表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

289/290

245話 吟遊詩人たちの継承

世界は豊かになった。


かつて盗賊や奴隷商が支配した時代。


傭兵崩れが村を焼いた時代。


病が村を滅ぼした時代。


貧困村が明日の食料に怯えた時代。


それらは既に遠い過去になっていた。


世界人口二百億人。


食料充足率百八十パーセント。


全世界教師二百億人。


全世界教導スキル覚醒者二百億人。


飢える者はほとんど存在しない。


学べない者もほとんど存在しない。


それでも。


ある者達は危機感を抱いていた。


吟遊詩人達である。



アルカディア連邦。


世界文化研究院。


そこには巨大な円形劇場が存在した。


数十万人が収容できる文化施設。


その中心で。


若い吟遊詩人達が議論を行っていた。


議題は一つ。


「歴史をどう残すか」


である。



壇上には若い女性が立っていた。


ハーフエルフの吟遊詩人。


名をリリア。


初代吟遊詩人達の系譜を継ぐ第四世代だった。


美しい銀髪。


落ち着いた口調。


そして鋭い眼差し。


彼女は言った。


「歴史は放置すると壊れます。」


会場が静まる。


「事実は残ります。」


「ですが解釈は変わります。」


「感情は変わります。」


「伝言は歪みます。」



巨大な映像が映し出された。


数百年前。


まだアルナ村が存在していた頃の記録。


痩せた子供達。


崩れた家々。


病人達。


やせ細った畑。


そこには豊かさなどなかった。



リリアは静かに語る。


「今の子供達は。」


「この光景を知りません。」


「知らないことは悪くありません。」


「ですが。」


「忘れてはいけません。」



会場の教師達が頷いた。


現在の子供達は。


魔法を使える。


超能力も使える。


全属性を扱える。


転移も可能。


魔道具も普及している。


彼らにとって。


昔の世界は想像できない。



だからこそ。


吟遊詩人達は研究していた。


どうすれば伝わるのか。


どうすれば理解できるのか。


どうすれば誤解されないのか。



そこで彼らは。


魔道具士達と協力を始めた。



新しい教材研究所。


そこでは吟遊詩人と魔道具士が共同研究を行っていた。


巨大な研究室。


歴史学者。


教師。


魔道具士。


研究者。


児童心理学者。


全員が集まっている。



若いドワーフの魔道具士が言う。


「映像だけでは足りない。」


別の研究者が答える。


「文章だけでも足りない。」


吟遊詩人リリアが言う。


「体験が必要です。」



そこで開発されたのが。


歴史体験魔導具だった。



頭部に装着する小型装置。


魔力循環。


魔力操作。


記憶映像投影。


念写技術。


過去視研究。


それらを組み合わせた。


第四世代技術の結晶である。



子供が装着する。


すると。


数百年前の世界を体験できる。


見るだけではない。


感じる。


聞く。


考える。


学ぶ。



貧困村の生活。


病との戦い。


農業革命以前の苦しみ。


紡織産業誕生の喜び。


教師誕生の感動。


全てを疑似体験できる。



研究者達は驚いた。


子供達の理解度が圧倒的だった。



ある少年は体験後に言った。


「食べ物があるのが当たり前じゃなかったんだ。」


ある少女は言った。


「学校があるのも当たり前じゃなかったんだね。」



教師達は涙した。


それが目的だった。



歴史は暗記ではない。


理解するもの。


感じるもの。


未来に繋げるもの。



さらに研究は進む。


吟遊詩人達は新しい課題に取り組んでいた。


それは。


教師を育てる教師。


である。



世界には二百億人の教師がいる。


しかし。


教師も学ばなければならない。


教える技術。


伝える技術。


導く技術。


それらは別の能力だった。



そこで吟遊詩人達は考えた。


教師自身を育てる魔道具を作ろう。



魔道具士達との共同開発。


数年後。


新型教育支援魔導具が完成する。



名前は。


教導補助記録装置。



教師が授業を行う。


魔道具が記録する。


生徒の反応。


理解度。


質問。


感情変化。


集中力。


全て分析する。



そして授業終了後。


教師へ助言する。



「この説明は分かりにくかった。」


「この部分は理解率九十八パーセント。」


「この話は興味を引いた。」


「この例え話は成功。」



教師達は驚愕した。


まるで先輩教師が隣にいるようだった。



若い教師が育つ。


新人教師が育つ。


地方教師が育つ。


世界中の教育水準が上昇する。



吟遊詩人達は満足した。


彼らの目的は人気ではない。


名声でもない。



伝承。


教育。


継承。


それが使命だった。



ある夜。


世界文化研究院。


リリアは仲間達と会議をしていた。



「次は何を研究する?」


若い吟遊詩人が尋ねる。



リリアは少し考えた。


そして答える。


「未来への継承です。」



「過去は残せる。」


「現在も残せる。」


「でも未来へ何を渡すか。」


「それを考えたい。」



別の吟遊詩人が笑う。


「難しいな。」



リリアも笑った。


「だから研究するんです。」



研究室の窓から外を見る。


そこには巨大な都市。


学校。


研究所。


劇場。


農地。


工場。


港。


空を飛ぶ輸送船。



全ては人が作った。


王が作ったのではない。


英雄が作ったのでもない。


人材が作った。



教師が育てた。


職人が支えた。


農民が耕した。


研究者が発見した。


吟遊詩人が伝えた。



だから歴史を歪めてはならない。


誰か一人の功績にしてはならない。



リリアは記録板へ書き込む。


「歴史とは。」


「偉大な個人の物語ではなく。」


「無数の人々が積み重ねた選択の記録である。」



それが第四世代吟遊詩人達の結論だった。



翌年。


新しい児童教材が世界中へ配布される。


絵本。


映像教材。


歴史体験魔導具。


教師育成補助魔導具。


音楽教材。


劇教材。



子供達は笑いながら学んだ。


楽しいから学ぶ。


面白いから覚える。


感動するから忘れない。



それこそが。


吟遊詩人達が求めた教育だった。



数百年前。


飢えた子供達がいた。


学べない子供達がいた。


病に苦しむ子供達がいた。



今。


その子供達の子孫は。


歌い。


学び。


研究し。


教えている。



環境が人を育てる。


その思想は。


農業革命を生み。


紡織産業を発展させ。


教育革命を起こし。


世界を変えた。



そして今。


吟遊詩人達は新たな役目を果たしていた。


歴史を残す。


未来へ渡す。


子供達へ伝える。


教師を育てる。



歌は娯楽だった。


音楽だった。


芸術だった。



しかし今は違う。


歌は教育でもある。


歴史でもある。


未来への橋でもある。



こうして。


第四世代吟遊詩人達は。


世界最大の教師達となっていた。


剣を持たず。


権力も持たず。


軍隊も持たない。


それでも。


彼らの歌は。


二百億人の未来を支え続けていた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ