5話 鑑定で村を分析
朝。
ケルナインは村の中央に立っていた。
空は晴れている。
鳥の鳴き声も聞こえる。
だが村人達の顔は暗い。
貧困。
病。
飢え。
盗賊。
長年積み重なった問題が村を覆っていた。
普通の人間なら絶望する。
しかしケルナインは違った。
彼は世界を感情では見ない。
構造で見る。
問題があるなら原因がある。
原因があるなら解決策がある。
それだけだった。
広場にエミリーがやって来る。
「今日は何をするんですか?」
ケルナインは答える。
「村を見る」
「昨日も見ていましたよね」
「表面だけだ」
そう言って目を閉じた。
魔力が静かに流れる。
魔力操作。
魔力循環。
体内を巡る魔力が世界へ広がる。
そして。
鑑定。
ケルナインの視界が変わった。
村全体が情報として浮かび上がる。
人口。
職業。
健康状態。
土地。
建物。
資源。
能力。
適性。
すべてが数字と情報になる。
エミリーは驚いていた。
「何を見ているんですか?」
「村だ」
「村?」
「全部だ」
数分後。
ケルナインは目を開いた。
そして一言。
「思ったよりマシだ」
エミリーは目を丸くした。
「どこがですか!?」
思わず声が大きくなる。
食料不足。
病人多数。
盗賊被害。
建物老朽化。
若者流出。
どう見ても最悪だ。
ケルナインは淡々と言う。
「土地は良い」
「水もある」
「木材もある」
「鉱石も少しある」
「家畜もいる」
「人もいる」
エミリーは首を傾げる。
「それで?」
「終わっている村はそれすら無い」
その言葉に詰まった。
確かにそうだ。
土地が死んでいるわけではない。
資源も残っている。
ならなぜ貧しいのか。
ケルナインは答える。
「配置が悪い」
「配置?」
「そうだ」
村人達を見ながら歩く。
老人。
農民。
職人。
子供。
女性。
全員を鑑定していく。
そのたびに情報が浮かぶ。
そして。
ケルナインは呆れた。
「酷いな」
「何がですか」
「人材配置だ」
最初に見つけたのは農民だった。
五十代。
畑仕事をしている。
しかし鑑定結果は。
木工適性A。
建築適性A。
農業適性D。
ケルナインは思わず空を見た。
逆だ。
完全に逆だった。
さらに調べる。
農民。
鍛冶適性A。
農業適性E。
農民。
商人適性A。
農業適性D。
農民。
教師適性S。
農業適性E。
エミリーが不安そうに聞く。
「そんなに酷いんですか」
「酷い」
即答だった。
「鍛冶屋が畑を耕している」
「商人が畑を耕している」
「教師が畑を耕している」
「大工が畑を耕している」
「どういうことですか」
「人材の無駄遣いだ」
エミリーは言葉を失う。
今まで考えたこともなかった。
村では生きるために全員が畑を耕す。
当たり前だった。
しかし。
当たり前だから正しいとは限らない。
ケルナインは続ける。
「農業しか知らないからだ」
「教育が無い」
「だから才能が埋もれている」
その時だった。
一人の男が荷物を運んでいた。
ふらふらしている。
細い。
弱そうだ。
ケルナインは鑑定する。
名前。
トミー。
狐獣人。
能力。
平均以下。
戦闘能力。
低い。
魔力。
低い。
身体能力。
低い。
エミリーが言う。
「あいつは役立たずですよ」
「よくサボるし」
「口だけだし」
ケルナインは首を横に振った。
「違う」
鑑定結果を見ている。
流通適性S。
交渉適性A。
在庫管理A。
価格分析A。
商業感覚S。
異常だった。
村最強クラスの商人適性。
「なんだこれは」
思わず呟く。
エミリーが驚く。
「どうしたんですか」
「宝が落ちている」
「は?」
「本人も気付いていない」
ケルナインは少し笑った。
この村は面白い。
能力が無いのではない。
能力を知らないだけだ。
昼。
今度は診療所。
マイケルが掃除していた。
弱そうな少年。
泣き虫。
自信もない。
しかし。
鑑定した瞬間。
ケルナインは目を細めた。
治癒適性S。
教育適性S。
観察力A。
共感能力S。
魔力容量A。
「なるほど」
エミリーが聞く。
「今度は何ですか」
「教師だ」
「え?」
「将来な」
マイケル本人は知らない。
周囲も知らない。
しかし才能はある。
ケルナインには見える。
人を見る目。
人を救う心。
教える力。
全部持っていた。
さらに村を歩く。
今度は少女。
エルナ。
いつも誰かを助けている。
争いを止める。
泣いている子供を慰める。
怪我人を看病する。
鑑定。
治癒適性S。
統率補助A。
精神安定A。
聖属性適性S。
ケルナインは小さく息を吐いた。
「またいた」
「誰がですか」
「宝だ」
エミリーは困惑する。
宝ばかり出てくる。
それも金銀財宝ではない。
人間だ。
ケルナインには分かっていた。
この村の本当の資産。
土地ではない。
鉱石ではない。
建物でもない。
人だ。
人材だった。
夕方。
広場。
ケルナインは一枚の板を用意した。
そこへ文字を書き始める。
農業。
建築。
鍛冶。
流通。
治療。
教育。
警備。
偵察。
様々な項目が並ぶ。
エミリーが聞く。
「何ですかそれ」
「設計図だ」
「設計図?」
「村のな」
その言葉に村人達が集まり始めた。
ケルナインは説明する。
「今まで全員が何でもやっていた」
「それでは効率が悪い」
村人達が顔を見合わせる。
聞いたこともない話だった。
「得意なことをやる」
「苦手なことは教わる」
「それだけで生産は増える」
老人が聞く。
「そんなもので変わるのか」
「変わる」
即答だった。
「むしろ今までがおかしい」
空気が静まる。
誰も反論できない。
結果が出ていないからだ。
ケルナインは続ける。
「明日から調べる」
「全員だ」
「適性を見つける」
「得意を見つける」
「それを仕事にする」
村人達はざわついた。
初めて聞く考え方。
初めて見る未来。
エミリーはその姿を見ていた。
この男は強い。
戦うからではない。
見えているからだ。
自分達には見えないものが見えている。
盗賊を倒したことよりも。
その力の方が恐ろしい。
夜。
一人になったエミリーは空を見上げる。
村は変わるかもしれない。
本当に。
初めてそう思った。
盗賊がいなくなったからではない。
英雄が来たからでもない。
村人達の中にある可能性を。
初めて誰かが見つけたからだった。
そしてケルナインは一人。
広場の端で村を見ていた。
彼の視界には数字が浮かぶ。
農民。
職人。
子供。
病人。
老人。
適性。
能力。
将来性。
全てが見える。
そして結論は一つだった。
「この村は強くなる」
誰に聞かせるでもない。
静かな独り言。
その根拠は感情ではない。
鑑定が示していた。
この村には。
まだ掘り起こされていない人材が多すぎる。
貧困村。
誰も期待しない村。
だがケルナインには見えていた。
ここは終わった村ではない。
始まる村だ。




