表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

252/290

223話 新たな地平

アルカディア連邦設立から百年以上が経過した。


かつて存在した王国。


帝国。


侯爵領。


伯爵領。


子爵領。


男爵領。


そのほとんどが歴史書の中の存在になっていた。


誰かが革命を起こしたわけではない。


誰かが武力で滅ぼしたわけでもない。


自然に消えたのだ。


教育が広がったから。


人材が育ったから。


知識が共有されたから。


それだけだった。


昔は貴族だけが知識を持っていた。


今は違う。


誰もが学べる。


誰もが教師になれる。


誰もが技術を持てる。


封建制度は存在理由を失った。


だから静かに歴史の幕を下ろした。


アルカディア中央会議場。


世界会議が開かれていた。


出席者は人族。


獣人。


エルフ。


ドワーフ。


ダークエルフ。


海洋種族。


そして魔族。


今や種族の違いは大きな問題ではない。


共通言語。


共通教育。


共通技術。


それらが世界を繋いでいた。


議長席に座るのはマイケル。


かつて泣き虫だった少年。


今では世界教育機構の最高責任者だった。


「本日の議題は人口問題です。」


静かな声が会場へ響く。


巨大な映像が浮かぶ。


世界人口。


五十億人。


増加継続中。


平均寿命三百年以上。


長命種は千年以上。


超長命種は二千年以上。


人々は死ななくなった。


病も無い。


飢餓も無い。


戦争も無い。


だから人口だけが増えていく。


会場が静まる。


問題は明白だった。


世界が狭い。


大陸は有限だった。


都市も有限だった。


農地も有限だった。


食料は足りている。


資源も足りている。


しかし土地だけは増えない。


その時。


魔族代表ロバートが手を上げた。


「ひとつ提案がある。」


全員の視線が集まる。


ロバートは立ち上がった。


「魔族領を調査しないか。」


その言葉に会場がざわつく。


魔族領。


人族がほとんど立ち入らなかった地域。


理由は単純だった。


必要が無かった。


争いも無かった。


交流も少なかった。


しかし今は違う。


土地が必要だった。


セリナが頷く。


「調査価値はあります。」


「魔族領は未開発地域が多い。」


「何か見落としている可能性があります。」


会議は満場一致で可決された。


数日後。


調査団が魔族領へ向かう。


参加者は多い。


マイケル。


エミリー。


セリナ。


トミー。


アリア。


そして各種族の代表者たち。


空間転移。


飛行魔法。


転移門。


百年前なら国家事業だった移動が今では日常だった。


魔族領中央都市。


そこは人々の予想を超えていた。


巨大。


広大。


豊か。


そして静かだった。


魔王城。


かつて恐怖の象徴だった建物。


今では行政庁舎になっている。


黒い石造りの巨大建築。


そこへ一人の男が現れた。


魔王。


かつて世界を恐怖に陥れた存在。


しかし現在は違う。


落ち着いた老人のような雰囲気を持つ男だった。


「ようこそ。」


穏やかに笑う。


エミリーが苦笑する。


「百年前なら信じられない光景ね。」


魔王も笑った。


「私もそう思う。」


事実だった。


百年前なら戦争だった。


今は会談だった。


教育は魔王すら変えていた。


会議室。


調査団と魔王が向かい合う。


最初に口を開いたのはトミーだった。


「率直に聞く。」


「土地はあるか?」


会場が笑う。


商人らしい質問だった。


魔王は頷く。


「ある。」


「むしろ余っている。」


全員が顔を見合わせる。


意外だった。


魔王は地図を広げた。


巨大な地図。


そこには見慣れない領域が描かれていた。


「ここだ。」


魔王が指差す。


誰も知らない土地。


いや。


土地というより空間だった。


セリナが目を細める。


「これは何ですか。」


魔王は静かに答えた。


「異界。」


会議室が静まり返る。


異界。


伝説では聞いたことがある。


神話にも登場する。


しかし実在は確認されていなかった。


魔王は続ける。


「魔族は昔から知っていた。」


「ただ利用できなかった。」


「危険だったからな。」


アリアの目が輝く。


研究者の顔になっていた。


「説明して。」


魔王は地図を広げる。


「異界は広い。」


「非常に広い。」


「どこまでも続く。」


「境界が確認できない。」


全員が息を呑む。


さらに魔王は言った。


「事実上無限だ。」


その瞬間。


会議室が騒然となった。


無限の土地。


それは世界を変える言葉だった。


人口問題。


土地問題。


資源問題。


全てを解決する可能性がある。


しかし魔王の表情は複雑だった。


「我々には難しかった。」


「なぜですか?」


マイケルが尋ねる。


魔王は苦笑した。


「魔族は数が少ない。」


「開拓能力も低い。」


「飛行も転移も一般化していない。」


その説明で全員が理解した。


アルカディア連邦なら違う。


転移魔法。


飛行魔法。


空間魔法。


教師。


建築技術。


農業技術。


物流技術。


全て持っている。


むしろ相性が良すぎた。


その時。


会議室の隅で静かに話を聞いていたドラゴン代表が口を開いた。


巨大な金色の竜。


長命種の中でも最上位。


知識も豊富。


力も強大。


しかしその言葉は意外だった。


「我々にも答えは無かった。」


会場が静まる。


ドラゴンは続ける。


「強さはある。」


「寿命もある。」


「知識もある。」


「しかし解決策は無かった。」


誰も反論しない。


それが事実だった。


力だけでは世界は変わらない。


教育が必要だった。


人材が必要だった。


知恵が必要だった。


さらに悪魔族代表も苦笑する。


「我々も困っていた。」


「土地が余りすぎても困る。」


「人口が増えすぎても困る。」


「結局は管理できる人材が必要なんだ。」


会場の空気が変わる。


誰も敵ではない。


皆同じ問題を抱えていた。


百年前なら戦争になったかもしれない。


今は違う。


話し合う。


知識を共有する。


解決策を探す。


教育国家らしい結論だった。


そしてマイケルは静かに立ち上がった。


窓の外には夕日が広がる。


異界への転移門が遠くに見える。


未知の世界。


無限の土地。


新たな地平。


人々は再び挑戦することになる。


貧困村から始まった旅は終わらない。


世界はまだ広がり続けていた。


そして新たな開拓の時代が静かに幕を開けようとしていた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ