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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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49話:空と念話

人攫い事件から一か月。


村はさらに変化していた。


それも戦争による変化ではない。


教育による変化だった。


かつて貧困村だったこの土地には、今や三千人を超える住民が暮らしている。


農民。


職人。


冒険者。


治療師。


商人。


教師。


獣人。


エルフ。


ドワーフ。


魔族。


様々な者たちが集まり、学び、働き、生きていた。


そして今。


村全体で新たな変化が起きていた。


超能力の覚醒である。



最初に気付いたのは索敵部隊だった。


「聞こえる。」


若い獣人の少女が呟いた。


隣にいた仲間が首を傾げる。


「何が?」


「頭の中。」


その瞬間。


声が聞こえた。


『聞こえる?』


少女は飛び上がった。


目の前の仲間は口を動かしていない。


しかし声は聞こえる。


頭の中に。


『聞こえてる!』


『やっぱり!』


『成功した!』


念話。


テレパシーだった。


その報告は瞬く間に広がった。



同じ頃。


農地でも変化が起きていた。


鍬を持った農民が首を傾げる。


遠くに置いていた木箱が動いた。


最初は風だと思った。


違った。


再び意識する。


木箱が浮く。


ゆっくり。


確実に。


そして自分の元へ移動してきた。


「……あれ?」


周囲の農民たちも驚く。


しかし翌日には十人。


三日後には百人。


一週間後には数百人。


同じ現象が起きていた。


テレキネシス。


念動力。


物を遠隔で動かす超能力。



村役場。


セリナが報告書を確認していた。


数字が並ぶ。


テレパシー覚醒者。


三千百四十二名。


テレキネシス覚醒者。


三千百四十二名。


全住民。


全員だった。


セリナは苦笑する。


「もはや驚く段階じゃないわね。」


隣のロバートも頷いた。


確かに異常だ。


だが理由は分かる。


毎日。


魔力を使う。


毎日。


訓練する。


毎日。


考える。


毎日。


学ぶ。


魔法と超能力の差は小さい。


教育が続けば開花する。


それだけだった。



面白かったのは村人たちの反応だった。


誰も英雄になろうとしない。


誰も神託だと騒がない。


使えるなら使う。


それだけ。


農民は農業で使う。


職人は仕事で使う。


教師は教育で使う。


生活の延長だった。



最も変化したのは物流だった。


荷車置き場。


巨大な木箱が並んでいる。


以前なら十人で運んでいた荷物。


今は違う。


数人が手をかざす。


木箱が浮く。


ゆっくり移動する。


「右。」


「了解。」


念話で意思疎通。


声すら必要ない。


木箱は倉庫へ運ばれる。


荷下ろし時間は半分以下になった。


トミーは満足そうだった。


「こりゃ革命だな。」


商人として理解していた。


物流が変わる。


世界が変わる。



さらに大きかったのは職人たちだった。


鍛冶場。


木工所。


石工所。


紡績工房。


あらゆる職場で共通の現象が起きていた。


魔道具技師。


そのスキル覚醒者が急増したのだ。


百人。


二百人。


五百人。


そして。


千人突破。


誰かが叫んだ。


「また増えたぞ!」


鍛冶師たちは笑った。


職人たちは喜んだ。


この村では職人は尊敬される。


だから才能が伸びる。



ベルンは新しい弟子を見ていた。


十六歳。


元農民。


半年前なら鉄も触ったことがない。


今は違う。


魔力回路を理解している。


魔道具設計図を読める。


魔石の加工もできる。


ベルンは笑った。


「本当に人は育つな。」


隣でガイルも頷く。


「環境だ。」


「才能だけじゃねぇ。」


ドワーフたちも同意した。


この村の強さはそこだった。


育てる。


それができる。



結果として新産業が誕生した。


魔導灯。


魔導通信機。


魔導冷蔵庫。


魔導水車。


魔導織機。


紡織産業は急拡大した。


布の生産量は三倍。


服の供給量も急増。


流民たちは初めてまともな服を着た。


子供たちも冬を越えられる。


豊かさは少しずつ形になる。



一方。


戦闘部隊。


こちらも大きく変わっていた。


風属性。


身体強化。


魔力循環。


そして超能力。


長期間の訓練の結果。


全戦闘員三百人が飛行魔法を習得した。



訓練場。


エミリーが空へ飛ぶ。


後ろには五十人。


さらに五十人。


さらに五十人。


合計三百人。


空を埋める戦士たち。


かつての貧困村では考えられない光景だった。


「隊列維持!」


エミリーの声が響く。


全員が飛ぶ。


全員が念話で繋がる。


全員が魔法を使える。



リーヴが笑った。


「便利になったな。」


「現場まで走らなくていい。」


隣のティグリスも頷く。


以前なら半日。


今は十分。


索敵部隊が発見。


念話で共有。


戦闘部隊が飛行。


即応。


もはや周辺の盗賊は逃げられない。



夕方。


高台。


セリナが村を見る。


灯り。


工房。


畑。


訓練場。


学校。


治療院。


全てが動いている。


誰か一人が動かしている訳ではない。


三千人が動いている。


三千人が学んでいる。


三千人が考えている。


そして三千人が成長している。


それがこの村だった。


かつての世界は才能を信じていた。


才能がある者だけが強い。


そう考えていた。


違った。


才能は育つ。


教育で育つ。


環境で育つ。


学びで育つ。


この村はその証明になりつつあった。


空では飛行部隊が巡回している。


地上では職人が魔道具を作る。


農地では豊かな実りが揺れる。


そして念話網によって三千人が繋がっている。


もうここは貧困村ではない。


人材を育てる都市だった。


環境が人を育てる。


その理念は今、誰の言葉でもなく。


村そのものになっていた。







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