244話 第四世代誕生
世界は再び変わろうとしていた。
第一世代は生き残った。
第二世代は育てた。
第三世代は研究した。
そして今。
第四世代が誕生した。
彼らは既に常識を疑うことから始めていた。
魔法は使うものではない。
作るものだ。
ダンジョンは攻略するものではない。
設計するものだ。
魔道具は道具ではない。
知識を蓄積する器だ。
そんな発想を持つ世代だった。
◇
アルカディア連邦。
世界中央研究院。
そこでは前例のない発表会が開かれていた。
巨大な講堂。
数十万人の研究者。
数百万人の冒険者。
数億人が遠隔映像で視聴している。
壇上に立ったのは十六歳の少女。
エルフの血を引く第四世代研究者。
名をユリア。
リーゼの曾孫弟子だった。
彼女は静かに言った。
「本日、人造ダンジョン第一号が完成しました。」
会場が静まり返る。
◇
ダンジョン。
それは長い歴史の中で自然に存在するものだった。
魔物が生まれる。
資源が生まれる。
未知が生まれる。
誰も作ったことなどない。
だが。
第四世代は違った。
「なぜ自然にしか存在しないと考えるのですか?」
それが彼らの発想だった。
◇
巨大な映像が映し出される。
地下数千メートル。
人工的に作られた巨大空間。
そこに存在するのは。
人造魔力核。
巨大な結晶体だった。
研究者達がざわつく。
ユリアは説明する。
「第三世代が発見した世界魔力循環理論。」
「魔力海理論。」
「魔力結晶脈動理論。」
「それらを統合しました。」
映像が変わる。
複雑な魔法陣。
無数の術式。
膨大な演算構造。
まるで巨大な機械だった。
◇
「魔法を組み合わせる。」
「条件を設定する。」
「結果を出力する。」
ユリアは微笑む。
「つまり。」
「魔法はプログラムです。」
会場がどよめいた。
◇
火属性。
水属性。
風属性。
土属性。
光属性。
闇属性。
重力。
雷。
地震。
空間。
金属。
全てを組み合わせる。
条件を設定する。
魔力供給量。
出力条件。
安全機構。
再起動機構。
増殖抑制機構。
魔物生成制御。
資源生成制御。
それらを記述する。
まるで文章を書くように。
まるで計算式を書くように。
魔法を記述する。
◇
それは新しい学問だった。
魔術言語学。
第四世代が生み出した概念。
魔法を言語化する。
魔法を記述する。
魔法を構築する。
「火球を撃つ。」
そんな曖昧なものではない。
「火属性出力三百。」
「球体形成。」
「速度百。」
「対象認識。」
「衝突後爆散。」
全てを記述する。
◇
研究者達は驚愕した。
今まで感覚で使っていた。
才能で使っていた。
経験で使っていた。
それを言語にしたのである。
◇
冒険者達も熱狂していた。
なぜなら。
人造ダンジョンは訓練施設になるからだ。
危険度設定。
魔物強度設定。
地形設定。
報酬設定。
全て管理できる。
初心者用。
中級者用。
上級者用。
研究者用。
治癒師用。
何でも作れる。
◇
新しい冒険者時代が始まった。
もはや命懸けではない。
段階的に強くなる。
段階的に学ぶ。
段階的に成長する。
教育そのものだった。
◇
別の研究棟。
そこでは新たな発表が行われていた。
若いドワーフ研究者。
ベルンの曾孫弟子。
名をダルク。
彼は机の上に小さな腕輪を置く。
銀色の腕輪。
ただそれだけだった。
「魔力吸収機です。」
誰も理解できない。
◇
魔力吸収。
かつて伝説だった技術。
極一部しか扱えなかった技術。
それを魔道具化した。
◇
ダルクが腕輪を装着する。
周囲の魔力が集まる。
空気が震える。
青い光が流れ込む。
腕輪内部へ吸い込まれていく。
研究者達が息を呑む。
◇
「蓄積開始。」
腕輪が光る。
魔力が保存される。
蓄積される。
放出される。
循環する。
「魔力循環補助機構。」
「魔力吸収補助機構。」
「魔力安定化機構。」
「自動回復機構。」
ダルクは説明する。
◇
会場が騒然となった。
第四世代は理解していた。
これは革命だと。
◇
魔力不足。
そんな言葉が消える。
魔法初心者。
魔力が少ない者。
高齢者。
子供。
全員が恩恵を受ける。
◇
さらに研究は進む。
魔導具と魔術の融合。
第四世代最大のテーマだった。
◇
今までの魔導具。
魔法を固定する。
魔法を保存する。
魔法を再利用する。
その程度だった。
しかし。
第四世代は違う。
◇
魔導具自身に判断させる。
状況を認識させる。
選択させる。
最適化させる。
◇
つまり。
魔導具に思考回路を持たせる。
◇
若い研究者が説明する。
「敵を認識。」
「距離を測定。」
「最適魔法を選択。」
「自動発動。」
会場が静まり返る。
◇
これは戦争のためではない。
教育のため。
生活のため。
研究のため。
農業のため。
◇
農業研究院では既に実用化が始まっていた。
自動灌漑装置。
自動施肥装置。
病害監視装置。
気象予測装置。
魔力循環管理装置。
◇
農業革命は終わっていなかった。
さらに進化していた。
◇
食料充足率百八十パーセント。
それでも研究は続く。
二百。
三百。
五百。
異界開拓。
星間開拓。
その未来を見据えている。
◇
紡織産業も変化した。
魔術繊維。
自己修復衣服。
環境適応服。
重力調整服。
空間収納服。
◇
若い職人達は笑う。
「まだ足りない。」
「もっと面白くできる。」
◇
彼らは貧困を知らない。
飢餓を知らない。
病を恐れない。
だが。
歴史は知っている。
貧困村から始まったことを。
◇
だから学ぶ。
だから研究する。
だから作る。
◇
夜。
世界中央研究院。
屋上。
第四世代の若者達が集まっていた。
研究者。
冒険者。
職人。
教師。
全員が若い。
◇
「次は何を作る?」
誰かが聞いた。
ユリアが答える。
「世界の外へ行く手段。」
ダルクが笑う。
「俺は自動研究施設。」
別の少女が言う。
「私は人工生命。」
さらに別の青年が言う。
「僕は新しい魔法体系。」
◇
誰も止めない。
誰も否定しない。
環境がそうだからだ。
挑戦する者を笑わない。
失敗する者を責めない。
成功した者を妬まない。
◇
環境が人を育てる。
その思想は。
もはや文化になっていた。
◇
第一世代が種を蒔いた。
第二世代が育てた。
第三世代が研究した。
そして第四世代は。
世界そのものを設計し始めていた。
魔法を言語に変える者。
ダンジョンを作る者。
魔力吸収装置を作る者。
魔導具に知性を与える者。
新しい時代は静かに始まる。
英雄によってではない。
王によってでもない。
二百億人の人材達によって。
そして第四世代は。
さらにその先の未来へ向かって歩き始めていた。




