27話:鍛冶師加入
村が大きくなるほど、必要になるものがある。
食料。
住居。
衣服。
そして――道具だ。
朝日が差し込む村の広場。
新たな移住者たちが村へ到着していた。
今回やってきたのは職人集団。
その中心にいたのは十人ほどの鍛冶師たちだった。
先頭を歩くのは四十代ほどの男。
筋骨隆々。
日に焼けた腕。
無数の火傷跡。
名前はベルン。
長年鍛冶場で生きてきた職人だった。
「ここが噂の村か……」
ベルンは周囲を見る。
建築中の家。
整備された畑。
活気ある市場。
働く村人。
どれも想像以上だった。
「貧困村だって聞いてたんだがな」
隣の若い鍛冶師が苦笑する。
その時だった。
鍛冶場の前に立つ人物が目に入った。
短い足。
太い腕。
大きな髭。
ドワーフ。
それも一人ではない。
数人いる。
若い鍛冶師の顔が引きつった。
「おい……」
「どうした」
「ドワーフだ……」
空気が変わる。
鍛冶師にとってドワーフは特別だ。
鍛冶の王。
職人の王。
鍛冶の歴史そのもの。
人間が勝てる相手ではない。
若い鍛冶師が青ざめる。
「終わった……」
「俺たち必要ないじゃないですか……」
別の鍛冶師も俯く。
「ドワーフがいるなら俺たちいらねぇよ……」
その様子を見ていた男がいる。
ガイルだった。
戦斧使い。
戦槌使い。
そしてドワーフ。
構造理解を覚醒した職人でもある。
ガイルは黙って見ていた。
若い頃を思い出す。
自分も同じだった。
上には上がいる。
だから怖い。
自信が揺らぐ。
それは当然だ。
しかし。
その時。
ベルンが前へ出た。
「だから何だ」
周囲が静まる。
若い鍛冶師たちが顔を上げる。
ベルンはドワーフたちを見る。
ガイルを見る。
そして言った。
「ドワーフだから凄い」
「だから負ける」
「そんな言い訳してたら鍛冶師なんて名乗れねぇ」
静寂。
ベルンの声だけが響く。
「俺は鉄を叩く」
「アンタらも鉄を叩く」
「だったら勝負だ」
職人の目だった。
恐怖はある。
差も理解している。
それでも逃げない。
ガイルが笑った。
「へっ」
「いい目だ」
ベルンも笑う。
「褒め言葉か?」
「最高の褒め言葉だ」
ドワーフたちが笑う。
若い鍛冶師たちも少しずつ顔を上げた。
その様子を遠くから見ていたケルナインは何も言わない。
必要なかった。
自分たちで答えを出したからだ。
昼。
鍛冶場建設が始まった。
大工たちも集まる。
二十人近い作業員が動く。
ティグリスが土を見つめた。
虎獣人の美女。
長い髪を揺らす。
「やるわよ」
魔力が流れる。
ソイルバレット。
土の弾丸。
続けて。
アースウォール。
巨大な土壁が立ち上がる。
歓声が上がった。
「すげぇ!」
「一瞬だ!」
基礎工事が進む。
ガイルも前へ出た。
「見てろ」
ストーンバレット。
石弾が飛ぶ。
さらに構造理解。
石材の配置。
荷重。
支柱。
強度。
すべてが頭の中に見えていた。
「そこだ」
「そこに置け」
「こっちは厚くしろ」
作業速度が跳ね上がる。
鍛冶師たちは驚く。
「魔法って戦うだけじゃねぇのか……」
「建築にも使えるのか……」
村人たちは笑う。
ここでは当たり前になりつつあった。
夕方。
鍛冶場が完成した。
大きな炉。
倉庫。
作業場。
材料置き場。
貧困村とは思えない規模だった。
ベルンは炉を見て息を吐く。
「仕事が山ほどあるな」
本当に山ほどあった。
剣。
槍。
斧。
鍬。
鎌。
包丁。
釘。
金具。
矢尻。
農具。
建築道具。
人口が増え続ける村。
需要は無限だった。
そこへケルナインが現れる。
「鍛冶師には火属性適性が多い」
「学ぶか?」
ベルンは即答した。
「当然だ」
鍛冶師たちも頷く。
訓練が始まった。
火を見る。
熱を見る。
魔力を見る。
ケルナインは説明する。
「火は燃やすだけじゃない」
「温度を制御できる」
「鍛造」
「鋳造」
「熱処理」
「全部使える」
鍛冶師たちの目が変わる。
火属性への認識が変わる。
その時だった。
若い鍛冶師の掌に火が生まれる。
「おおっ!?」
ファイアバレット。
火球が飛んだ。
歓声が上がる。
続いて二人。
三人。
四人。
次々に覚醒していく。
才能がなかったのではない。
教わっていなかっただけだった。
ケルナインは静かに見守る。
さらに。
一人の女性鍛冶師が光り始める。
白い光。
優しい輝き。
ホーリーバレット。
光弾が飛んだ。
皆が驚く。
「光属性!?」
ケルナインが頷く。
「精製向きだ」
「不純物を除去できる」
鍛冶師たちが目を見開く。
それは最高の補助能力だった。
鉄の品質が変わる。
武器の質が変わる。
村の未来が変わる。
夜。
鍛冶場にはまだ灯りがついていた。
ベルンが鉄を叩く。
カン。
カン。
カン。
向かいではガイルが叩く。
カン。
カン。
カン。
種族は違う。
生き方も違う。
それでも。
職人にはわかる。
音で。
火で。
鉄で。
ガイルが言った。
「お前」
「鍛冶師だな」
ベルンが笑う。
「あたりめぇだ」
ガイルも笑った。
「歓迎する」
その瞬間。
新しい仲間が増えた。
武器を作る者。
道具を作る者。
暮らしを支える者。
村はまた一歩強くなる。
戦士だけでは国は作れない。
農民だけでも作れない。
職人だけでも作れない。
人材こそ国家。
その言葉を証明するように、鍛冶場の火は夜遅くまで燃え続けていた。




