33話:カタリナ登場
村の朝は早い。
農地では農民たちが働き始めていた。
農業革命によって拡大した畑。
小麦。
大麦。
豆類。
野菜。
砂糖黍。
甜菜。
かつて貧困村だった場所とは思えない光景だった。
病も減った。
飢餓も消えた。
治療院は機能している。
井戸は浄化されている。
教育も始まった。
子供たちは文字を学び。
大人たちは魔法を学ぶ。
戦士は戦闘術を学ぶ。
職人は技術を学ぶ。
環境が人を育てる。
ケルナインが作り上げた村は、それを証明し続けていた。
その日の昼。
門番をしていたリーヴが遠くを見る。
砂煙。
一人。
こちらへ向かってくる。
かなり速い。
普通ではない。
リーヴは目を細めた。
「誰だ?」
ティグリスも気付く。
「あれ人か?」
遠すぎて分からない。
しかし。
近づくほど異様さが見えてくる。
大きい。
とにかく大きい。
やがて門前へ到着した。
村人たちがざわつく。
エルフだった。
長い金髪。
整った顔立ち。
美しい。
本来なら。
だが。
体格がおかしい。
肩幅。
腕。
脚。
全てが異常。
まるでオーガ。
いや。
下手なオーガより大きい。
背丈も高い。
背中には巨大なグレイブ。
常人なら持ち上げるだけで精一杯の武器。
それを杖のように担いでいた。
エルフの女は笑う。
「ここが噂の村か。」
声も大きい。
豪快だった。
リーヴが尋ねる。
「何者だ?」
「冒険者。」
即答だった。
「名前はカタリナ。」
「仕事を探してる。」
ティグリスが眉をひそめる。
「エルフ?」
「そうだ。」
「見えねぇ。」
周囲の村人が頷いた。
見えない。
どう見ても見えない。
エルフと言われなければ誰も信じない。
カタリナは笑う。
「よく言われる。」
「森の連中にも言われる。」
その時。
背後から笑い声が聞こえた。
ソフィアだった。
「ははは!」
「相変わらずだな!」
カタリナが振り返る。
目を見開く。
「ソフィア!」
次の瞬間。
二人が握手した。
ドゴン!!
地面が割れた。
村人全員が引いた。
何だこの二人。
ソフィアが笑う。
「生きてたか。」
「当然だ。」
「お前もな。」
二人は昔からの知り合いらしい。
エミリーが呆れる。
「また変なのが来た。」
セリナが冷静に分析する。
「戦力としては最高クラスですね。」
「たぶんソフィアさん級です。」
周囲がざわつく。
ソフィア級。
それだけで恐ろしい。
カタリナは村を見る。
畑。
工房。
倉庫。
学校。
訓練場。
そして人々。
その目が変わる。
冒険者特有の観察眼。
強い者ほど見抜く。
「なるほど。」
「噂以上だ。」
ソフィアが笑う。
「だろ?」
「面白い場所だ。」
カタリナが頷く。
「確かに。」
普通の村ではない。
人が死んだ目をしていない。
希望がある。
目的がある。
働く理由がある。
それが分かった。
カタリナは尋ねる。
「強い奴いるか?」
村人たちが苦笑した。
やはりそれか。
ソフィアも笑う。
「それしかねぇのか。」
「重要だ。」
真顔だった。
戦闘狂。
その言葉がぴったりだった。
すると。
ティグリスが前へ出る。
「やるか?」
カタリナの目が輝く。
「いいな。」
即答。
リーヴも出てくる。
「俺も混ぜろ。」
エミリーも腕を組む。
「三人でいいだろ。」
村人たちが集まる。
また模擬戦だった。
訓練場。
観客多数。
ソフィアは笑いながら座る。
「面白くなってきた。」
開始。
瞬間。
カタリナが消えた。
速い。
巨大な体とは思えない。
ティグリスが驚く。
「なっ!?」
次の瞬間。
背後。
グレイブの柄が飛ぶ。
ドォン!!
ティグリスが吹き飛ぶ。
だが受け身を取る。
以前なら終わっていた。
今は違う。
成長している。
カタリナが笑う。
「良い!」
本気で嬉しそうだった。
戦える相手。
それが好きなのだ。
リーヴが風魔法を放つ。
ウィンドブレード。
高速斬撃。
カタリナがグレイブを振る。
風刃が砕けた。
「魔法も使うのか。」
「当然。」
カタリナの魔力が動く。
身体強化。
筋肉強化。
風属性。
全て高水準。
エルフらしくない。
いや。
強すぎる。
エミリーが死角から飛び込む。
獣人の機動力。
しかし。
カタリナは振り返りもしない。
後ろ蹴り。
ドン!
エミリーが吹き飛ぶ。
「見えてる。」
「え?」
「殺気が。」
戦闘経験が違う。
戦場を何度も潜った者の感覚。
ソフィアが笑う。
「相変わらず化け物だ。」
ロバートも頷く。
「あれは強い。」
ガイルも笑う。
「戦闘しか考えとらん。」
模擬戦は続く。
ティグリスが土壁を作る。
リーヴが風刃。
エミリーが突撃。
連携。
戦術。
考え抜かれた攻撃。
しかし。
カタリナは突破する。
力で。
速度で。
技で。
全て高水準。
観客たちは歓声を上げる。
すごい。
強い。
だが。
面白かったのはそこではない。
負けているのに。
獣人たちが楽しそうだった。
以前なら違った。
強者に叩き潰されるだけ。
悔しさだけ。
今は違う。
学べる。
成長できる。
次がある。
だから笑える。
環境が変わった。
だから人も変わった。
やがて勝負が終わる。
結果。
カタリナの勝利。
圧勝だった。
しかし。
カタリナは満足そうだった。
「良いな。」
「本当に良い。」
エミリーが息を整える。
「強すぎる。」
「まだまだだ。」
カタリナは笑う。
「もっと強くなれる。」
それは煽りではない。
確信だった。
村人たちは育っている。
今も。
これからも。
カタリナは周囲を見渡す。
農民。
職人。
教師。
治癒師。
戦士。
誰も諦めていない。
そんな場所は珍しい。
いや。
ほとんど存在しない。
だから。
彼女は決めた。
「私もここに住む。」
静かになった。
そして歓声。
新たな仲間。
新たな戦力。
村はさらに強くなる。
ソフィアが笑う。
「歓迎する。」
ロバートも頷く。
ガイルも笑う。
エミリーも手を差し出した。
カタリナは握る。
その瞬間。
ケルナインが遠くから見ていた。
何も言わない。
勧誘もしない。
命令もしない。
それでも人が集まる。
理由は簡単だった。
人が育つ場所だからだ。
貧困村だった土地。
病と飢餓に苦しんだ土地。
今では違う。
人材が集まり。
人材が育ち。
人材が未来を作る。
その流れはもう止まらなかった。
そしてカタリナという新たな強者を迎えた村は、さらに大きな変化へ向かって歩き始めるのだった。




