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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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30話:千人の村

朝。


村の中央広場に大きな鐘の音が響いた。


ゴォォォォン。


ゴォォォォン。


普段は使われない鐘だった。


祭り。


緊急事態。


重大発表。


そのどれかでしか鳴らない。


村人たちが次々と集まってくる。


エミリーも。


リーヴも。


ティグリスも。


ロバートも。


ガイルも。


マイケルも。


エルナも。


セリナも。


皆が顔を見合わせた。


何事かと。


広場中央。


トミーが壇上へ飛び乗った。


狐耳がぴんと立っている。


尻尾は暴れていた。


完全に興奮している。


「発表するぞ!」


大声が響く。


村人たちが静まる。


トミーは胸を張った。


「現在の村人口!」


一拍。


「千人突破だぁぁぁ!!」


一瞬。


静寂。


そして。


歓声が爆発した。


「おおおおおおお!!」


「千人!?」


「そんなに増えたのか!」


「すげぇ!」


拍手。


歓声。


笑顔。


誰もが喜んでいた。


かつて。


数十人しかいなかった村。


飢えた村。


病に苦しんだ村。


盗賊に怯えた村。


それが今。


千人の人間が住む共同体になっている。


トミーも少し目を潤ませていた。


商人だから数字が好きだ。


だから分かる。


千人は重い。


ただの数字ではない。


千人が食える。


千人が働ける。


千人が生きたいと思った。


その証明だった。


広場の端。


エレノア・グランディア侯爵も静かに拍手していた。


柔らかな笑み。


若返った顔。


かつて七十代だった老女は今や四十代前半ほどに見える。


魔力循環。


健康な食事。


穏やかな日々。


人は環境で変わる。


それは彼女自身が証明していた。


「本当に……立派になりましたね」


誰に向けた言葉でもない。


ただ嬉しかった。


その時だった。


トミーがさらに叫ぶ。


「まだある!」


「第二弾!」


村人たちが笑う。


「なんだよ!」


「またか!」


トミーは満面の笑みだった。


「砂糖だ!」


広場が静まり返る。


砂糖。


その言葉の意味を知らない者はいない。


貴族ですら滅多に食べられない。


高級品。


薬扱い。


宝石並み。


そんな存在だった。


トミーが叫ぶ。


「砂糖黍!」


「甜菜!」


「栽培成功!」


歓声が再び爆発した。


グランが巨大な桶を運ぶ。


白い結晶。


太陽の光を受けて輝いていた。


子供たちが目を丸くする。


「雪?」


「違う」


「甘いぞ」


グランが笑った。


子供が恐る恐る舐める。


数秒後。


固まった。


「甘いぃぃぃ!」


周囲が笑う。


次々と試食が始まる。


大人も驚く。


老人も驚く。


エルフも。


獣人も。


魔族も。


皆が笑顔になった。


エルナが目を丸くした。


「こんな味……」


マイケルも驚いている。


「すごい」


「薬みたいです」


グランが胸を張った。


「これからは作れる」


「好きなだけとは言わん」


「でも食える」


それだけで十分だった。


豊かさとは。


選択肢だ。


甘い物を食べるという選択肢。


それが生まれた。


午後。


さらに大きな準備が始まる。


広場のあちこちに巨大な鉄板。


炭。


木炭。


机。


椅子。


大量の肉。


山のような野菜。


トミーが叫ぶ。


「今日は祭りだ!」


「焼肉パーティーだぁぁぁ!!」


歓声が上がる。


実は。


これも計画だった。


人口千人突破。


交易成功。


砂糖成功。


全部まとめて祝う。


村史上最大の宴だった。


狩猟隊が確保した肉。


農家が育てた野菜。


酒造職人バルドの酒。


グランの調味料。


全てが並ぶ。


リーヴが肉を見て目を輝かせる。


狼獣人である。


肉には弱い。


「すごい……」


「全部食べていいの?」


エミリーが笑う。


「好きなだけ食べなさい」


「今日は祭りよ」


ティグリスも目を輝かせていた。


虎獣人。


肉食系。


我慢できるわけがない。


ジュゥゥゥゥ。


肉汁が弾ける。


香りが広場を包む。


子供たちが歓声を上げる。


大人たちも笑う。


酒が配られる。


ベルンがガイルの隣に座った。


「アニキ」


「飲もうぜ」


ガイルが笑う。


「誰がアニキだ」


「アニキはアニキだろ」


酒をぶつける。


乾杯。


職人同士の笑顔だった。


リーンがその姿を見て少し頬を赤くした。


職人たちが楽しそうだった。


何かを作る人間。


誰かを支える人間。


その姿は美しかった。


夕方。


祭りは最高潮になる。


子供たちが走る。


歌う。


笑う。


誰も泣いていない。


病人もいない。


飢えた人間もいない。


奴隷商を恐える人もいない。


エレノアが空を見上げる。


夕日が綺麗だった。


「幸せですね」


今度は近くにいたケルナインにも聞こえた。


彼は小さく頷く。


「そうですね」


短い返事。


それだけだった。


二人とも理解していた。


この景色は偶然じゃない。


誰か一人の力でもない。


千人が努力した。


千人が支えた。


千人が育った。


だから今がある。


環境が人を育てる。


育った人が環境を豊かにする。


その循環が完成し始めていた。


夜。


焚き火が灯る。


村人たちは疲れるまで笑った。


食べた。


飲んだ。


語った。


千人の笑顔。


千人の未来。


かつて貧困村と呼ばれた場所はもう存在しない。


そこにあったのは。


人が集まり。


人が育ち。


人が幸せになる村だった。


そしてケルナインは静かに眺める。


前には出ない。


誇らない。


命令もしない。


ただ見守る。


それで十分だった。


千人の人生が証明していた。


人材こそ国家であると。







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