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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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242話 弟子達が教師になる

時代は静かに変わった。


かつて世界を導いた教師達は。


教壇を降りた。


引退と言っても消えたわけではない。


相談されれば答える。


頼られれば助ける。


しかし。


先頭には立たない。


世界を引っ張る役目は。


次の世代へ渡された。


それは敗北ではない。


成功だった。


環境が人を育てる。


その思想が。


ついに世界そのものへ根付いたからだ。



世界図書館。


かつてマイケル達が講義を行っていた巨大講堂。


今。


壇上に立っているのは若者達だった。


二十代。


三十代。


あるいは十代。


若い教師達。


彼らは緊張していた。


しかし。


誇らしくもあった。


「本日の講義を開始します。」


最初に立ったのは人間の青年。


名をレオン。


元は辺境の貧困村出身だった。


病で両親を失い。


孤児院で育った。


かつてなら。


一生農奴で終わっていた少年。


しかし教育があった。


教師がいた。


学ぶ環境があった。


だから。


今。


世界最高峰の研究教師になっていた。


「本日のテーマはダンジョン内部における魔力循環構造です。」


数万人が耳を傾ける。


その中には。


冒険者。


研究者。


鍛冶師。


薬師。


建築士。


農業技師。


紡織産業の技術者。


ありとあらゆる職業がいた。



昔。


冒険者と研究者は別だった。


冒険者は戦う。


研究者は調べる。


互いに接点は少なかった。


しかし今は違う。


研究には現地調査が必要。


冒険には知識が必要。


自然と結びついた。


「第三層で発見された魔力結晶です。」


レオンが映像を映し出す。


ソートグラフィー。


念写技術。


巨大な立体映像が空中へ浮かぶ。


歓声が上がった。


「これを回収したのは第五探索隊です。」


壇上に若い冒険者達が立つ。


人間。


獣人。


エルフ。


ドワーフ。


魔族。


種族は様々。


共通しているのは。


皆若いことだった。



「俺達は第五層でこれを発見した。」


若い獣人が説明する。


「最初は鉱石だと思った。」


「でも違った。」


「魔力を吸収していた。」


会場がざわつく。


魔力吸収。


かつて一部しか知らなかった概念。


今では世界中で研究されている。


「研究班へ提出した結果。」


「周囲の魔力循環を制御している可能性が出た。」


今度は研究者が立つ。


若いダークエルフの女性。


「魔力操作による実験を行いました。」


「結果。」


「結晶は魔力を蓄積するだけではありません。」


「流れそのものを調整していました。」


会場が騒然となる。



教師達は後ろから見ていた。


マイケル。


エルナ。


ミシェル。


誰も口を出さない。


必要がない。


若者達が。


自分達で発見し。


自分達で考え。


自分達で教えている。


それが何より嬉しかった。



別の講堂。


そこでは新しい講義が行われていた。


講師は若い鳥人族の女性。


ミシェルの弟子だった。


「本日のテーマは超長距離遠隔透視です。」


数千人が集まる。


研究者達。


冒険者達。


軍事関係者。


商人。


全員が真剣だった。


「これまで遠隔透視は数百キロが限界でした。」


「しかし。」


「異界観測に成功しました。」


会場がどよめく。


異界。


近年最大の研究対象。


魔王国領。


竜族領。


悪魔領。


そして未知の領域。



「観測データを共有します。」


巨大な映像が現れる。


誰も見たことのない空。


誰も見たことのない海。


誰も見たことのない山脈。


若い研究者達が歓声を上げた。


「次は現地調査です。」


「参加者を募集します。」


その瞬間。


何百人もの手が上がった。



冒険者達も変わっていた。


昔は。


金のため。


生きるため。


仕方なく戦った。


しかし今は違う。


生活は保障されている。


飢餓もない。


病もない。


貧困も減った。


だからこそ。


冒険する理由が変わった。


知りたい。


見たい。


発見したい。


それが理由になった。



世界最大の冒険者学校。


卒業式。


校長が若者達へ語る。


「君達は宝を探すために冒険するのではない。」


「未知を探すために冒険する。」


静かな言葉だった。


「新しい魔法。」


「新しい超能力。」


「新しい技術。」


「新しい世界。」


「それを見つけるのが君達の仕事だ。」


若者達の目が輝く。



鍛冶師達も変わっていた。


ベルンの弟子達。


ドワーフ達。


若い職人達。


彼らは毎日研究している。


新素材。


新合金。


新構造。


ガイルが覚醒した【構造理解】をさらに発展させていた。


「この金属。」


「魔力循環効率が三倍だ。」


「いや。」


「四倍まで上げられる。」


議論が止まらない。



薬師達も同じだった。


リーンの弟子達。


若いエルフ達。


人間達。


獣人達。


彼らは薬草だけでは満足しない。


魔力植物。


異界植物。


竜族領の薬草。


悪魔領の菌類。


全て研究対象だった。


「この植物は魔力吸収を促進します。」


「なら治療にも使える。」


「農業革命にも応用できる。」


知識が知識を呼ぶ。



紡織産業も進化していた。


リーザ。


リーブ。


リーぜ。


彼女達の弟子達。


若い職人達が新素材を生み出していた。


魔力繊維。


軽量防具。


自己修復布。


防寒布。


耐火布。


「昔は服を作っていた。」


「今は未来を作っている。」


若い職人が笑う。



世界中で同じことが起きていた。


教師の弟子が教師になる。


研究者の弟子が研究者になる。


冒険者の弟子が冒険者になる。


そして。


互いに協力する。



その象徴が。


新設された世界研究同盟だった。


冒険者。


研究者。


教師。


職人。


全員が所属する。


目的は一つ。


世界を知ること。



最初の研究テーマは。


魔物。


魔法。


ダンジョン。


異界。


そして生命。


誰も答えを知らない。


だから挑戦する。



世界図書館の屋上。


引退した教師達が空を見ていた。


遠くでは若者達が議論している。


研究している。


笑っている。


夢を語っている。


マイケルが微笑んだ。


「もう大丈夫ですね。」


エルナも頷く。


「ええ。」


ミシェルも笑った。


「私達の時代は終わった。」


ロバートが豪快に笑う。


「違ぇな。」


皆が振り向く。


「終わったんじゃねぇ。」


「続いてるんだ。」


静寂。


そして。


全員が笑った。


確かにそうだった。


教師達は消えない。


弟子達の中にいる。


教えの中にいる。


文化の中にいる。



環境が人を育てる。


その言葉は。


もはや理想ではない。


世界の常識になった。


そして今。


育った人材達が。


新しい世界を育て始めていた。


冒険者と研究者が手を取り合い。


教師となった弟子達が知識を広める。


誰も命令していない。


誰も支配していない。


それでも進む。


それでも広がる。


かつて貧困村から始まった流れは。


今や世界そのものを動かしていた。


そして。


新しい研究の時代が幕を開けたのである。







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