243話 第三世代誕生
世界は変わった。
かつては貧困村だった土地。
盗賊に怯え。
奴隷商に怯え。
病に怯え。
明日の食事にも困っていた土地。
そこから始まった流れは。
もはや誰にも止められない大河となっていた。
農業革命は世界を飢餓から解放した。
紡織産業は衣服不足を過去のものにした。
魔法教育は人々へ力を与えた。
教導スキルは知識を広げた。
魔力操作。
魔力循環。
魔力吸収。
かつては一部の天才しか理解できなかった技術も。
今では誰もが学ぶ学問になっている。
そして。
新しい時代が始まろうとしていた。
第三世代の誕生である。
◇
世界研究都市アルカディア。
かつてのアルナ村。
今では世界最大級の学術都市となった場所。
そこには無数の研究施設が存在していた。
魔法研究院。
超能力研究院。
生命研究院。
農業研究院。
医療研究院。
ダンジョン研究院。
異界研究院。
それぞれに数億人規模の研究者が所属している。
その中心。
世界中央研究院。
巨大な円形講堂には若者達が集まっていた。
年齢は十代後半から二十代前半。
第二世代教師達の弟子。
つまり第三世代である。
壇上へ現れたのは若い少女だった。
人間族。
年齢十九歳。
名をリリア。
マイケルの弟子の弟子。
つまり孫弟子だった。
「本日の議題を開始します。」
声は若い。
しかし堂々としていた。
数万人の研究者達が静かになる。
「本日の研究テーマは。」
リリアは微笑む。
「魔力そのものです。」
会場がどよめいた。
◇
魔法とは何か。
誰もが使える。
誰もが学べる。
だが。
その本質を知る者はいない。
火魔法。
水魔法。
風魔法。
土魔法。
光魔法。
闇魔法。
超能力。
全て使える。
しかし。
なぜ使えるのか。
誰も知らない。
だから研究する。
第三世代はそこへ挑んだ。
◇
巨大な水晶が運び込まれる。
直径五メートル。
内部で青い光が脈動している。
「魔力循環結晶。」
リリアが説明する。
「異界第三領域で発見されました。」
映像が映し出される。
リモート・ビューイング。
遠隔透視。
ソートグラフィー。
複数の技術を組み合わせた立体映像。
異界の地下深く。
巨大な結晶が脈動している。
まるで心臓のようだった。
「私達は発見しました。」
リリアは静かに言う。
「魔力は流れているのではありません。」
研究者達が息を飲む。
「世界そのものが呼吸しています。」
◇
その言葉は衝撃だった。
世界が呼吸する。
理解できない。
だが。
証拠はあった。
結晶は一定周期で魔力を放出していた。
そして吸収していた。
まるで肺。
まるで心臓。
まるで生命体。
「世界は生きている可能性があります。」
誰かが呟く。
会場は静まり返った。
◇
別の研究施設。
異界研究院。
こちらでも第三世代が活躍していた。
若い獣人研究者。
名をアルフ。
索敵教師ミシェルの孫弟子。
彼は遠隔透視班を率いていた。
「観測開始。」
数百人の研究者が同時に能力を発動する。
テレパシー。
遠隔透視。
未来視。
念聴。
膨大な情報が共有される。
彼らが見ているのは。
誰も到達したことのない空間。
世界の外側だった。
◇
そこには光があった。
巨大な光。
海のような魔力。
果てしない輝き。
「見つけた。」
アルフが震える。
「魔力海だ。」
記録係が叫ぶ。
研究者達が立ち上がる。
世界を満たす魔力。
その源流。
誰も知らなかった場所。
ついに発見されたのである。
◇
冒険者達も研究へ加わっていた。
かつての冒険者は戦士だった。
今は違う。
発見者。
探索者。
観測者。
研究者でもある。
若い鬼人の少女。
ソフィアの弟子。
名をミーナ。
彼女は新型探索隊を率いていた。
「出発。」
転移魔法が起動する。
数百人の探索隊。
全員が研究者でもある。
目的は戦闘ではない。
発見。
観測。
記録。
それが任務だった。
◇
第三世代の特徴。
それは最初から教育が存在したことだった。
第一世代は苦労した。
第二世代は学んだ。
第三世代は生まれた時から学べた。
読み書き。
算術。
魔法。
超能力。
農業。
鍛冶。
紡織産業。
医療。
全てが当たり前。
だから視点が違う。
◇
若い研究者が言う。
「なぜ魔法があるのか。」
別の研究者が答える。
「では。」
「なぜ重力があるのか。」
また別の研究者が言う。
「なぜ生命は生まれるのか。」
議論は止まらない。
◇
彼らは既に生存を心配していない。
飢餓がない。
貧困がない。
病も克服された。
だから。
知りたい。
理解したい。
それが原動力になっている。
◇
農業研究院。
そこでも第三世代が活躍していた。
若いエルフの女性。
リーゼの孫弟子。
彼女は新しい作物を育てていた。
魔力植物。
魔力麦。
魔力米。
魔力果樹。
魔力野菜。
全て新種だった。
「食料充足率百三十パーセント。」
「まだ足りません。」
周囲が笑う。
十分過ぎる数字だ。
しかし彼女は首を振る。
「次は百五十パーセント。」
「二百パーセント。」
「異界開拓を考えるなら必要です。」
研究者達は真剣に頷いた。
◇
紡織産業も進化していた。
若い職人達が新素材を開発している。
魔力繊維。
自己修復繊維。
温度調整繊維。
重力制御繊維。
空間収納繊維。
かつての服とは別物だった。
◇
医療も同じ。
第三世代治癒師達。
彼らは失われた腕を再生する。
失われた足を再生する。
内臓を再生する。
神経を再生する。
さらに研究は進む。
老化とは何か。
寿命とは何か。
生命とは何か。
◇
世界研究都市の中央広場。
そこには巨大な石碑が建っている。
最初の貧困村を記念した石碑。
そこへ若い研究者達が集まる。
彼らは石碑を見上げる。
誰もケルナインを知らない。
直接会ったこともない。
だが。
思想は知っている。
環境が人を育てる。
その言葉を。
◇
第三世代は英雄を求めない。
救世主を求めない。
王を求めない。
自分達で考える。
自分達で学ぶ。
自分達で発見する。
それが当たり前だからだ。
◇
夜。
世界中央研究院。
リリアは窓から星空を見ていた。
隣にはアルフ。
探索隊長ミーナ。
他の若い研究者達もいる。
誰もが未来を見ていた。
「次は何を研究する?」
誰かが聞く。
リリアは笑った。
「全部。」
皆が笑う。
「魔力。」
「生命。」
「異界。」
「宇宙。」
「時間。」
「空間。」
「世界。」
「全部知りたい。」
若者達の目は輝いていた。
◇
第一世代は生き残った。
第二世代は育てた。
第三世代は探求する。
時代は進む。
知識は広がる。
教育は受け継がれる。
そして。
世界はさらに広がっていく。
かつて貧困村から始まった物語は。
今や二百億人の世界を動かしていた。
魔力操作を学ぶ子供達。
魔力循環を研究する若者達。
魔力吸収の原理を解明しようとする研究者達。
農業革命をさらに進化させる技術者達。
紡織産業を新たな段階へ導く職人達。
誰か一人が世界を変える時代ではない。
人材が世界を変える時代。
そして今。
第三世代の研究者達は。
誰も見たことのない未来へ向かって歩き始めていた。




