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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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23話 獣人移住

春の陽射しが村を照らしていた。


かつて盗賊に怯え、飢えに苦しみ、病に倒れる者が絶えなかった貧困村。


今ではその姿が少しずつ変わり始めている。


畑は広がった。


井戸は増えた。


治療院には薬草が備蓄されている。


子供たちは文字を学び始めている。


訓練場では村人たちが魔法や戦闘技術を学んでいる。


環境が人を育てる。


ケルナインが最初から言い続けていた言葉だった。


そしてその噂は。


少しずつ外へ広がっていた。



「また増えてるわね」


見張り台の上。


セリナが村を見下ろした。


新しく建てられた家。


開墾された畑。


荷物を運ぶ村人。


以前とは比べ物にならない。


隣ではトミーが倉庫の帳簿を抱えていた。


「そりゃ増えるさ」


「飯が食えて寝床があって病気も治せる」


「そんな場所は珍しい」


狐耳を揺らしながら笑う。


「噂が広がってる」


「今じゃ近隣じゃ有名だぜ」


セリナも否定しなかった。


流民。


難民。


農民。


職人。


最近は毎週のように人が来る。


そして。


今日も来た。



上空。


鳥人族のミシェルが翼を広げて飛んでいた。


風を切る。


索敵。


まだ未熟。


まだ駆け出し。


それでも誰より広い範囲を見渡せる。


それが彼女の強みだった。


遠方。


街道。


人影。


いや。


集団。


ミシェルの瞳が細くなる。


三十人前後。


武装あり。


子供あり。


老人あり。


獣人。


敵意はない。


急降下。


村へ戻る。


「移住希望者です!」


「獣人が三十人ほど!」


村がざわつく。


エミリーが立ち上がった。


狼獣人の耳がぴくりと動く。


「獣人……」


自然と前へ出る。


昔の自分を思い出した。


居場所を失った日々。


飢え。


恐怖。


絶望。


だからこそ分かる。


来る者たちの気持ちが。



一時間後。


獣人たちが到着した。


痩せている。


疲れている。


子供もいる。


老人もいる。


女性もいる。


長い逃亡生活だったのだろう。


それでも。


先頭の二人だけは違った。


一人は狼獣人。


銀髪。


青い瞳。


長身。


腰に長剣。


戦士だった。


美しい。


だが美しさより先に強さが目に入る。


もう一人。


虎獣人。


黄金色の瞳。


褐色の肌。


背中には巨大な大剣。


こちらも女性だった。


戦場を生き抜いた戦士。


そんな雰囲気がある。


エミリーは見た瞬間に理解した。


強い。


本当に強い。


そして。


負けてきた。


その匂いがした。


狼獣人が前へ出る。


「私はリーヴ」


静かな声。


疲れている。


だが芯は折れていない。


虎獣人も名乗った。


「ティグリスだ」


短い。


だが堂々としている。


エミリーはしばらく二人を見た。


そして言った。


「逃げてきたのね」


リーヴが驚く。


「分かるの?」


エミリーは苦笑した。


「昔の私と同じ顔してる」


その言葉で。


リーヴの表情が揺れた。



村へ案内される途中。


事情を聞くことになった。


セリナ。


ロバート。


ケルナイン。


そしてエミリー。


リーヴは静かに話し始めた。


「私たちの集落は北にありました」


「獣人だけの小さな集落です」


平和だった。


決して豊かではない。


それでも生きていた。


だが。


奴隷商が来た。


それも一度ではない。


何度も。


何度も。


若い女を攫う。


子供を攫う。


反抗する者を殺す。


そして最後。


集落そのものが襲撃された。


ティグリスが拳を握る。


爪が掌に食い込む。


「戦った」


「全員でな」


声に悔しさが滲む。


「だが負けた」


沈黙。


「仲間を守れなかった」


「連れていかれた」


「助けられなかった」


誰も何も言わなかった。


エミリーだけが静かに頷く。


「私も同じだった」


ティグリスが顔を上げる。


「……何?」


「昔の私は弱かった」


「村も弱かった」


「盗賊が来れば怯えてた」


「守れなかった」


ティグリスは黙る。


エミリーは続ける。


「だから分かる」


「アンタたちの気持ち」


リーヴの目から涙が落ちた。


気づかないうちに。


限界だった。


ずっと。


ずっと。


強くあろうとしていた。



ケルナインは静かに鑑定していた。


能力。


適性。


資質。


そして。


予想通りだった。


リーヴ。


風属性適性。


索敵適性。


指導適性。


高い。


ティグリス。


土属性適性。


身体強化適性。


筋肉強化適性。


非常に高い。


眠った才能。


教育がなかっただけ。


この村にはそういう人材ばかり集まる。


ケルナインは言った。


「受け入れる」


獣人たちが息を呑む。


「条件は三つ」


全員が緊張する。


「働くこと」


「学ぶこと」


「村を守ること」


それだけだった。


リーヴは呆然とする。


ティグリスも同じだった。


もっと厳しい条件を覚悟していた。


奴隷契約。


財産没収。


強制労働。


だが違った。


ケルナインは静かに言う。


「人材こそ国家だ」


「働く意思があるなら歓迎する」


その瞬間。


後ろにいた子供が泣いた。


「ご飯……食べられるの……?」


エルナが駆け寄る。


優しく抱きしめた。


「食べられるよ」


少女は泣き崩れた。


他の獣人たちも涙を流す。


長かった。


本当に長かった。



病人たちは治療院へ。


マイケルが対応する。


光属性魔法。


ヒール。


傷が癒える。


熱が下がる。


子供たちの顔色が良くなる。


獣人たちは驚愕した。


「本当に治った……」


「無料なのか……?」


マイケルは笑う。


「ここでは普通です」


彼も昔は救われる側だった。


今は違う。


救う側になっていた。



夜。


歓迎会が開かれた。


大鍋のスープ。


焼いた肉。


野菜。


焼きたてのパン。


豪華ではない。


だが十分だった。


リーヴは涙を流した。


「温かい……」


エミリーが隣に座る。


「美味しい?」


リーヴは頷く。


「美味しい」


「こんな食事、久しぶり」


ティグリスは黙々と食べていた。


一杯。


二杯。


三杯。


四杯。


五杯。


ガイルが豪快に笑う。


「気に入った!」


「その食いっぷりは好きだ!」


初めて。


ティグリスが少し笑った。



食堂の光景を見ながら。


ロバートは考えていた。


戦士が増えた。


農民が増えた。


職人もいる。


子供もいる。


未来が増えた。


セリナも同じ結論だった。


村は大きくなる。


もっと大きく。


もっと強く。


戦力ではない。


人材で。



食事が終わる頃。


リーヴが呟いた。


「ここなら」


「強くなれるのかな」


エミリーは即答した。


「なれる」


迷いはない。


昔。


自分も言われた。


救われた。


だから今度は。


自分が言う番だった。


「この村はね」


「強い奴が偉いんじゃない」


リーヴが顔を上げる。


エミリーは笑った。


「頑張る奴が育つ場所なの」


かつて救われた狼獣人は。


今度は誰かを迎える側になっていた。


環境が人を育てる。


その言葉を証明するように。


新たな三十人の獣人たちが。


村の未来へ加わろうとしていた。







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