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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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50話:覚醒者続々

春の終わり。


かつて貧困村と呼ばれていた土地は、もはや誰もそう呼ばなくなっていた。


人口四千五百人。


農地は地平線まで広がる。


倉庫群は増築を繰り返し、工房街からは朝から晩まで金属を打つ音が響いている。


学校。


治療院。


鍛冶場。


紡績工房。


魔道具工房。


全てが動いていた。


誰か一人の命令ではない。


働く人間が増えたからでもない。


学ぶ人間が増えたからだった。


環境が人を育てる。


その言葉が、もはや理念ではなく現実になっていた。



魔道具工房。


ベルンは巨大な木箱を見ていた。


中には大量のマジックバッグが並んでいる。


十個。


百個。


二百個。


三百個。


そして。


六百個。


「全部完成したぞ。」


職人たちが笑う。


ドワーフ。


ヒューマン。


エルフ。


獣人。


種族は関係ない。


全員が魔道具技師だった。


半年ほど前まで農民だった者。


元冒険者。


流民。


難民。


様々な人間が職人として育っていた。


その結果が六百個のマジックバッグだった。



倉庫前。


ロバートが木箱を確認する。


「全部か?」


「全部です。」


「六百個。」


「戦闘部隊と索敵部隊向けです。」


ロバートは頷いた。


戦闘部隊三百人。


索敵部隊三百人。


ちょうど全員分。


実に分かりやすい。


職人たちは戦場を知らない。


しかし現場が何を必要としているか理解していた。


だから作る。


必要だから作る。


それだけだった。



マジックバッグの効果は大きかった。


食料。


薬品。


予備武器。


防寒具。


水。


全て収納できる。


索敵部隊は行動半径が三倍になった。


戦闘部隊は補給部隊なしで長期間活動できる。


ロバートは笑った。


「便利だな。」


副官のティグリスも笑う。


「もう荷車いらねぇな。」


「本当にそうだ。」


現場の負担が減る。


それは戦力の増加と同じだった。



工房街ではさらに大きな変化が起きていた。


魔道具技師。


その覚醒者が増え続けていた。


千人突破。


もはや珍しくない。


工房へ行けば誰かが魔道具を作っている。


学校へ行けば教材用魔道具を作る教師がいる。


農地へ行けば農業用魔道具を作る農民がいる。


生活の中に魔道具が入り込んでいた。



紡績工房。


リーザが新しい織機を見ていた。


魔力駆動。


念動補助。


高速運転。


従来の三倍。


布が生産される。


服が作られる。


毛布が作られる。


人口増加に対応できる。


「本当に変わったわ。」


リーザは呟く。


隣の女性職人も頷いた。


「昔は服一着作るのに何日もかかったからね。」


今は違う。


魔法。


超能力。


技術。


教育。


全部が噛み合っていた。



人口は増え続けていた。


四千。


四千二百。


四千三百。


四千五百。


数字は毎週更新される。


村の外から人が来る。


理由は単純だった。


食える。


学べる。


働ける。


安全。


この四つが揃っていた。



興味深かったのは移民だった。


到着初日。


読み書きを学ぶ。


魔力循環を学ぶ。


魔力操作を学ぶ。


二日目。


魔法を使う。


もはや珍しい光景ではなかった。


「ファイアバレット!」


若い移民が火球を飛ばす。


周囲の教師たちは特に驚かない。


普通だからだ。


教育を受ければできる。


それを皆知っている。



教師の数も増えていた。


百人。


二百人。


五百人。


そして千人突破。


かつては教師不足だった。


今は違う。


学んだ者が教える。


教えた者がさらに教える。


知識が増殖している。



学校。


マイケルは教室を見渡した。


百人近い生徒。


年齢も様々。


子供。


大人。


老人。


種族も違う。


それでも学ぶ。


文字。


計算。


魔法。


超能力。


農業。


工業。


治療。


戦闘。


必要なことを学ぶ。



「先生!」


生徒が手を上げる。


「どうした?」


「風魔法できました!」


小さな風が発生する。


教室中が笑った。


拍手が起きる。


成功したから。


努力したから。


それだけで十分だった。



エルナは治療院で新人を指導していた。


治癒師の数も増えている。


薬師も増えている。


病で死ぬ人間は激減した。


怪我で働けなくなる人間も減った。


かつての貧困村では考えられない。



リーンも薬草工房で忙しく働いていた。


薬師たちが増えている。


教導スキルの影響も大きい。


教えれば育つ。


育った者が教える。


その循環が止まらない。



夕方。


セリナは報告書を眺めていた。


人口四千五百三十二人。


識字率八十二パーセント。


教師千三十四人。


治癒師四百七十二人。


魔道具技師千百三十六人。


数字が並ぶ。


そして笑った。


「人材が人材を育ててる。」


誰か一人が引っ張っている訳ではない。


村そのものが育成装置になっていた。



夜。


空では飛行部隊が巡回する。


地上では職人が働く。


学校では夜間授業が続く。


治療院には灯りがついている。


魔道具工房では新しい設計図が描かれる。


誰も止まらない。


誰も命令されていない。


必要だから動く。


学んだから動く。


育ったから動く。


それがこの村だった。


かつて貧困に苦しんだ土地。


病に怯えた土地。


人攫いに震えた土地。


今は違う。


四千五百人が学び。


四千五百人が育ち。


四千五百人が次の人材を育てている。


環境が人を育てる。


その証明は、もはや誰にも否定できないほど大きくなっていた。







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