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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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246話 国境の意味

世界は変わった。


それは誰も否定できない事実だった。


かつて世界には無数の国境が存在した。


山脈。


大河。


海。


城壁。


砦。


関所。


王国。


帝国。


公国。


共和国。


数え切れないほどの国家が存在していた。


人々は生まれた場所で人生が決まった。


豊かな国に生まれれば生きられる。


貧しい国に生まれれば飢える。


病に倒れる。


盗賊に襲われる。


奴隷商に売られる。


それが当たり前だった。


だが。


二百億人の世界になった今。


教師達は改めて問い直していた。


国境とは何か。


国家とは何か。


そして。


人材こそ国家とはどういう意味なのか。



アルカディア連邦中央研究院。


世界最大の教育研究都市。


そこには数百万もの研究者が集まっていた。


魔法研究者。


農業研究者。


歴史学者。


教育学者。


魔道具士。


吟遊詩人。


医師。


治癒師。


建築家。


職人。


全ての知識が集まる場所。



巨大な会議場。


中央に立っていたのはマイケルだった。


かつて泣き虫だった少年。


自信がなく。


失敗ばかりだった少年。


今では世界中の教師達が尊敬する存在になっていた。



マイケルは静かに言う。


「国境とは何でしょう。」


会場が静まる。


誰もが答えを持っている。


それでも答えない。


考える。



一人の若い教師が答えた。


「文化を守るためです。」


別の研究者が言う。


「法律を管理するためです。」


吟遊詩人が言う。


「歴史を残すためです。」



どれも正しい。


マイケルは頷いた。


「では。」


「国境が消えたら人は不幸になりますか?」



誰も答えない。



今の世界。


転移魔法がある。


空間魔法がある。


超能力がある。


世界中の学校が繋がっている。


情報は瞬時に共有される。


教師も研究者も自由に往来する。



昔の国境は。


既に意味を変えていた。



マイケルは続ける。


「昔。」


「国境は壁でした。」


「外敵から守る壁でした。」


「税を集める壁でした。」


「権力を守る壁でした。」



巨大な映像が映し出される。


数百年前。


貧困村だったアルナ村。


飢餓。


病。


略奪。


奴隷商。


傭兵崩れ。


盗賊。



子供達が怯えている。


村人達が震えている。



その光景を見た若い研究者達は沈黙した。


彼らにとって。


それは教科書の中の出来事だった。



マイケルは言う。


「当時の問題は。」


「国境が無いことではありません。」


「教育が無いことでした。」



会場にざわめきが広がる。



「食料が足りないことでもありません。」


「作り方を知らなかった。」



「病が強かったわけでもありません。」


「治療法を知らなかった。」



「魔力が足りなかったわけでもありません。」


「魔力操作を教える教師がいなかった。」



「才能が無かったわけでもありません。」


「環境が無かった。」



それこそが真実だった。



環境が人を育てる。


その思想は世界中に広がった。



農業革命が起きた。


紡織産業が発展した。


治療院が作られた。


学校が作られた。


研究所が作られた。



そして。


人材が育った。



教師が教師を育てる。


研究者が研究者を育てる。


職人が職人を育てる。


治癒師が治癒師を育てる。



その循環が始まった時。


世界は変わった。



会場後方。


エルナが子供達を連れて見学していた。


孤児院の子供達である。



一人の少女が手を上げる。


「先生。」


「国家って何ですか?」



エルナは優しく微笑んだ。


「難しい質問ですね。」



少し考える。


そして答えた。


「昔は。」


「お城や王様が国家だと思われていました。」



「でも今は違います。」



「学校です。」


「研究所です。」


「治療院です。」


「農地です。」


「工房です。」


「そこで働く人達です。」



少女は首を傾げた。



エルナは続ける。


「人材です。」


「人材こそ国家なんです。」



少女の目が大きくなる。



「じゃあ。」


「私も国家?」



エルナは笑った。


「もちろんです。」



「あなたも国家です。」


「勉強する人も国家です。」


「教師も国家です。」


「農家も国家です。」


「研究者も国家です。」



少女は嬉しそうに笑った。



その姿を見た周囲の教師達も微笑む。



数百年前。


誰もそんな事を言わなかった。



国家とは王だった。


貴族だった。


軍隊だった。


城だった。



今は違う。



国家とは人だった。



研究会議は続く。



壇上に立ったのはアリアだった。


百年以上生きる研究者。


世界最高峰の知識人。



彼女は巨大な地図を映し出した。



かつて存在した無数の国境線。



そして。


現在の地図。



国境は残っている。


国家も存在する。



しかし。


昔とは意味が違った。



アリアは言う。


「国境は壁ではありません。」



「管理区分です。」



「文化圏です。」



「共同体です。」



「敵味方を決める線ではありません。」



研究者達が頷く。



かつて国境は争いを生んだ。



今は違う。



研究成果を共有する単位。


教育を管理する単位。


医療を運営する単位。



人を育てるための仕組み。



それが国家になった。



会場では新しい研究発表が始まる。



魔力循環効率向上。



魔力操作補助魔道具。



教育支援システム。



超能力応用農業。



新型治療術。



魔力吸収研究。



かつて旅人が見つけた基礎技術。



それを二百億人の研究者が発展させていた。



もはや誰も。


一人の天才に頼っていない。



それこそが重要だった。



環境が人を育てる。



良い教師がいる。



良い学校がある。



良い研究所がある。



だから次世代が育つ。



次世代がさらに良い環境を作る。



その循環は止まらない。



会議終了後。


マイケルは窓から外を見た。



巨大都市。



無数の学校。



研究施設。



農場。



工房。



港。



そして。


そこを歩く人々。



皆が学び。


皆が教え。


皆が研究している。



かつての貧困村から始まった流れ。



飢えた子供達。


病に苦しむ人々。


行き場を失った冒険者。


捨てられた神官。


流民。


棄民。


難民。



彼らが育ち。


教師になり。


研究者になり。


職人になり。


国家になった。



マイケルは静かに呟く。


「人材こそ国家。」



それは単なる言葉ではない。



世界そのものだった。



旅人ケルナインはもう表舞台にいない。



命令もしない。


支配もしない。



それでも。


残した思想は生きている。



環境が人を育てる。



人材こそ国家。



教育こそ未来。



その思想を受け継いだ教師達。


研究者達。


職人達。


吟遊詩人達。



彼らは今日も研究を続ける。



より良い学校のために。



より良い治療のために。



より良い農業のために。



より良い紡織産業のために。



病を減らすために。



貧困をなくすために。



そして。


まだ生まれていない未来の子供達のために。



世界は広い。



研究は終わらない。



教師達の旅も終わらない。



だから今日も。


二百億人の教師達は教え続ける。



二百億人の研究者達は学び続ける。



人が人を育てる限り。


世界はさらに豊かになり続けるのだから。







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