24話:エルフ移住
朝。
村の見張り台から鐘が鳴った。
カン、カン、カン。
緊急ではない。
来訪者を知らせる鐘だ。
畑で働いていた村人達が顔を上げた。
門番の獣人が声を張り上げる。
「人が来るぞー!」
「かなりの人数だ!」
エミリーが門へ向かう。
リーヴとティグリスも続く。
ロバートは大剣を背負ったまま歩き出した。
村の外。
街道の向こうから集団が現れる。
全員が痩せていた。
疲れ切っていた。
その耳は長い。
エルフだった。
老人。
女。
子供。
若い戦士。
弓を持つ者。
薬草袋を背負う者。
木工道具を抱える者。
およそ三十人。
先頭に立つ白髪のエルフが膝をついた。
「お願いです。」
「我らを受け入れてください。」
「森を追われました。」
周囲が静まり返る。
セリナが一歩前に出た。
「何があったのですか。」
老エルフが唇を噛む。
「奴隷商です。」
「森を焼きました。」
「若い者を攫いました。」
「抵抗した者は殺されました。」
エミリーの目が険しくなる。
ティグリスも拳を握った。
ロバートは静かに聞いている。
老エルフは頭を下げた。
「食料もありません。」
「住む場所もありません。」
「働きます。」
「どうか。」
その時。
ケルナインが前へ出た。
「受け入れる。」
即答だった。
老エルフが顔を上げる。
「本当に?」
「働けるなら問題ない。」
「ここは食うだけの場所じゃない。」
「働く者の場所だ。」
老エルフの目から涙がこぼれた。
村人達も安堵する。
こうして。
さらに三十人が村へ加わった。
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その日の夕方。
セリナは帳簿を睨んでいた。
人口。
食料。
備蓄。
畑面積。
すべて計算する。
そして顔を上げた。
「問題があります。」
ケルナインが頷く。
「食料か。」
「はい。」
セリナは即答した。
「人口が増えすぎました。」
「このままでは冬が危険です。」
村人達も真剣な表情になる。
そこで。
トミーが手を挙げた。
「なあ。」
「ちょっと見てほしいものがある。」
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翌朝。
トミーは森の奥へ皆を連れて行った。
木の皮。
果実。
土。
葉。
様々な物を並べる。
「最近さ。」
「商売鑑定を使ってたんだ。」
トミーの才能は成長していた。
物の価値。
用途。
流通。
保存。
そうした知識が頭へ流れ込む。
「これ。」
果実を指差す。
「酵母。」
次に土を示す。
「こっちは麹菌。」
誰も意味が分からない。
トミーは笑った。
「酒が作れる。」
村人達がざわつく。
「酒?」
「本当か?」
「酒だけじゃねえ。」
トミーはさらに続けた。
「調味料も作れる。」
「保存食も増える。」
「商売になる。」
ケルナインが頷く。
「正解だ。」
トミーの顔が明るくなった。
初めて。
自分の才能が村の役に立つ。
そう実感できた。
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さらに。
ケルナインは畑を見渡した。
「大豆を増やす。」
「芋も増やす。」
村人達が首を傾げる。
トミーが説明する。
「大豆は食える。」
「保存もできる。」
「将来は調味料になる。」
「芋はすぐ育つ。」
エルフの薬師も頷く。
「土も元気になります。」
ケルナインは命令しない。
ただ知識を伝える。
判断するのは村人達だ。
皆が納得した。
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その頃。
エルフの若い戦士達は訓練場にいた。
弓を持っている。
エミリー達が見守る。
一人の女性エルフが矢を放った。
ヒュン。
百メートル先の木に突き刺さる。
獣人達が驚く。
「遠い!」
「すげぇ!」
リーヴも感心する。
「私達にはない戦い方だ。」
エルフ達は森で生きてきた。
遠距離戦が得意。
村に足りなかった戦力だった。
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その夜。
ケルナインは静かに村を見渡した。
畑を耕す者。
木を切る者。
家を建てる者。
弓を作る者。
薬草を整理する者。
酒造りを夢見る者。
誰も遊んでいない。
誰も諦めていない。
皆が未来へ向かっている。
かつて。
盗賊に怯えるだけだった貧困村。
今は違う。
獣人。
人間。
エルフ。
ダークエルフ。
魔族。
様々な種族が同じ場所で働いている。
人は才能で育つわけではない。
環境が人を育てる。
学べる場所があるから育つ。
助け合える場所があるから育つ。
そして。
村はまた一歩。
国家への道を進み始めていた。




