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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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48話:才能は育つ

人攫い事件から十日。


村は以前より静かだった。


だが、それは平和になったからではない。


警戒が日常になったからだ。


索敵部隊三百人。


戦闘部隊三百人。


念話網。


遠隔透視網。


監視体制。


かつて貧困村だった場所は、今や周辺最大級の防衛拠点へ変わりつつあった。


防壁の見張り台。


鳥人族のミシェルが空から戻る。


「北東三十キロ地点。」


「廃鉱山跡地。」


「人の出入りを確認。」


部下が即座に念話を飛ばす。


索敵部隊。


中継班。


司令部。


報告は数秒で共有された。


もう伝令馬は必要ない。


走る必要もない。


念話網が村全体を結んでいる。


司令部ではロバートが地図を見ていた。


机には赤い印が増え続けている。


盗賊拠点。


奴隷商の中継地点。


密売ルート。


闇商人の倉庫。


人攫いを捕らえたことで大量の情報が手に入った。


「十二か。」


ロバートが呟く。


セリナが頷く。


「現在確認済みだけで十二拠点。」


「予想より大きい組織ね。」


「周辺国家にも繋がってる。」


ロバートは鼻を鳴らした。


「どのみち潰す。」


それだけだった。


怒りではない。


判断だ。


この村は人攫いを許さない。


それだけで十分だった。



一方。


村役場。


人口統計の集計が行われていた。


担当はセリナ。


トミー。


マイケル。


各分野の責任者たち。


人口。


三千百四十二人。


半年で六倍近い増加だった。


流民。


難民。


棄民。


冒険者。


職人。


農民。


獣人。


エルフ。


ドワーフ。


魔族。


様々な者たちが集まった。


その結果も興味深かった。


セリナが資料を読み上げる。


「移住者の魔法覚醒率。」


「九十三パーセント。」


室内にいた者たちは頷く。


驚きはない。


予想通りだった。


「高いな。」


ロバートが言う。


「ええ。」


「想定以上ではあるけれど。」


セリナは資料をめくった。


「でも異常ではない。」


その言葉に全員が同意した。


この村では既に魔法は特別ではない。


農民が水を使う。


大工が土を使う。


鍛冶師が火を使う。


治療師が光を使う。


索敵班が風を使う。


生活そのものが訓練だった。


だから移住者も覚える。


当然だった。



農地。


見渡す限りの畑。


水路。


用水池。


倉庫。


以前の数倍。


農業革命は今も続いていた。


若い農民が水球を飛ばす。


別の農民が土壁を作る。


さらに別の農民が風で種を飛ばす。


誰も特別扱いしない。


普通だからだ。


老人が笑う。


「昔は魔法使いなんて王都にしかいなかった。」


若者も笑う。


「今は畑にいますからね。」


周囲も笑った。


事実だった。



治療院。


マイケル。


エルナ。


リーン。


三人が新任治療師を教えている。


「傷の確認。」


「次に浄化。」


「それから治癒。」


若い治療師たちが頷く。


以前なら治療師不足だった。


今は違う。


育成が追いつかない。


教える側が不足していた。


リーンが微笑む。


「薬師も増えましたね。」


「ええ。」


エルナも嬉しそうだった。


かつて病に苦しんだ村。


今は違う。


病人は減った。


治療院は増えた。


薬草畑も増えた。


環境が変わった。


だから人も変わった。



鍛冶場。


ベルンが弟子たちを怒鳴る。


「もっと叩け!」


「鉄は嘘をつかん!」


火花が飛ぶ。


隣ではドワーフたちが酒を飲みながら作業している。


ガイルもいた。


最近では鍛冶師の中から構造理解スキル持ちも増えていた。


精製。


加工。


鍛造。


品質向上。


技術が技術を呼んでいた。



酒蔵。


グランとバルドが樽を確認する。


リーンもいる。


発酵研究は順調だった。


酒。


酢。


味噌。


醤油。


パン。


成果は大きい。


特にパンだった。


酵母の研究が進み、村のパンは別物になっている。


柔らかい。


香りが良い。


保存も効く。


食文化そのものが変わり始めていた。



夕方。


司令部。


ミシェルの部隊が再び戻る。


「奴隷商の拠点を追加確認。」


「南西二十七キロ。」


地図に印が増える。


ロバートは腕を組んだ。


「順調だな。」


「ええ。」


セリナも頷く。


「索敵部隊三百人。」


「効果は予想以上。」


もはや周辺に隠れられる場所は少ない。


念話。


透視。


念聴。


遠隔視。


複数人運用。


それらが組み合わさっていた。



夜。


高台。


セリナが村を見下ろしていた。


灯りが広がる。


三千人の暮らし。


笑い声。


仕事。


学び。


訓練。


昔は何もなかった。


貧困。


飢餓。


病。


人攫い。


盗賊。


それだけだった。


今は違う。


ケルナインは何かを与えた訳ではない。


才能を作った訳でもない。


魔法を授けた訳でもない。


環境を作った。


教育を作った。


学ぶ場を作った。


それだけだ。


そして人は育った。


農民は農業の達人になった。


治療師は患者を救うようになった。


職人は技術を磨いた。


戦士は村を守る力を得た。


人材が育つ。


その結果として村が強くなる。


順番は逆ではない。


村が強いから人が育つのではない。


人が育つから村が強くなるのだ。


セリナは小さく笑った。


「本当に変わったわね。」


遠くで子供たちの笑い声が響く。


その声は未来そのものだった。







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