38話:大型魔物討伐
朝。
索敵塔の上からミシェルが空を旋回していた。
村が大きくなるにつれ、索敵の重要性も増している。
農地は広がった。
人口も増えた。
紡織工房も建設された。
鍛冶場も増えた。
治療院も学校もできた。
もはやただの貧困村ではない。
だからこそ守るべきものも増えていた。
その時だった。
ミシェルの表情が変わる。
「……見つけた。」
鳥人族の優れた視力。
風属性索敵。
念聴。
遠隔視。
複数の索敵技術が重なる。
森の奥。
大量の魔物。
しかも普通ではない。
ミシェルは即座に飛んだ。
村へ。
◇
会議所。
セリナが地図を広げている。
ロバート。
エミリー。
ソフィア。
カタリナ。
ガイル。
主要戦力が集まっていた。
ミシェルが報告する。
「ポイズンスパイダー二十七。」
「キラースパイダー十四。」
「グリーンキャタピラー四十二。」
空気が変わる。
新人達は知らない。
しかし古参は知っている。
危険な相手だった。
セリナが説明する。
「ポイズンスパイダーは毒蜘蛛です。」
「牙の毒も危険ですが、本当に厄介なのは糸です。」
「毒糸に絡まれば動けなくなります。」
ロバートが頷く。
「キラースパイダーは?」
「大型です。」
「家一軒ほどあります。」
新人達が息を呑む。
家一軒。
そんな蜘蛛が存在するのか。
セリナは続ける。
「ただし。」
「価値があります。」
トミーが目を輝かせた。
商人の顔だった。
「糸か?」
「はい。」
「魔糸です。」
その言葉に会議室が静かになる。
魔糸。
高級品。
王都でも高値で取引される素材。
紡織産業の最高級原料。
◇
ケルナインが静かに口を開く。
「確保できれば村の産業になる。」
全員が理解した。
ただの討伐ではない。
資源確保だった。
この村は何もない村から始まった。
だからこそ資源を見逃さない。
敵も資源。
魔物も資源。
その発想が根付いていた。
トミーが計算を始める。
「二十七と十四……。」
「全部回収できればかなり儲かるぞ。」
「王都の商会が飛びつく。」
セリナが頷く。
「糸だけではありません。」
「グリーンキャタピラーも価値があります。」
新人達が首を傾げる。
巨大芋虫に価値?
理解できなかった。
セリナが答える。
「絹糸です。」
ざわめきが起きた。
◇
昼。
討伐隊が出発する。
ロバート率いる第一部隊。
エミリー率いる第二部隊。
ソフィアとカタリナの突撃部隊。
新人達も参加する。
人数は百名を超えていた。
以前なら不可能な規模だった。
今は違う。
育った。
環境が人を育てた。
◇
森。
索敵担当が報告する。
「発見。」
ミシェル。
リーヴ。
複数の索敵持ち。
風属性。
光属性。
超能力。
様々な索敵能力が発達していた。
ケルナインの教育によって。
昔は索敵持ちなどほとんどいなかった。
今は違う。
一人が複数属性を扱う。
二属性は普通。
三属性も珍しくない。
四属性持ちも増えた。
五属性持ちまで出始めている。
単属性の方が珍しい。
それが今の村だった。
◇
最初に現れたのはグリーンキャタピラーだった。
全長五メートル。
巨大な芋虫。
だが。
以前の村人なら逃げていた。
今は違う。
「ファイアバレット!」
炎。
「ウィンドバレット!」
風。
「ストーンバレット!」
石。
「ウォーターバレット!」
水。
複数属性が同時に飛ぶ。
グリーンキャタピラーが吹き飛ぶ。
さらに。
「アイスバレット!」
氷。
動きを止める。
「バインドバレット!」
拘束。
完全に封じる。
討伐終了。
わずか数秒だった。
新人達が驚く。
自分達の強さに。
◇
さらに奥。
ポイズンスパイダーの巣。
巨大だった。
木々が白い糸で覆われている。
森全体が蜘蛛の巣。
新人達の顔が青ざめる。
その瞬間。
ロバートが前へ出た。
「慌てるな。」
将軍スキル。
恐怖が薄れる。
心が落ち着く。
それだけで違った。
◇
ポイズンスパイダーが現れる。
巨大な毒蜘蛛。
八本の足。
紫色の毒牙。
新人達が身構える。
しかし。
最初に動いたのはエミリーだった。
「ウィンドバレット!」
風弾。
蜘蛛の目を潰す。
続けて。
ティグリス。
「ストーンバレット!」
顔面直撃。
蜘蛛が吹き飛ぶ。
さらに。
新人達。
「ファイアバレット!」
「ウォーターバレット!」
「ホーリーバレット!」
魔法が降り注ぐ。
数年前なら奇跡。
今では当たり前。
教育の成果だった。
◇
戦闘は続く。
しかし村側は圧倒していた。
原因は単純。
連携だった。
単独では弱い。
だが集団になると強い。
ロバートの統率。
エミリーの前衛。
セリナの情報。
ミシェルの索敵。
全てが噛み合う。
◇
奥から地響き。
キラースパイダー。
現れた。
家ほどある巨体。
新人達が息を呑む。
巨大。
圧倒的。
普通なら逃げる。
しかし。
カタリナが笑った。
「面白い。」
長いグレイブを構える。
ソフィアも笑う。
「少しは楽しめそうですね。」
二人は突撃した。
◇
キラースパイダーが糸を吐く。
白い網。
巨大な拘束網。
カタリナが飛ぶ。
身体強化。
筋肉強化。
超人的跳躍。
糸を回避。
そのまま。
グレイブを叩き込む。
轟音。
蜘蛛の脚が折れる。
◇
反対側。
ソフィア。
ハルバートを振るう。
鬼人族の怪力。
脚が吹き飛ぶ。
新人達が呆然とする。
強い。
あまりにも強い。
◇
しかし。
それだけでは終わらない。
ロバートが叫ぶ。
「全員撃て!」
その瞬間。
空が光る。
ファイアバレット。
ウォーターバレット。
アイスバレット。
ウィンドバレット。
ソイルバレット。
ストーンバレット。
ホーリーバレット。
シャドウバレット。
ダークバレット。
数百発。
魔法の豪雨。
キラースパイダーが飲み込まれる。
爆発。
轟音。
土煙。
やがて。
巨大な蜘蛛は動かなくなった。
討伐完了。
◇
帰還。
大量の素材。
魔糸。
毒袋。
外殻。
キャタピラーの絹糸。
村人達は歓声を上げた。
戦利品が山積みだった。
◇
工房。
仕立職人達が集まる。
新しく覚醒した者も多い。
【紡織】
【裁縫】
【仕立】
【染色】
【織布】
スキルが増えていた。
環境が変わる。
仕事が生まれる。
必要になる。
だから才能が開花する。
ケルナインの考え通りだった。
◇
一方。
料理場。
ポイズンスパイダーの肉が運ばれる。
新人達は嫌そうな顔をした。
蜘蛛を食う。
信じられない。
しかし。
エルナ。
マイケル。
複数の治癒師達。
「ピュリフィケーション。」
浄化。
毒が消える。
何度も浄化。
何度も精製。
完全無害化。
◇
料理人達が調理する。
焼く。
煮る。
蒸す。
香草を使う。
完成。
恐る恐る食べる。
沈黙。
次の瞬間。
「うまい!」
歓声。
鶏肉に近い。
柔らかい。
旨味が強い。
新人達が夢中で食べ始める。
◇
夜。
会議所。
セリナが報告する。
「糸の収穫量は予想以上です。」
「紡織産業が成立します。」
トミーも笑う。
「売れる。」
「かなり売れるぞ。」
さらに報告。
「仕立職人が九名増加。」
「料理スキル保持者二十一名増加。」
「複数属性保持者も増加しています。」
紙には数字が並ぶ。
五属性持ち。
四属性持ち。
三属性持ち。
次々と誕生していた。
◇
ケルナインは静かに資料を見る。
やはり正しかった。
才能は最初から存在した。
無かったのは教育。
環境。
機会。
それだけだった。
◇
外では村人達が笑っている。
かつて病と貧困に苦しんだ村。
盗賊に怯えた村。
奴隷商に震えた村。
その村が今。
大型魔物を狩り。
産業を生み。
人材を育てている。
農業革命。
紡織産業。
教育。
戦闘技術。
全てが少しずつ結びついていた。
そして村はもう。
ただ生き残るだけの場所ではなくなっていた。
自ら未来を作る場所へと変わり始めていた。




