236話 人口爆発
世界は豊かになった。
かつて。
盗賊や奴隷商が襲う貧困村があった。
病で死ぬ者がいた。
飢えで死ぬ者がいた。
文字を読めない者がいた。
明日を生きられるか分からない者がいた。
しかし今。
世界は変わった。
全世界人口百五十億人。
全世界食料充足率百三十パーセント。
全世界魔法属性覚醒率百パーセント。
教師百五十億人。
教導スキル覚醒者百五十億人。
十一属性以上の魔法使い百五十億人。
かつての常識では考えられない時代である。
農業革命は完全に定着した。
荒れ地は畑へ変わった。
砂漠には巨大水路が通った。
極寒地帯には温室都市が建設された。
魔力操作。
魔力循環。
魔力吸収。
それらの技術が普及した結果、生産力は過去とは比較にならない。
紡織産業も同じだった。
衣服不足は過去の話。
全ての人間が十分な衣服を持ち。
全ての人間が教育を受けられる。
そして。
病も激減した。
マイケル。
エルナ。
リーン。
無数の治癒師。
無数の教師。
無数の研究者。
彼らが育てた人材が世界中に広がっている。
子供の死亡率は激減。
寿命は延び続けていた。
そんなある日。
世界会議が開催された。
議題は単純だった。
「出生数が急増しています」
発言したのはセリナだった。
巨大な魔導映像が浮かぶ。
数字が表示される。
今年の出生数。
昨年比二百三十パーセント。
会場がざわめく。
マリン・アルベルト女王が目を丸くする。
「二倍以上ですか?」
セリナは頷く。
「はい。」
「しかも全世界規模です。」
トミーが苦笑した。
「そりゃそうなるだろ。」
「飯がある。」
「仕事がある。」
「家がある。」
「教育がある。」
「病気で死なない。」
「子供が育つ。」
「結婚しない理由がねぇ。」
会場から笑いが起こる。
その通りだった。
貧しい時代。
人々は結婚を恐れた。
食べさせられない。
育てられない。
病で死ぬ。
戦争で死ぬ。
盗賊に襲われる。
未来が見えない。
だから結婚できなかった。
しかし今は違う。
未来がある。
希望がある。
子供が育つ。
学校がある。
教師がいる。
医療がある。
だから結婚する。
極めて自然な結果だった。
エルナが優しく微笑む。
「最近、孤児院より保育園の建設相談の方が多いんです。」
会場から再び笑いが起こる。
かつては孤児を守る施設が必要だった。
今は違う。
子供が多すぎる。
嬉しい悲鳴だった。
ミシェルが報告する。
「空中都市群も同じです。」
「若い夫婦だらけです。」
「子供が多すぎて学校建設が追いつきません。」
マイケルが苦笑した。
「教師は百五十億人いるのに?」
「それでも足りないんです。」
会場は爆笑した。
だが事実だった。
出生数が増えすぎている。
新しい学校。
新しい住宅。
新しい遊び場。
全てが必要だった。
ロバートが腕を組む。
「悪い話じゃねぇ。」
「むしろ最高だ。」
「未来がある証拠だ。」
その言葉に全員が頷いた。
かつての世界では。
人口増加は恐怖だった。
食料が足りない。
土地が足りない。
仕事が足りない。
だから争いが起きた。
しかし今は違う。
食料充足率百三十パーセント。
余裕がある。
さらに農業革命は続いている。
新しい農地。
新しい作物。
新しい栽培法。
生産量は毎年増加していた。
ガイルが笑う。
「家なら任せろ。」
「百億軒でも建ててやる。」
バルドも笑う。
「酒場も増やすぞ。」
グランが続く。
「食堂もだ。」
リーザ。
リーブ。
リーゼ。
三人も頷いた。
「衣服も問題ありません。」
「紡織産業はさらに拡大できます。」
職人達はむしろやる気だった。
人口増加は需要増加。
需要増加は雇用増加。
雇用増加は経済成長。
好循環が続いている。
アリアが静かに言う。
「文明が成熟すると人口は減少する。」
「そう言われてきました。」
「ですが。」
「それは安心して子供を育てられない社会だったからかもしれません。」
全員が耳を傾ける。
百年以上生きる研究者の言葉には重みがある。
「教育。」
「医療。」
「治安。」
「食料。」
「住宅。」
「仕事。」
「これらが揃えば人は家族を作ります。」
「極めて自然なことです。」
セリナも頷いた。
「数字が証明しています。」
「結婚率は過去最高。」
「出生率も過去最高。」
「離婚率は過去最低。」
会場が静まり返る。
それほど劇的な変化だった。
環境が人を育てる。
その言葉は正しかった。
人間は変わらない。
環境が変わったのだ。
だから結果が変わった。
貧困村では結婚できなかった。
今はできる。
病で死ぬ時代では産めなかった。
今は産める。
未来が見えなければ希望を持てない。
今は未来が見える。
だから人口が増える。
それは文明の勝利だった。
その頃。
世界中で結婚式が行われていた。
人間と獣人。
人間とエルフ。
人間と魔族。
ドワーフとエルフ。
海洋種族同士。
種族を超えた結婚も珍しくない。
誰も反対しない。
教育が偏見を消したからだ。
子供達は自然に学ぶ。
違いを知り。
違いを受け入れる。
そして友になる。
やがて恋をする。
結婚する。
家族になる。
その連鎖が続いていた。
世界中の教会。
役所。
結婚相談所。
どこも大忙しだった。
記録更新。
記録更新。
また記録更新。
出生数は増え続ける。
人口は増え続ける。
文明は拡大し続ける。
そして誰も恐れていなかった。
なぜなら。
食料がある。
教育がある。
仕事がある。
未来がある。
百五十億人の世界は。
さらに次の時代へ進もうとしていた。




