42話:エミリー隊長就任
朝日が村を黄金色に染めていた。
人口五百三十名を超えた村は、もはや辺境の貧困村ではない。
広大な畑。
整備された水路。
巨大な倉庫。
紡織工房。
仕立工房。
鍛冶工房。
薬房。
防衛隊本部。
そして訓練場。
村は日に日に大きくなっていた。
しかし。
ケルナインは何も言わない。
いつものように村の外れの丘から村を眺めていた。
人が育つ環境。
それだけを作った。
あとは村人たちが勝手に成長している。
それが彼の理想だった。
その日。
防衛隊本部では大きな発表が行われていた。
ロバートが前へ出る。
巨大な体。
大剣を背負う魔族の男。
防衛隊総指揮官。
村人たちの信頼は絶大だった。
「発表する。」
静かに言う。
広場に集まった住民たちが耳を傾ける。
「本日付で。」
「第二小隊隊長を正式任命する。」
視線が集まる。
ロバートは笑った。
「エミリー。」
「前へ。」
狼獣人の美女が前へ出る。
かつては村を守るために一人で無理をしていた少女。
今は違う。
長身。
引き締まった身体。
自信に満ちた瞳。
風属性魔法。
飛行魔法。
索敵。
戦闘。
指揮。
全てが成長していた。
拍手が起こる。
住民たちも喜んでいた。
エミリーは少し照れながらも前へ出る。
「私一人の力じゃない。」
「皆が強くなったからだ。」
その言葉に歓声が上がる。
ロバートがうなずいた。
将軍スキルが反応する。
隊員たちの士気が上がる。
仲間を認める言葉。
それが最も強い。
◇
同じ頃。
村の正門。
大規模な商隊が現れていた。
荷馬車二十台以上。
護衛冒険者三十名。
豪華な旗。
中央には巨大な紋章。
ヴァレリア商会。
王国内でも有数の大商会だった。
門番たちが緊張する。
その中から一人の女性が降り立った。
長身。
美貌。
黄金色の髪。
二十七歳。
圧倒的な存在感。
マーガレット・ヴァレリア。
ヴァレリア商会会頭。
商人でありながら貴族すら一目置く存在だった。
「ここが噂の村。」
マーガレットは微笑む。
「面白そうね。」
◇
応接室。
対応したのはセリナとトミーだった。
ケルナインは来ない。
最初から決まっている。
外交も。
商売も。
村人自身が行う。
それが村の方針だった。
セリナが資料を並べる。
トミーが笑顔を浮かべる。
マーガレットは内心驚いていた。
若い。
あまりにも若い。
しかし。
有能。
それが一目で分かった。
「まず在庫を見せてもらえるかしら。」
マーガレットが言う。
トミーが笑う。
「もちろん。」
案内された倉庫。
そして。
マーガレットは絶句した。
「……何これ。」
魔糸。
大量。
魔法布。
大量。
外骨格。
大量。
解毒薬。
大量。
保存食。
大量。
穀物。
大量。
肉。
大量。
あり得ない量だった。
辺境村の備蓄量ではない。
小都市級。
いや。
それ以上だった。
「全部売れるぞ。」
護衛商人が呟く。
マーガレットも同意した。
これは宝の山だった。
◇
交渉が始まる。
トミーの目が変わる。
商売スキル。
在庫。
流通。
原価。
相場。
全てが頭の中に表示される。
マーガレットが価格を提示する。
トミーが即座に修正する。
セリナが補足する。
交渉は数時間続いた。
結果。
ヴァレリア商会は大量購入を決定した。
魔糸。
魔法布。
解毒薬。
保存食。
防具。
調味料。
全て買い取る。
過去最大規模の契約だった。
「信じられない。」
マーガレットは笑った。
「辺境村じゃないわね。」
セリナも笑う。
「ええ。」
「私たちもそう思います。」
◇
その頃。
訓練場。
村人たちに新たな変化が起きていた。
テレキネシス。
念動力。
遠隔操作能力。
村全体で大流行していた。
魔力操作。
魔力循環。
実質無限魔力。
教育。
訓練。
積み重ね。
結果。
住民の九割が覚醒した。
空中に石が浮く。
木材が動く。
鍋が動く。
荷物が動く。
農具が動く。
子供たちですら使える。
「すごい……。」
マーガレットは訓練場を見て絶句した。
普通なら王都の魔法学院レベル。
それが村人全員規模。
あり得ない。
◇
幹部たちも覚醒していた。
エミリー。
ソフィア。
カタリナ。
ロバート。
ティグリス。
リーヴ。
ミシェル。
マイケル。
エルナ。
全員が使える。
ロバートは巨大な丸太を浮かせる。
ソフィアは岩を動かす。
カタリナは鉄塊を操る。
エミリーは空中で飛びながら念動力を使う。
住民たちが歓声を上げる。
村はまた強くなった。
◇
夕暮れ。
マーガレットは丘の上に立っていた。
眼下には巨大な村。
働く住民たち。
飛び回る索敵隊。
訓練する防衛隊。
動く工房。
笑う子供たち。
「なるほど。」
マーガレットは呟く。
「だから皆ここへ来るのね。」
食べられる。
学べる。
成長できる。
種族は関係ない。
出身も関係ない。
環境が人を育てる。
その言葉を体現した村だった。
そして。
マーガレット・ヴァレリアはこの日。
ヴァレリア商会の総力を挙げてこの村を支援することを決意した。
村の未来は。
さらに大きく動き始めていた。




