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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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46話:失踪事件

その異変に最初に気付いたのは、治療院だった。


朝。


エルナが出勤簿を確認していた時だった。


「あれ……?」


手が止まる。


村の若い女性が三人来ていない。


病気かと思った。


しかし違う。


家にも戻っていない。


家族も困惑していた。


「昨日の夕方まではいたんです。」


「夜には帰ると言っていたんですが……」


不自然だった。


村の人口は三千人を超えている。


人の出入りも増えた。


それでも、この村では失踪は珍しい。


なぜなら索敵網があるからだ。


エルナはすぐに治療院を飛び出した。



数十分後。


緊急会議が開かれる。


集まったのはセリナ。


ロバート。


ミシェル。


エミリー。


リーヴ。


ティグリス。


そして各索敵部隊。


「確認できている失踪者は五人。」


セリナが報告する。


部屋の空気が冷える。


五人。


偶然ではない。


事件だった。


ロバートが立ち上がる。


「索敵開始だ。」


即座に全員が動いた。



村の空。


ミシェル率いる鳥人族部隊が飛ぶ。


風属性魔法。


索敵魔法。


透視。


念聴。


遠隔透視。


訓練を重ねた部隊だった。


昔の彼らなら出来なかった。


今は違う。


教育された。


鍛えられた。


環境が人を変えた。



同時刻。


地上。


索敵隊が念話網を構築する。


テレパシー。


遠距離通信。


各隊が位置情報を共有する。


森。


川。


街道。


廃村。


山岳地帯。


全方向へ部隊が広がる。



昼過ぎ。


最初に異変を見つけたのは若い索敵兵だった。


「……いた。」


森の奥。


廃坑近く。


複数の反応。


拘束された女性たち。


そして武装した男たち。


男は震える声で念話を送った。


『発見。』


『発見しました。』


一瞬で通信網に情報が流れる。



ロバートが立ち上がる。


『位置を送れ。』


『了解。』


地図に場所が表示される。


ロバートが笑った。


「見つけたぞ。」



エミリーが立ち上がる。


狼耳が揺れる。


目が鋭くなる。


「全員。」


防衛隊が集まる。


「出る。」


短い命令。


それだけで十分だった。



リーヴも槍を持つ。


「第二隊出撃。」


狼獣人たちが並ぶ。


彼女たちは知っている。


攫われた女たちを放置すればどうなるか。


奴隷。


売買。


暴力。


死。


だから許さない。



森。


人攫いたちは笑っていた。


「今回は当たりだな。」


「若い女ばかりだ。」


「高く売れる。」


下卑た笑い。


その時だった。


風が吹く。


男たちが顔を上げる。


「なんだ?」


次の瞬間。


『テレキネシス。』


森全体から声が響いた。



人攫いの身体が浮く。


「なっ!?」


腕が動かない。


脚が動かない。


首が回らない。


空中に固定される。


完全拘束。


訓練を重ねた村の防衛隊だった。


一人ではない。


二十人。


三十人。


全員で同時に発動する。


集団テレキネシス。



「ば、馬鹿な!」


人攫いが暴れる。


動かない。


動けない。


さらに拘束が重なる。


縄。


影。


土壁。


氷檻。


拘束魔法。


拘束超能力。


次々と重なる。



その中をエミリーが歩く。


狼獣人の女戦士。


かつては一人で村を守ろうとしていた。


今は違う。


後ろには仲間がいる。


隊がある。


村がある。


「女たちを確認しろ。」


「怪我人優先。」


冷静な指示。



リーヴが女性たちを解放する。


「大丈夫です。」


「助けに来ました。」


女性たちは泣き崩れる。



その時。


一人の人攫いが隠し短剣を抜いた。


「死ね!」


エミリーへ向かう。



瞬間。


ズドン。


土の杭が地面から生える。


男が転倒。


ティグリスだった。


虎獣人の女戦士。


「動くな。」


低い声。


さらに。


アースウォール。


男を囲む。


完全封鎖。



「終わりだ。」


ロバートが到着する。


大剣を肩に担ぐ。


人攫いたちは青ざめた。


彼らは理解した。


相手が悪かった。



かつての村なら違った。


守れなかった。


追えなかった。


探せなかった。


助けられなかった。


だが今は違う。


索敵部隊。


通信網。


防衛隊。


訓練。


教育。


全てが機能していた。



夕方。


村へ戻る。


助け出された女性たち。


捕縛された人攫いたち。


長い列ができる。


村人たちが見守る。


怒り。


安堵。


様々な感情が混ざる。



治療院。


エルナが女性たちを診察する。


マイケルもいる。


リーンもいる。


誰も死んでいない。


重傷者もいない。


完全救出だった。



広場。


ロバートが報告する。


「全員保護。」


歓声が上がる。


「人攫いは全員捕縛。」


さらに歓声。



エミリーは静かに空を見る。


昔なら守れなかった。


今は守れた。


それは自分が強くなったからではない。


村が強くなったからだった。



少し離れた場所。


ケルナインは何も言わず見ていた。


彼は戦っていない。


命令もしていない。


ただ育てた。


それだけだった。


だが育った者たちが人を救った。


それで十分だった。



夜。


村には再び平穏が戻る。


見張り塔の灯り。


巡回する防衛隊。


空を飛ぶ索敵部隊。


治療院の灯火。


全てが繋がっている。


人を守る仕組み。


それこそがケルナインの目指したものだった。


環境が人を育てる。


育った人が誰かを守る。


そして守られた者が、また誰かを育てる。


その循環は確実に広がっていた。


かつて貧困と病に苦しんだ村は、今や人攫いすら逃がさない共同体へと変わっていた。







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