227.6話 異界文明建設計画
異界移住開始から半年。
開拓は新たな段階へ進んでいた。
最初の目標は生存だった。
次の目標は食料生産だった。
そして今。
アルカディア連邦は、そのさらに先へ進もうとしていた。
文明の建設。
それが新たな目標だった。
広大な異界。
空から見れば変化は明らかだった。
無数の小麦畑。
整備された街道。
巨大な運河。
計画的に配置された村々。
そして建設途中の都市。
人口二億二千万人。
教師二億人。
教導スキル覚醒者二億人。
その力は世界の常識を遥かに超えていた。
かつては食料充足率〇%だった異界。
今では状況が完全に変わっていた。
「第一収穫区、収穫完了!」
「第二収穫区、収穫開始!」
「第三収穫区、予測収量を上方修正!」
各地から報告が届く。
小麦。
大麦。
豆類。
根菜。
果樹。
広大な畑が実り始めていた。
農業教師たちは畑を見回る。
教えるためではない。
互いに学ぶためだった。
「この土壌なら輪作を増やせます。」
「こちらは堆肥の配合を変えましょう。」
「水路を一本追加すれば収量が伸びます。」
知識が流れる。
経験が流れる。
技術が流れる。
それはもはや一つの巨大な生命体のようだった。
誰か一人が賢いのではない。
全員が学ぶ。
全員が教える。
だから発展が止まらない。
巨大な農業地帯ではゴーレムたちが休むことなく働いていた。
ゴーレムトラクター。
ゴーレム耕運機。
ゴーレム収穫機。
ゴーレム運搬車。
数千万体が同時に稼働している。
「農業用ゴーレム第七世代完成!」
報告が響く。
設計したのはガイルたちだった。
「燃費が三割改善した。」
「耐久性も上がった。」
「整備も簡単になった。」
職人たちが笑う。
改良。
改善。
工夫。
それは彼らの誇りだった。
鍛冶師。
木工職人。
土木技師。
魔道具師。
二千万人の職人たちは日々進化している。
かつては冒険者だった者もいる。
難民だった者もいる。
食べることすら苦しかった者もいる。
今では文明を作る側になっていた。
巨大な工業都市。
そこでは魔道具工場が昼夜を問わず稼働していた。
マジックバッグ。
保存箱。
冷却箱。
浄化装置。
魔力蓄電器。
数え切れない魔道具が生産される。
職人たちは魔力操作を極めていた。
魔力循環も習得している。
長時間作業でも疲労が少ない。
さらに多くの者が魔力吸収技術を学び始めていた。
実質無限魔力への入り口。
かつて限られた才能ある者しか扱えなかった技術。
今では教育によって普及している。
それがアルカディア連邦だった。
知識は独占しない。
技術は囲い込まない。
共有する。
育てる。
広げる。
だから成長する。
紡織産業も急成長していた。
リーザ。
リーブ。
リーゼ。
三人の工房は巨大な産業都市へ変わっていた。
綿花畑は地平線まで続く。
糸が紡がれる。
布が織られる。
衣服が作られる。
作業員たちの多くは元難民だった。
元流民だった。
貧困に苦しんだ人々だった。
しかし今は違う。
技術を持つ。
知識を持つ。
誇りを持つ。
「次の染色技術です。」
若い職人が報告する。
「面白いわね。」
リーザが微笑む。
「試してみましょう。」
失敗を恐れない。
挑戦を歓迎する。
そんな文化が根付いていた。
その頃。
医療都市ではマイケルとエルナが忙しく動いていた。
巨大な治療院。
研究施設。
教育機関。
全てが一体となっている。
「病の発生率がさらに下がりました。」
報告書を見たマイケルが頷く。
「衛生教育の成果ですね。」
エルナも微笑む。
かつて病は恐怖だった。
村を滅ぼした。
家族を奪った。
人々を絶望させた。
しかし今は違う。
教育がある。
知識がある。
治療技術がある。
浄化魔法がある。
ヒーリングがある。
予防がある。
病は克服すべき問題になった。
運命ではなくなった。
それだけで世界は大きく変わる。
夕刻。
セリナは完成したばかりの高層監視塔から異界を見渡していた。
遠くまで続く畑。
整備された街道。
運河。
都市。
工房。
学校。
治療院。
市場。
全てが見える。
そして人々。
笑いながら働く人々。
学ぶ人々。
教える人々。
そこに恐怖はない。
飢餓もない。
絶望もない。
少なくとも大半の地域では消え始めていた。
「文明ですね。」
セリナが呟く。
隣にいたロバートが頷く。
「そうだな。」
元帥スキルを覚醒した男の目にも、その光景は眩しく映った。
「国を作っているんじゃない。」
ロバートは言う。
「人を育て続けた結果が、こうなった。」
セリナも理解していた。
アルカディア連邦の本質は領土ではない。
軍隊でもない。
王でもない。
教育だった。
人材だった。
環境だった。
だから広がる。
だから強い。
だから止まらない。
異界移住から半年。
かつて何もなかった大地には、数千万の畑と数十万の村、そして数千の都市が生まれていた。
農業革命。
工業革命。
教育革命。
医療革命。
それらが同時に進行している。
歴史上、誰も見たことがない速度だった。
そして異界のさらに奥地では、まだ誰も到達していない大地が無限に広がっている。
開拓は終わらない。
人材育成も終わらない。
文明建設も終わらない。
アルカディア連邦の挑戦は、まだ始まったばかりだった。




