表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

255/290

226話 ドラゴン、悪魔、そして困惑

アルカディア連邦設立から百五十年。


世界は完全に変わった。


かつて人々を苦しめた貧困。


病。


飢餓。


略奪。


奴隷商。


簒奪者。


それらは歴史書の中の存在になりつつあった。


PEAOによる教育。


魔力操作。


魔力循環。


農業革命。


紡織産業。


医療改革。


超能力教育。


そして何より。


人材育成。


世界は戦争によって変わったのではない。


教師によって変わったのである。


そして。


そんな世界で最も困っていた者たちがいた。


魔王ではない。


魔王はすでに加盟を決断した。


次に困ったのは。


ドラゴンだった。



世界樹北方。


天空山脈。


古代竜王ヴァルガンは巨大な黄金の瞳を開いた。


数千年生きる古代竜。


人類文明を何度も見てきた。


王国の誕生。


帝国の崩壊。


勇者。


魔王。


戦争。


疫病。


飢饉。


全て見てきた。


だからこそ。


彼は確信していた。


人類は短命。


人類は弱い。


人類は愚か。


だからこそ見守る価値がある。


そう思っていた。


思っていたのだ。


「……。」


竜王は巨大な頭を抱えた。


配下のドラゴンたちも困っていた。


「竜王様。」


「何だ。」


「人類が死にません。」


「知っている。」


「老いません。」


「知っている。」


「病気にもなりません。」


「知っている。」


「しかも増え続けています。」


「知っている。」


沈黙。


竜王は遠くを見た。


昔。


人類は百年も生きなかった。


今。


五百年生きる。


千年を超える者も現れている。


魔力循環。


魔力操作。


身体維持技術。


超能力治療。


医療技術。


教育。


全てが組み合わさった結果だった。


竜王は呟く。


「人間は短命だから見守る。」


配下が言う。


「短命ではありません。」


「……。」


竜王。


黙る。


別のドラゴンが言う。


「人間は弱い。」


「弱くありません。」


「……。」


さらに別のドラゴン。


「人間は愚か。」


「教師だらけです。」


「……。」


全員沈黙。


困った。


本当に困った。


ドラゴンたちは何千年も。


人類を年下として見てきた。


保護対象。


未熟者。


成長途中。


そんな認識だった。


ところが。


現在。


人類側には数百年単位の経験者が大量にいる。


研究者。


教師。


技術者。


医師。


統治者。


しかも全員が教育を受けている。


愚かな者がいないとは言わない。


しかし。


昔と比較にならない。


竜王は言った。


「昔はな。」


「はい。」


「人類が百年かけて学ぶことを。」


「はい。」


「我々は十年で教えられた。」


「はい。」


「今は。」


誰も答えられなかった。


今の人類は。


自分たちで学ぶ。


自分たちで研究する。


自分たちで改善する。


そして。


教師になる。


竜王は遠くを見る。


異界開拓団。


空間魔法師。


転移教師。


超能力研究者。


皆飛び回っている。


空を飛ぶ。


転移する。


異界へ行く。


戻ってくる。


「……。」


古代竜王。


生まれて初めて思った。


「我々、いらなくないか?」


周囲のドラゴンたちがうなだれた。



さらに困っていた者がいる。


悪魔だった。


深淵界。


悪魔領。


魔界七十二侯。


その中央会議場。


大混乱だった。


悪魔公爵ベルフェル。


頭を抱える。


「契約が減っている。」


周囲もうなずく。


悪魔の力は契約によって強化される。


欲望。


絶望。


嫉妬。


飢餓。


貧困。


病。


争い。


そこに付け込むのが悪魔だった。


しかし。


現在。


全部減った。


絶望が少ない。


貧困がない。


病がない。


食料がある。


教育がある。


仕事がある。


未来がある。


悪魔侯爵アスモレアが言う。


「誘惑しても断られる。」


「どうやって?」


「教育されている。」


会議場が静まる。


恐ろしい言葉だった。


「金をやろう。」


「働けば稼げます。」


「力をやろう。」


「学校で学びます。」


「寿命をやろう。」


「既に長命です。」


「病を治そう。」


「病院があります。」


「知識をやろう。」


「教師がいます。」


悪魔たち。


頭を抱える。


どうしようもなかった。


かつて。


悪魔は知識を独占していた。


今。


教師が五十億人いる。


知識の独占が成立しない。


悪魔公爵ベルフェルが呟く。


「契約の意味がない。」


「はい。」


「誘惑の意味もない。」


「はい。」


「取引も成立しない。」


「はい。」


全員。


沈黙。



そして。


問題はさらに深刻だった。


移住である。


悪魔領でも。


ドラゴン領でも。


移住希望者が増えていた。


理由は簡単だった。


教育。


研究。


異界。


新技術。


新産業。


新発見。


全てがPEAOに集まっている。


ドラゴンの若者たちは言う。


「研究したい。」


悪魔の若者たちは言う。


「教師になりたい。」


古い世代は困惑した。


竜王ヴァルガンは会議を開く。


悪魔側も参加する。


魔王も参加する。


三大勢力首脳会談だった。


会議開始十分。


全員が頭を抱えていた。


魔王。


「我々は加盟した。」


竜王。


「知っている。」


悪魔公爵。


「羨ましい。」


魔王。


「何がだ。」


悪魔公爵。


「悩みが終わった。」


魔王。


「……。」


否定できなかった。


加盟後。


魔族領は発展した。


教育が入った。


教師が増えた。


医療が向上した。


研究も進んだ。


犯罪も減った。


結果。


国民の支持率が上がった。


魔王は最近。


戦争の心配をしていない。


教師不足の心配しかしていない。


竜王は深いため息を吐く。


「我々は何をすればいい。」


魔王が答えた。


「教育を受ければいい。」


竜王。


絶句。


悪魔公爵も絶句。


昔ならあり得ない発言だった。


魔王。


世界最強候補の存在。


その魔王が。


教師の価値を語っている。


魔王は続ける。


「我々は勘違いしていた。」


「何をだ。」


「強さとは力ではない。」


会議室が静まる。


「人を育てる力だ。」


誰も反論できない。


世界はそれを証明している。


かつての世界最強は。


竜だった。


魔王だった。


悪魔だった。


今は違う。


教師だった。



その頃。


PEAO本部。


エレノア・グランディア侯爵。


アリア。


そして各種族代表が会議していた。


議題は単純だった。


「ドラゴン領加盟申請。」


「悪魔領加盟申請。」


全員が苦笑した。


アリアが資料を見る。


「百年前なら信じなかった。」


エレノアが頷く。


「私もです。」


「魔王加盟だけでも驚いた。」


「今度はドラゴンと悪魔。」


誰かが言う。


「戦争で統一されたわけではない。」


全員頷く。


その通りだった。


誰も征服していない。


誰も支配していない。


誰も服従させていない。


教育が広がった。


環境が変わった。


だから人が変わった。


人が変わったから。


世界が変わった。


エレノアは窓の外を見る。


そこには巨大都市。


学校。


研究所。


病院。


工場。


農地。


転移門。


そして。


笑いながら歩く様々な種族たち。


彼女は静かに呟く。


「環境が人を育てる。」


アリアも微笑む。


「そして。」


「人が世界を育てる。」


遠く。


異界へ向かう巨大転移門が輝いていた。


もはや世界は狭くない。


土地は無限に近い。


資源も豊富。


戦う理由は減っていく。


その結果。


最も困っているのは。


かつて世界を脅かした存在たちだった。


ドラゴン。


悪魔。


そして魔王。


彼らは初めて経験していた。


世界征服より難しい問題を。


「教師に勝つ方法が分からない。」


その言葉に。


誰も答えられなかった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ