37話:共闘
朝。
村の訓練場は熱気に包まれていた。
かつてこの貧困村には戦力がなかった。
農民。
難民。
流民。
棄民。
食うだけで精一杯だった人々。
盗賊が来れば逃げるしかない。
奴隷商が来れば奪われるしかない。
病が流行れば祈るしかない。
それが現実だった。
しかし今は違う。
村の中央に並ぶ数百人。
ヒューマン。
獣人。
魔族。
エルフ。
ドワーフ。
ダークエルフ。
様々な種族が同じ方向を見ていた。
訓練場の端。
ケルナインは静かにその光景を眺めている。
何も言わない。
指示もしない。
教える段階は終わった。
ここから先は自分達で歩く段階だった。
前へ出たのはロバートだった。
「よし!」
将軍スキルを持つ男の声が響く。
「今日は合同訓練だ!」
歓声が上がる。
村人達の表情は明るい。
怖がっていない。
戦うことに慣れてきた。
それ自体が成長だった。
ロバートは頷く。
「まずは基本だ!」
「バレットを撃て!」
その瞬間。
村中の魔力が動いた。
火。
水。
風。
土。
光。
闇。
様々な属性が空気を震わせる。
最初に放ったのは若い人間の少年だった。
「ファイアバレット!」
赤い弾丸が飛ぶ。
轟音。
訓練用の木板が吹き飛んだ。
歓声。
少年が目を見開く。
「で、できた!」
三か月前。
彼は魔法が使えなかった。
才能がないと思っていた。
違った。
教わっていなかっただけだった。
続いて少女が前へ出る。
獣人の少女だ。
「ウォーターバレット!」
青い水弾。
一直線。
標的へ着弾する。
木板が砕ける。
「やった!」
少女が笑う。
周囲も拍手する。
誰も馬鹿にしない。
成功を喜ぶ。
それが今の村だった。
「次!」
ロバートが叫ぶ。
エルフの青年が前へ出る。
「アイスバレット!」
氷弾が飛ぶ。
標的に命中。
瞬間。
氷が広がる。
白い霜が訓練用の壁を覆った。
「おお!」
驚きの声。
青年自身も驚いていた。
「すげぇ……。」
ロバートが笑う。
「それがお前の力だ。」
「もっと伸びる。」
青年の顔が明るくなる。
◇
訓練は続く。
今度は風属性。
狼獣人のリーヴが前へ出た。
「ウィンドバレット!」
風が唸る。
透明な弾丸。
見えない刃。
標的を貫通した。
後ろの板まで穴が開く。
新人達が息を呑む。
リーヴは笑った。
「風は見えねぇ。」
「だから強ぇ。」
若い獣人達が目を輝かせる。
目標がいる。
憧れる相手がいる。
それだけで人は成長する。
◇
次は土属性。
ティグリスが前へ出た。
巨大な虎獣人。
筋肉の塊。
「ソイルバレット!」
茶色い弾丸。
砲弾のように飛ぶ。
轟音。
木板が粉砕された。
続けて。
「ストーンバレット!」
石弾。
さらに重い。
さらに硬い。
今度は訓練用の石壁に穴が開いた。
新人達がざわつく。
「化け物かよ……。」
ティグリスは笑う。
「鍛えろ。」
「誰でもできる。」
誰でも。
その言葉が重要だった。
特別な血統じゃない。
特別な才能じゃない。
努力で届く。
だから希望になる。
◇
次は光属性。
マイケルが前へ出た。
かつて泣き虫だった少年。
今では教師候補。
治癒師候補。
村の未来。
「ホーリーバレット。」
光弾が飛ぶ。
黄金色の輝き。
標的を撃ち抜く。
眩しい光が広がる。
周囲が静まる。
美しかった。
マイケルは照れる。
まだ自信はない。
それでも昔より強い。
ずっと強い。
エルナが嬉しそうに拍手した。
「すごいです。」
マイケルは少し笑う。
「まだまだだよ。」
その言葉が言えるようになった。
成長だった。
◇
次は闇属性。
ロバート。
そしてソフィア。
魔族達が前へ出る。
空気が少し緊張する。
以前なら恐怖だった。
今は違う。
期待だった。
ロバートが右手を上げる。
「シャドウバレット。」
影が集まる。
黒い弾丸。
闇が凝縮する。
発射。
標的を貫く。
続けてソフィア。
「ダークバレット。」
さらに濃い闇。
圧力を伴う弾丸。
命中した瞬間。
木板が吹き飛んだ。
歓声が上がる。
魔族への偏見は消え始めていた。
結果を見ているからだ。
誰が村を守るか。
誰が働くか。
それだけだった。
◇
さらに訓練は進む。
今度は拘束系。
セリナが前へ出た。
「バインドバレット。」
黒い弾丸。
命中。
その瞬間。
蔦のような影が広がる。
標的を拘束した。
新人達が驚く。
「捕縛魔法……。」
セリナは頷く。
「殺すだけが戦いではありません。」
「生け捕りも必要です。」
現実的だった。
それがセリナらしい。
◇
昼。
訓練場にミシェルが降りてくる。
鳥人族の索敵教師。
空から叫んだ。
「敵だ!」
全員が顔を上げる。
空気が変わる。
戦士達の顔になる。
ミシェルは続けた。
「ゴブリン三十!」
「ホブゴブリン三!」
「西の森!」
ロバートが即座に動く。
「第一班!」
「第二班!」
「第三班!」
将軍スキルが発動する。
恐怖が消える。
混乱が消える。
人々が自然に動く。
それを見ていたケルナインは何も言わない。
必要ない。
育ったからだ。
◇
西の森。
ゴブリンの群れが進んでいた。
以前なら脅威だった。
村を滅ぼせる戦力だった。
今は違う。
ロバートが前へ出る。
「始めるぞ。」
全員が頷く。
エミリー。
リーヴ。
ティグリス。
ソフィア。
カタリナ。
マイケル。
新人達。
数十人。
村の戦士達。
そして。
ロバートが大剣を掲げた。
「撃て!」
その瞬間。
魔法が空を埋めた。
「ファイアバレット!」
炎。
「ウォーターバレット!」
水。
「アイスバレット!」
氷。
「ウィンドバレット!」
風。
「ソイルバレット!」
土。
「ストーンバレット!」
石。
「ホーリーバレット!」
光。
「シャドウバレット!」
影。
「ダークバレット!」
闇。
「バインドバレット!」
拘束。
数十発。
数百発。
色とりどりの弾丸が飛ぶ。
圧巻だった。
まるで魔法砲兵部隊。
ゴブリン達が吹き飛ぶ。
拘束される。
凍る。
燃える。
転倒する。
統率された魔法攻撃。
これはもう村ではなかった。
軍隊だった。
◇
ホブゴブリンが吠える。
強敵。
新人達が怯む。
その瞬間。
ロバートが叫んだ。
「前を見るな!」
「仲間を見ろ!」
将軍スキル。
士気上昇。
恐怖抑制。
新人達の震えが消える。
隣を見る。
仲間がいる。
だから戦える。
ティグリスが突撃した。
「おおおおお!」
ソイルバレット。
ストーンバレット。
連射。
ホブゴブリンがよろめく。
そこへ。
リーヴ。
ウィンドバレット。
顔面へ命中。
視界を奪う。
ソフィアが飛び込む。
ハルバート。
一撃。
首が飛ぶ。
歓声。
新人達の顔が変わる。
戦える。
自分達は戦える。
◇
十分後。
戦闘終了。
ゴブリン全滅。
負傷者軽傷数名。
死者ゼロ。
かつてなら考えられない結果だった。
新人達が座り込む。
息を切らしている。
だが笑っていた。
勝った。
自分達で。
誰かに守られたわけじゃない。
自分達で守った。
◇
帰路。
夕日が差していた。
ロバートが後ろを振り返る。
新人達が歩いている。
疲れている。
でも誇らしげだった。
ロバートは少し笑う。
「強くなったな。」
新人達が照れる。
その言葉は嬉しかった。
本当に嬉しかった。
◇
村へ戻る。
ケルナインはいつもの場所にいた。
新人達が報告する。
「勝ちました。」
ケルナインは頷く。
それだけ。
褒めすぎない。
依存させない。
評価はする。
だが自分で立たせる。
それが彼の教育だった。
ロバートが静かに言う。
「育ってきた。」
ケルナインは頷く。
「そうだな。」
遠くでは畑が広がる。
農業革命。
紡織産業。
治療院。
学校。
鍛冶場。
醸造所。
すべてが育っている。
そして人も育っている。
環境が人を育てる。
その言葉は間違っていなかった。
かつて何もなかった貧困村は。
今や自ら戦い。
自ら守り。
自ら成長する村へ変わり始めていた。
そしてその変化は、まだ始まったばかりだった。




