隊は奴隷救出。
明確だった。
◇
同じ頃。
商業地区。
ヴァレリア商会。
マーガレット・ヴァレリアは眉をひそめていた。
目の前に置かれた物を見つめる。
マジックバッグ。
現在村で最も価値のある魔道具。
「欲しいわね。」
正直な感想だった。
商人なら誰でも欲しい。
物流が変わる。
世界が変わる。
それほどの品だ。
◇
向かいに座るトミーは笑った。
「売らねぇ。」
即答だった。
マーガレットはため息を吐く。
「少しは悩みなさい。」
「悩まねぇ。」
「危険だからな。」
トミーの表情は真面目だった。
普段の軽さはない。
「これを外に流したらどうなると思う?」
マーガレットは答えない。
分かっている。
戦争になる。
盗賊が狙う。
国家が狙う。
貴族が狙う。
◇
「今はまだ無理だ。」
トミーは続ける。
「村の防衛が先。」
「技術保護が先。」
「量産体制もまだ完全じゃねぇ。」
マーガレットは黙って聞いていた。
商人だから理解できる。
価値が高すぎる商品は危険なのだ。
◇
「だから売らねぇ。」
再度トミーは言う。
「貸す。」
「貸す?」
「商会用にな。」
マーガレットが目を細める。
「何個?」
「五個。」
「少ない。」
「十分だ。」
トミーは笑った。
◇
五個でも価値は大きい。
輸送効率が激変する。
利益も増える。
商会はさらに成長する。
マーガレットは理解していた。
本来なら手に入らない品だ。
◇
「返却義務あり。」
「転売禁止。」
「分解禁止。」
「貸与品扱い。」
トミーは条件を並べる。
「厳しいわね。」
「当たり前だ。」
「俺らもまだ信用商売なんだ。」
◇
マーガレットは椅子にもたれる。
悔しい。
商人としては買いたい。
独占したい。
利益を得たい。
しかし。
理解もしていた。
今の村は敵に回してはいけない。
◇
理由は単純だった。
強いからではない。
信頼を失うからだ。
今の商会の利益。
物流。
取引。
全部この村との関係で成り立っている。
敵対する理由がない。
◇
「分かった。」
マーガレットは笑った。
「借りる。」
「賢明だな。」
トミーも笑う。
商談成立だった。
◇
夕方。
商会の荷馬車が出発する。
五つのマジックバッグ。
それだけで積載量は大幅に増えていた。
護衛たちは驚く。
商人たちは感動する。
しかし。
誰も所有していない。
貸与品。
それが重要だった。
◇
夜。
索敵本部。
作戦会議は最終段階に入っていた。
セリナが地図を閉じる。
「準備完了。」
ロバートも立ち上がる。
「了解。」
「全隊に通達する。」
◇
外では戦闘部隊が訓練している。
飛行。
索敵。
拘束魔法。
水牢。
氷牢。
土壁。
影拘束。
全て実戦レベル。
誰も慌てていない。
誰も浮かれていない。
勝てるからだ。
だから冷静だった。
◇
かつて。
この村は怯える側だった。
奴隷商を恐れ。
盗賊を恐れ。
病を恐れ。
飢えを恐れた。
今は違う。
学んだ。
育った。
鍛えた。
守る力を手に入れた。
環境が人を育てる。
その結果。
かつて狩られる側だった人々が。
今度は悪を狩る側になろうとしていた。




