25話:ドワーフ移住
朝。
村の門が開く。
見張り台の鐘が鳴った。
カン。
カン。
カン。
警戒の鐘ではない。
来訪者を知らせる鐘だ。
広場にいた村人達が顔を上げる。
エミリーが門へ向かった。
リーヴも続く。
ティグリスも立ち上がる。
ロバートは大剣を背負い直した。
村の外。
土煙が上がっている。
かなりの人数だった。
二十人。
三十人。
いや、もっといる。
やがて姿が見えた。
全員が背が低い。
だが肩幅は広い。
筋肉が厚い。
髭を蓄えた者も多い。
ドワーフだった。
先頭の男が叫ぶ。
「ガイル!」
その瞬間。
ガイルの顔が変わった。
「あん?」
男を見た瞬間。
目を見開く。
「バルドか!?」
ドワーフ達が歓声を上げる。
「生きてやがったか!」
「死んだと思ってたぞ!」
「この野郎!」
ガイルも大笑いした。
「勝手に殺すな!」
再会だった。
かつて同じ鉱山で働いた仲間達。
戦乱。
盗賊。
魔物。
飢饉。
様々な理由で離れ離れになった仲間達だった。
バルドは大きく息を吐く。
「やっと見つけた。」
「噂を聞いた。」
「ドワーフを受け入れる村があるってな。」
ガイルが笑う。
「間違ってねぇ。」
「飯もある。」
「仕事もある。」
「酒はまだねぇ。」
その言葉に。
ドワーフ達が固まった。
「酒がない?」
「終わってるな。」
「帰るか。」
「帰るな!」
ガイルが怒鳴る。
村人達が吹き出した。
---
ケルナインが前へ出る。
「何人いる。」
バルドが答えた。
「五十二人。」
周囲がざわつく。
大人数だ。
だがケルナインは顔色一つ変えない。
「職業は。」
すると次々に手が上がった。
「鍛冶師。」
「石工。」
「鉱夫。」
「大工。」
「荷運び。」
「酒造職人。」
「醸造職人。」
トミーが反応した。
「酒造職人?」
「醸造職人?」
一人の老ドワーフが前へ出る。
「ワシはバルド。」
「酒職人じゃ。」
さらに別の男。
「グラン。」
「醸造職人だ。」
トミーの目が輝いた。
ケルナインも僅かに頷く。
面白い。
実に面白い。
ちょうど昨日。
トミーは酵母と麹を発見した。
そして今。
酒職人と醸造職人が来た。
偶然ではない。
人が集まれば必要な人材も集まる。
環境が人を呼ぶ。
その証明だった。
---
夕方。
ドワーフ達の受け入れが始まった。
空き家。
新築予定地。
作業場。
次々に割り振られる。
その途中。
バルドが大声を上げた。
「本当か!?」
「麹があるのか!?」
トミーが頷く。
「ある。」
「酵母もある。」
バルドが震え始める。
グランも震えている。
周囲のドワーフ達も同じだった。
「酒だ。」
「酒が作れる。」
「酒だぞ!」
ドワーフ達が歓声を上げた。
まるで英雄でも現れたかのような騒ぎだった。
エミリーが呆れる。
「そんなにか?」
リーヴが苦笑する。
「そんなにらしい。」
ティグリスも笑った。
「面白い連中だな。」
---
夜。
広場で会議が開かれた。
セリナが人口を確認する。
「これで村の人口はさらに増えました。」
「食料は?」
ケルナインが問う。
「現状維持です。」
「ですが増産が必要です。」
トミーが手を挙げた。
「発酵食品を作る。」
「保存期間が伸びる。」
「価値も上がる。」
バルドが頷く。
「酒も作る。」
グランも続く。
「味噌も。」
「醤油も。」
「酢も。」
村人達が首を傾げる。
知らない言葉ばかりだった。
だがケルナインは知っている。
その価値を。
保存食。
調味料。
交易品。
発酵は文明だ。
---
会議の後。
ガイルは新しく来た若いドワーフ達を連れて訓練場へ向かった。
「見せてやる。」
若いドワーフが首を傾げる。
「何をです?」
ガイルは石を拾った。
魔力を流す。
圧縮。
さらに圧縮。
そして放つ。
ドゴォォォン!!
石が砲弾のように飛んだ。
若いドワーフ達が固まる。
「は?」
「今の何だ?」
「魔法だ。」
ガイルは笑った。
「ストーンバレット。」
「昨日覚えた。」
若いドワーフ達がさらに固まる。
「昨日!?」
「昨日ですか!?」
「そんな馬鹿な!」
ガイルが肩をすくめる。
「俺もそう思う。」
村人達が笑った。
---
少し離れた場所。
ケルナインは静かにその様子を見ていた。
教えたのはほんの少し。
だが人は育つ。
ガイルが育つ。
エミリーが育つ。
ロバートが育つ。
リーヴが育つ。
そして。
新しく来たドワーフ達も育つ。
明日から始まる。
本格的な魔法教育。
バレット教育。
才能の有無ではない。
種族の違いでもない。
獣人。
エルフ。
ドワーフ。
人間。
魔族。
関係ない。
学べばできる。
教われば育つ。
環境が人を育てる。
村はまた一歩。
国家への道を進み始めていた。
(第25.2話:発酵革命へ続く)




