26話:大工加入
朝。
村は今日も騒がしかった。
畑では農民達が働いている。
獣人達は森へ向かう準備をしている。
エルフ達は弓の訓練をしている。
ドワーフ達は酒蔵予定地で木材を運んでいる。
そして村の入口には新たな移住者達が立っていた。
その数は二十人。
全員が職人だった。
その中心にいるのは大柄な男だった。
日焼けした肌。
太い腕。
木屑の付いた革服。
腰には様々な工具がぶら下がっている。
「俺はダグラス。」
「大工だ。」
後ろの男達も頭を下げた。
「家を建てる。」
「倉庫を建てる。」
「家具を作る。」
「橋も作れる。」
村人達がざわつく。
今の村に一番足りない人材だった。
ケルナインは静かに頷いた。
「歓迎する。」
「仕事はいくらでもある。」
大工達の顔が明るくなる。
流民生活は長かった。
まともな仕事にありつけると思っていなかった。
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その様子を見ていたのはエルフ達だった。
リリー。
リーン。
そして移住してきた若いエルフ達。
皆が不思議そうな顔をしている。
「木を切るのですか?」
「家を作るのですか?」
「森に住めばいいのでは?」
純粋な疑問だった。
エルフ達は基本的に自然と共生する。
木を切って家を建てる文化が薄い。
だから理解できなかった。
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ダグラスは笑った。
「見てろ。」
その日のうちに作業が始まった。
大工達は木材を運ぶ。
測る。
切る。
組む。
叩く。
驚くほど速い。
エルフ達は呆然と見ていた。
一本の木材が。
柱になる。
梁になる。
壁になる。
形が変わっていく。
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「凄い……」
リリーが呟く。
風魔法を覚醒した若いエルフ。
弓の名手。
しかし家を建てる技術は知らない。
目の前の光景は魔法に見えた。
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さらに驚いたのはガイルだった。
「おい。」
「この継ぎ方は面白いぞ。」
ドワーフと大工。
職人同士。
話が合わないわけがない。
気付けば木材加工談義が始まっていた。
一般人には意味不明な会話だった。
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「ほう。」
「この角度か。」
「いやこっちの方が強度が出る。」
「なるほど。」
「面白ぇ。」
二人とも目が輝いている。
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リーンはその姿を見ていた。
エルフの薬師。
美しい銀髪。
穏やかな瞳。
薬草と治療を学ぶため移住した。
だが最近。
興味を持ったものがある。
職人達だった。
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バルド。
酒造職人。
そして。
グラン。
醸造職人。
二人とも毎日真剣だ。
誰より早く起きる。
誰より遅くまで働く。
酒。
味噌。
醤油。
酢。
酵母。
麹。
毎日研究している。
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リーンは思う。
「格好いい。」
薬師として尊敬していた。
発酵も薬も本質は似ている。
微生物。
時間。
管理。
観察。
だから余計に惹かれる。
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その頃。
トミーは大忙しだった。
狐獣人。
商売担当。
在庫管理担当。
流通担当。
相場担当。
村の物流を一手に担っている。
「木材足りない!」
「倉庫増設!」
「酒蔵も作る!」
「忙しい!」
叫びながら走っている。
誰より忙しい。
しかし本人は楽しそうだった。
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酒蔵予定地。
バルドが酒樽を眺める。
「よし。」
「始めるぞ。」
ドワーフ達が集まる。
酒造り。
彼らの本領だった。
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一方。
グランは別の建物にいる。
巨大な桶。
大豆。
麦。
塩。
並べられていた。
「醤油。」
「味噌。」
「酢。」
「全部作る。」
ドワーフ達が頷く。
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「パンも作るぞ。」
「酵母を増やせ。」
「麹も増やせ。」
「発酵だ。」
皆の目が輝く。
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リーンは見ていた。
本当に楽しそうだった。
権力も。
地位も。
金も。
関係ない。
良い物を作る。
そのためだけに生きている。
その姿が眩しかった。
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午後。
村の訓練場。
今日も魔法訓練が行われていた。
エミリー。
リーヴ。
ティグリス。
ロバート。
ガイル。
マイケル。
皆が新人達を教えている。
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エミリー。
「ウォーターバレット。」
水弾が飛ぶ。
新人獣人達が真似する。
失敗。
失敗。
成功。
歓声。
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リーヴ。
「ウィンドバレット。」
風弾。
弓との相性が抜群だった。
リリー達エルフも挑戦する。
風弾。
風刃。
少しずつ習得していく。
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ティグリス。
「ソイルバレット。」
土弾。
「身体強化。」
「筋肉強化。」
獣人達が目を輝かせる。
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ガイル。
「ストーンバレット。」
石弾。
大工達が驚く。
「石工にも使える。」
「建築にも使える。」
職人達が夢中になる。
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ロバート。
「シャドウバインド。」
影が伸びる。
拘束。
制圧。
皆が息を呑む。
将軍としての存在感が増していた。
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そして。
マイケル。
「ホーリーバレット。」
光弾。
白い光が飛ぶ。
新人達が感動する。
さらに。
「ヒール。」
光が傷を癒す。
村人達の目が輝いた。
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夕方。
ケルナインは村を見ていた。
家が増える。
倉庫が増える。
酒蔵が出来る。
醤油蔵が出来る。
人が増える。
仕事が増える。
笑顔が増える。
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その横にエレノアが立つ。
かつて七十代だった老侯爵。
今は四十代前半ほどに若返っている。
魔力循環。
毎日見ているうちに自然と身についた。
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「凄い村になりましたね。」
エレノアが言う。
ケルナインは首を振った。
「まだ途中です。」
「人材が足りません。」
「教育も足りません。」
「農地も足りません。」
エレノアは笑った。
この男はどこまでも現実的だ。
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しかし。
彼女には分かる。
本当に変わったのは村ではない。
人だ。
農民。
職人。
獣人。
エルフ。
ドワーフ。
魔族。
皆が成長している。
環境が人を育てる。
そして育った人がまた環境を育てる。
その循環が始まっていた。
貧困村だった場所は。
少しずつ。
確実に。
国家への道を歩き始めていた。




