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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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45話:教える者たち

朝。


見張り台の鐘が鳴る。


村人たちはいつものように起き出し、畑へ向かい、工房へ向かい、訓練場へ向かっていた。


かつて五百人程度だった村は、今や三千人を超えている。


人。


人。


人。


どこを見ても人だった。


獣人。


エルフ。


ダークエルフ。


ドワーフ。


魔族。


流民。


難民。


元冒険者。


元奴隷。


職人。


農民。


様々な者たちが暮らしている。


かつて貧困と病に苦しんでいた村は、巨大な共同体へと変貌していた。


しかし成長には代償もある。


人口が急増した結果、一時的に食料充足率が百パーセントを割り込んだのだ。


九十七パーセント。


九十五パーセント。


数字だけ見れば危機だった。


だが村は慌てなかった。


ケルナインも慌てなかった。


なぜなら理由が分かっていたからだ。


人が増えた。


それだけだった。


農地は増えている。


水路も増えている。


農業技術も向上している。


労働力も増えている。


つまり構造は健全だった。


不足は一時的なもの。


現実に三か月後には百十パーセント。


半年後には百三十パーセント。


そして今。


食料充足率百三十パーセント。


さらに年末には二百パーセントを超える予測が出ていた。


広場に設置された掲示板を見て村人たちが歓声を上げる。


「二百パーセント!?」


「もう飢えない!」


「本当にそんな数字になるのか!」


農業担当者たちは胸を張った。


農業革命は確実に成果を出していた。



同じ頃。


村の正門では巨大な商隊が到着していた。


ヴァレリア商会。


今や村最大の取引先だった。


先頭の馬車から一人の女性が降りる。


長身。


豊かな胸。


豊かな腰。


長い黒髪。


強い意志を感じさせる瞳。


マーガレット・ヴァレリア。


ヴァレリア商会会頭。


二十七歳。


王都でも名の知れた女商人だった。


「久しぶりね。」


笑顔で手を振る。


迎えたのはセリナだった。


その隣にはトミーもいる。


「歓迎する。」


セリナが答える。


「今回は何を持ってきた?」


マーガレットが笑った。


「その前に買わせてほしい物があるわ。」



倉庫。


巨大な倉庫の中に積まれているのは銀色の皮だった。


メタルリザード。


訓練で狩られた魔物たちの素材。


マーガレットは一枚手に取り目を見開く。


「品質が異常ね。」


鍛冶職人たちも驚いていた。


傷が少ない。


切断痕が少ない。


鱗が完璧。


最高品質だった。


理由は簡単。


村はテレキネシスによる拘束狩りを行っている。


暴れさせない。


壊さない。


無駄に傷付けない。


だから素材価値が高い。


マーガレットは即断した。


「一体金貨八十枚。」


周囲が静まり返る。


高い。


異常な高値だった。


トミーが目を細める。


「安くないか?」


マーガレットが笑う。


「相変わらずね。」


トミーも笑う。


商人同士の会話だった。


最終的に十体分を販売。


金貨八百枚。


莫大な利益だった。


村人たちがどよめく。


昔なら一生見ない金額。


今では村の経済を支える数字だった。



その頃。


治療院では別の戦いが行われていた。


マイケル。


エルナ。


リーン。


三人が集まっている。


治療院の拡張工事だった。


人口三千人。


従来の規模では対応できない。


治癒師が足りない。


薬師が足りない。


教える人間が足りない。


だから育てる。


それが結論だった。


「次の方どうぞ。」


マイケルが声を掛ける。


昔は泣き虫だった少年。


今では立派な治癒師だった。


患者を診る。


症状を聞く。


魔力を流す。


治療する。


そして。


横には新人がいる。


「見ていてください。」


「まず患者の不安を取り除きます。」


新人たちは必死にメモを取る。



別室。


エルナが孤児たちを集めていた。


優しい笑顔。


柔らかな声。


だが芯は強い。


「人を助けるには知識が必要です。」


「優しいだけでは救えません。」


子供たちが頷く。


エルナは一人一人に教えていく。


傷の手当。


消毒。


包帯。


栄養。


睡眠。


健康管理。


未来の治癒師たちだった。



薬房。


リーンが薬草を並べている。


新人薬師たちが周囲を囲む。


「これは解毒草。」


「こちらは止血草。」


「混ぜる比率を間違えないでください。」


リーンは以前よりずっと堂々としていた。


研究者だった彼女は今や教育者になっている。


誰かへ教える。


誰かを育てる。


その責任を理解していた。



夕方。


不思議な感覚が三人を包んだ。


マイケル。


エルナ。


リーン。


同時だった。


胸の奥が熱くなる。


魔力が流れる。


世界が変わる。


鑑定。


三人の視界に文字が浮かぶ。


【教導スキル】


マイケルが息を呑む。


エルナが目を見開く。


リーンが固まる。



教導スキル。


極めて珍しい支援系上位スキル。


自分が強くなる力ではない。


人を育てる力。


教えた内容が伝わりやすくなる。


理解が深まる。


習得速度が上がる。


才能開花率が上昇する。


教育に特化した能力だった。


三人は顔を見合わせる。


そして笑った。


「同時ですか。」


マイケルが言う。


エルナが頷く。


「みたいですね。」


リーンも笑う。


「変な感じです。」



少し離れた場所。


ケルナインはその様子を見ていた。


何も言わない。


ただ静かに見ている。


彼は知っていた。


教導スキルは努力の果てに生まれる。


人を育てたい。


人を助けたい。


本気でそう願った者だけが到達する。


才能ではない。


積み重ねだった。



夜。


治療院の灯りは遅くまで消えなかった。


新人治癒師。


新人薬師。


新人教師。


彼らを教える三人。


さらにその三人を育てたケルナイン。


そしてケルナインがいなくても教育は続く。


知識が伝わる。


技術が伝わる。


経験が伝わる。


人が人を育てる。


それこそが国家だった。


三千人の村。


いや。


もはや村ではない。


都市への入口だった。


かつて飢えと病に苦しんだ貧困村は。


今。


教育によって増殖する力を手に入れていた。


環境が人を育てる。


そして育った人が次の人を育てる。


その循環は、もう誰にも止められなかった。







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