233.6話 旅行革命(後編)
異界歴八年。
人口五十億人以上。
食料充足率百三十パーセント。
教師数五十億人以上。
教導スキル保持者五十億人以上。
旅行革命は世界中へ広がっていた。
PEAO加盟国。
サンナ・マリン王国。
セレンスキー王国。
海洋連盟。
海洋都市アクアマリナ。
海底都市ネプトリア。
ドラゴン領。
悪魔領。
そして異界。
かつて別々だった世界は、今や巨大な交流圏として結びついていた。
その象徴となる出来事が開催される。
世界観光博覧会。
人類史上最大規模の祭典だった。
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会場となったのは異界中央都市。
巨大な平原に建設された超巨大展示都市。
土属性魔法。
建築技術。
ゴーレム建設隊。
数億人規模の職人集団。
全ての力を投入して作られた。
面積は一国家に匹敵する。
宿泊施設。
劇場。
市場。
展示館。
研究施設。
競技場。
ありとあらゆる施設が並んでいる。
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開幕当日。
転移門は休む暇もなかった。
世界中から観光客が押し寄せる。
農民。
職人。
教師。
学生。
研究者。
芸術家。
商人。
冒険者。
貴族。
王族。
あらゆる階層の人々が集まる。
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最初に話題となったのは異界農業館だった。
巨大な小麦畑。
巨大温室。
ゴーレム農機。
自動灌漑設備。
観光客は圧倒される。
「本当に五十億人を養っているのか。」
「映像では見ていた。」
「実物は想像以上だ。」
説明役の農業教師は微笑む。
「教育です。」
その答えに皆が頷く。
異界の強さは土地ではない。
教育だった。
人材だった。
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続いて人気を集めたのは海洋連盟館だった。
巨大水槽。
海中都市模型。
海洋生物展示。
クラーケン生態展示。
イルカ族とシャチ族による案内。
子供たちは大興奮だった。
オルカは笑う。
「これだけ喜んでくれると嬉しいな。」
ルミナも頷く。
海を知らない子供たち。
異界を知らない海洋種族。
双方が学び合う。
それが観光の価値だった。
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ドラゴン領展示館も大人気だった。
来場者は長蛇の列を作る。
理由は単純だった。
本物のドラゴンがいる。
しかも人型になって案内している。
巨大な翼。
長い寿命。
圧倒的な知識。
ドラゴン族の研究者たちは様々な講演を行う。
歴史。
天文学。
魔法理論。
教育論。
観客たちは熱心に聞き入る。
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ある少年が尋ねる。
「ドラゴンは人間を見下さないんですか?」
白銀の髪を持つドラゴン女性は微笑む。
「昔はいたかもしれません。」
静かな声だった。
「でも今は違います。」
彼女は会場を見渡した。
教師。
農民。
職人。
研究者。
子供たち。
全員が学び続けている。
「学ぶ者を見下す理由はありません。」
会場は拍手に包まれた。
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悪魔領展示館も人気だった。
かつて貧困に苦しんだ魔族。
飢餓に苦しんだ悪魔族。
今では異界との交流によって豊かになっている。
酒造技術。
農業技術。
教育制度。
医療制度。
様々な成果が展示されていた。
来場者たちは驚く。
「悪魔族のパンは美味しい。」
「酒も美味い。」
「思っていたのと全然違う。」
偏見は知識によって消えていく。
旅行革命はそれを証明していた。
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そして。
最大の人気を誇ったのは食文化エリアだった。
巨大餃子街。
巨大麺街。
巨大酒場街。
巨大菓子街。
ありとあらゆる料理が並ぶ。
オーク餃子。
ボア餃子。
海鮮餃子。
クラーケン餃子。
テンタクル餃子。
魚介ラーメン。
味噌ラーメン。
オーク骨ラーメン。
肉まん。
魚介まん。
クラーケンまん。
観光客たちは歩き回る。
食べる。
また食べる。
そしてまた食べる。
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毎日行われる人気投票。
今年も議論が始まる。
「どこの餃子が一番うまい?」
世界中から集まった観光客が真剣に議論している。
教師も議論する。
職人も議論する。
研究者も議論する。
王族まで議論する。
平和な光景だった。
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夜になる。
巨大劇場。
吟遊詩人たちが舞台へ上がる。
演劇。
音楽。
舞踊。
創作語り。
異界で発展した録画再生魔導具によって世界中へ同時配信される。
観客は数十億人。
人類史上最大の観客数だった。
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劇場の最後。
老いた吟遊詩人が語る。
静かな声だった。
「昔。」
会場が静まる。
「旅は命懸けでした。」
誰も口を挟まない。
「盗賊がいた。」
「飢餓があった。」
「病があった。」
「貧困があった。」
多くの者が頷く。
祖父母から聞いた話。
歴史書で読んだ話。
確かにそうだった。
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吟遊詩人は続ける。
「だから人は外へ出なかった。」
「知らなかった。」
「知らないから恐れた。」
「恐れるから争った。」
劇場は静かだった。
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そして。
老人は微笑む。
「今は違う。」
会場の巨大映像に世界各地の風景が映る。
海。
山。
草原。
都市。
農村。
ドラゴン領。
悪魔領。
異界。
海洋都市。
人々の笑顔。
子供たちの笑顔。
教師たちの笑顔。
農民たちの笑顔。
職人たちの笑顔。
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「旅が人を変える。」
老人は語る。
「人が人を知る。」
「文化が文化を知る。」
「国が国を知る。」
「そして。」
ゆっくりと続ける。
「世界は少しずつ優しくなる。」
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劇場は静寂に包まれた。
そして。
万雷の拍手。
誰もが立ち上がる。
称賛。
祝福。
感謝。
全てが込められていた。
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旅行革命。
それは観光産業の発展ではなかった。
宿屋の発展でもない。
転移門の発展でもない。
人と人を繋ぐ革命だった。
かつて盗賊と飢餓に苦しんだ貧困村から始まった小さな流れ。
教育によって人材を育てた流れ。
農業革命によって飢餓を消した流れ。
医療によって病を減らした流れ。
文化によって心を豊かにした流れ。
その全てが一つに繋がり。
今や世界中の人々を旅へと導いていた。
そして人々は知る。
世界は広い。
世界は美しい。
世界には学ぶべきものが無数にある。
旅は終わらない。
人々が学び続ける限り。
文明もまた成長し続けるのだから。




