221.5話 PEAO・後編
PEAO発足から半年。
世界は目に見えて変わり始めていた。
かつて戦乱で有名だった国々。
かつて飢餓に苦しんでいた地域。
かつて病によって人口を減らし続けていた国々。
その多くが変化を始めていた。
理由は単純だった。
人材が来る。
教育が来る。
技術が来る。
それだけで国は変わる。
PEAO本部。
巨大な作戦室には世界地図が広げられていた。
エレノアが資料を確認している。
「今年だけで三千万人が識字教育を受けました。」
周囲が頷く。
驚くべき数字だった。
だがアルカディア連邦から見れば決して不可能ではない。
教師は二十四億五千万人。
教導スキル覚醒者は二十四億人。
教える人材は無限に近かった。
「こちらは医療部門。」
エルナが報告する。
「感染症による死亡率が平均四十七パーセント減少。」
「乳児死亡率も改善しています。」
各国代表が静かに拍手した。
かつて病は運命だった。
貧しい国では風邪一つで命を落とした。
治癒師は貴族だけのものだった。
今は違う。
治療院が増えた。
教育された治癒師が増えた。
衛生知識が広まった。
環境が変われば人も変わる。
それを世界は証明し始めていた。
別室。
物流部門。
そこではトミーが各国担当者へ講義をしていた。
黒板には大きく文字が書かれている。
在庫。
流通。
原価。
相場。
物流の基本だった。
「戦争ばかりやってた国はな。」
トミーが笑う。
「だいたい在庫管理が下手なんだ。」
各国担当者が苦笑する。
事実だった。
食料が足りない。
そう言いながら倉庫には余っている。
地方にはあるのに都市へ届かない。
商人が情報を持っていない。
そんな国ばかりだった。
「まず倉庫を作れ。」
「次に数えろ。」
「毎日数えろ。」
「話はそこからだ。」
極めて単純だった。
しかし効果は大きい。
農業生産量が増えても流通がなければ意味がない。
収穫しても倉庫がなければ腐る。
教育だけでは足りない。
物流も必要だった。
そしてトミーはそれを知っていた。
その頃。
紡織部門ではリーザ、リーブ、リーゼが忙しく働いていた。
エルフたちが中心となり各国へ技術を教えている。
糸を作る。
布を織る。
服を作る。
単純な技術。
しかし貧困国ではそれが無かった。
衣服は命だった。
寒さを防ぐ。
病を防ぐ。
働く環境を整える。
結果として生産力が上がる。
「紡織産業は国を豊かにします。」
リーザが説明する。
「農業と同じくらい重要です。」
参加者たちは真剣に聞いていた。
かつてなら考えられない光景だった。
戦争技術より織物技術の方が人気がある。
世界は確実に変わっていた。
PEAO本部の庭園。
そこではアリアが若い研究者たちに囲まれていた。
百年以上研究を続けた魔女。
知識の宝庫。
若い研究者たちは目を輝かせている。
「先生。」
「この魔力循環理論について教えてください。」
「こちらの魔力操作理論も。」
質問が飛び交う。
アリアは少しだけ微笑んだ。
昔なら考えられなかった。
知識は独占されていた。
貴族だけ。
王族だけ。
研究者だけ。
今は違う。
教える。
共有する。
伝える。
それが当たり前になった。
「知識は使われてこそ価値がある。」
アリアは静かに言った。
「独占しても世界は豊かにならない。」
若い研究者たちは真剣に頷く。
そしてさらに学ぶ。
その光景を見ていたエレノアも微笑んだ。
かつて奴隷制度に反対した時。
彼女は孤独だった。
誰も聞かなかった。
誰も理解しなかった。
今は違う。
世界中に仲間がいる。
世界中に教師がいる。
世界中に学ぶ者がいる。
それだけで胸が熱くなる。
その夜。
PEAO本部で同盟国会議が開かれた。
参加国。
百三十一ヵ国。
発足からさらに増えていた。
救済された国は必ず参加する。
それが新しい流れになっていた。
誰も強制していない。
誰も支配していない。
それでも参加する。
理由は簡単だった。
豊かになるから。
平和になるから。
教育が受けられるから。
各国代表が順番に発言していく。
「我が国では飢餓が消えました。」
「病による死亡率が半分以下になりました。」
「学校が建設されました。」
「農業生産量が三倍になりました。」
会場は拍手に包まれる。
その光景を見ながらロバートが呟いた。
「不思議なもんだな。」
「昔は戦争の報告ばかりだった。」
エミリーも頷く。
「今は学校の報告ばかりだ。」
それが平和だった。
兵士を失う報告ではない。
教師が増えた報告。
治癒師が増えた報告。
農地が増えた報告。
倉庫が増えた報告。
そんな話ばかりになっていた。
世界は徐々に変わっている。
少しずつ。
確実に。
かつて貧困村だったアルナ村から始まった流れ。
農業革命。
紡織産業。
教育。
物流。
治療。
それらは今や世界規模へ広がっていた。
誰か一人の力ではない。
多くの人材が育った。
多くの教師が生まれた。
多くの国が変わった。
環境が人を育てる。
その言葉を証明するように。
世界は少しずつ平和になっていく。
夜空には無数の星が輝いていた。
争いの火ではない。
希望の光だった。
そしてPEAOは今日もまた、新たな国へ教師団を送り出していた。
学びを届けるために。
未来を育てるために。




