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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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233.3話 旅行革命(中編)

異界歴八年。


人口五十億人以上。


食料充足率百三十パーセント。


教師数五十億人以上。


教導スキル保持者五十億人以上。


PEAO主導による観光事業は、世界そのものを変え始めていた。


かつて旅とは危険だった。


盗賊。


奴隷商。


傭兵崩れ。


魔物。


病。


飢餓。


道中で命を落とすことも珍しくなかった。


だから人々は故郷を離れなかった。


離れられなかった。


しかし今は違う。


治安維持組織。


転移門。


宿泊施設。


医療網。


教育網。


それらが整備されたことで、旅は一部の冒険者だけのものではなくなった。


農民も旅をする。


職人も旅をする。


教師も旅をする。


子供たちでさえ修学旅行へ行く時代になった。


---


異界中央転移港。


毎日数千万人が行き交う。


巨大な広場。


無数の転移門。


各国の旗。


様々な言語。


様々な種族。


人間。


エルフ。


ドワーフ。


獣人。


魔族。


悪魔族。


ドラゴン族。


海洋種族。


皆が同じ場所を歩いている。


かつてでは考えられない光景だった。


---


マイケルは教育旅行団の引率をしていた。


同行するのは孤児院の子供たち。


教師見習いたち。


若い治癒師たち。


目的地はサンナ・マリン王国だった。


「先生。」


「海って本当に青いんですか?」


子供が尋ねる。


マイケルは微笑む。


「自分の目で見ておいで。」


その言葉に子供たちは目を輝かせた。


---


数時間後。


転移門を抜ける。


目の前に広がるのは巨大な海。


どこまでも続く青。


潮風。


波の音。


空を飛ぶ海鳥。


子供たちは言葉を失った。


そして。


歓声が上がる。


「すごい!」


「本当に青い!」


「広い!」


教師たちは笑った。


知識として知ることと。


実際に見ることは違う。


旅には教育効果がある。


それを誰もが理解していた。


---


サンナ・マリン王国でも旅行産業は大発展していた。


海岸観光。


海鮮市場。


歴史博物館。


魔導具劇場。


巨大温泉施設。


毎日観光客で溢れている。


女王マリン・アルベルトもその成果を喜んでいた。


かつて人口六千万だった北方国家。


今では一億人を超える大国となっている。


そして観光収入も莫大だった。


---


一方。


異界から外界へ向かう旅行者も増えていた。


最初は農民たちだった。


「海を見たい。」


「山を見たい。」


「外国の料理を食べたい。」


そんな素朴な願いから始まる。


PEAO旅行公社は各種ツアーを企画した。


初心者向け。


家族向け。


職人向け。


教師向け。


農業研究向け。


医療研究向け。


様々なプランが作られる。


---


特に人気だったのは職人交流旅行だった。


ベルン率いる鍛冶師団。


ガイル率いる建築技師団。


紡織職人たち。


醸造職人たち。


彼らは各国を訪れる。


そして驚く。


異界の方が進んでいる部分もある。


外界の方が進んでいる部分もある。


それぞれ学び合う。


競争ではない。


交流だった。


---


ベルンはある国の古い鍛冶工房を見学していた。


数百年続く工房。


代々受け継がれた技術。


独特な刃物。


特殊な加工法。


ベルンは感心する。


「まだまだ学ぶことがあるな。」


職人は死ぬまで職人だった。


だから旅をする。


だから成長する。


---


リーザ。


リーブ。


リーぜ。


三人の紡織職人も旅をしていた。


各国の織物を見る。


染色を見る。


伝統衣装を見る。


技術だけではない。


文化そのものを学ぶ。


帰国後。


彼女たちは新しい布を生み出す。


新しい衣服を生み出す。


旅行が新たな産業を作る。


それが繰り返されていた。


---


芸術家たちも旅へ出る。


吟遊詩人。


劇作家。


音楽家。


画家。


彫刻家。


皆が世界を見て回る。


そして作品を作る。


海を描く。


山を描く。


人々を描く。


旅は創作の源泉になっていた。


---


アクアマリナでは芸術祭が開催された。


参加者は世界中から集まる。


ドラゴン族の楽団。


悪魔族の劇団。


獣人族の舞踊団。


人間の吟遊詩人。


海洋種族の合唱団。


文化が混ざり合う。


誰も排除しない。


誰も見下さない。


観客たちは純粋に楽しむ。


---


そして。


最も大きな変化は人々の意識だった。


昔は知らなかった。


知らないから恐れた。


知らないから憎んだ。


知らないから戦った。


しかし今は違う。


旅をする。


会う。


話す。


食べる。


笑う。


それだけで分かることがある。


「同じなんだな。」


多くの人がそう感じ始めていた。


---


ある酒場。


異界出身の農民。


サンナ・マリン王国の漁師。


セレンスキー王国の職人。


ドラゴン族の研究者。


悪魔族の商人。


皆が同じテーブルを囲んでいる。


話題は戦争ではない。


政治でもない。


餃子だった。


「オーク餃子が一番だ。」


「海鮮餃子だろ。」


「クラーケン餃子を知らんのか。」


全員が笑う。


そして酒を飲む。


旅が人を繋ぐ。


交流が文化を育てる。


文化が平和を作る。


---


旅行革命はまだ始まったばかりだった。


次に起きるのは、世界最大規模の観光博覧会。


異界。


外界。


海洋都市。


ドラゴン領。


悪魔領。


全ての文化が集まる祭典。


そこへ向けて世界は動き始めていた。







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