表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/290

22話:流民受け入れ

朝。


見張り台の上でミシェルが空を見ていた。


鳥人族の視力は遠方まで届く。


風属性索敵。


光属性索敵。


超能力による遠隔透視。


複数の索敵を重ねていたミシェルが眉を動かした。


「人です」


隣にいたエミリーが顔を上げる。


「盗賊か?」


「違います」


「流民です」


その報告はすぐに村へ伝わった。


広場に村人が集まる。


エミリー。


セリナ。


トミー。


マイケル。


エルナ。


ロバート。


ガイル。


そしてケルナイン。


やがて街道の先から百人ほどの集団が現れた。


老人。


女。


子供。


農民。


職人。


荷車を押す者。


肩を支え合う者。


誰もが痩せていた。


長く食えていないことが分かる。


最前列の老人が頭を下げた。


「お願いです」


「仕事をください」


「食べ物をください」


「子供だけでも……」


その光景にエルナは唇を噛んだ。


昔の村を思い出していた。


飢え。


病。


貧困。


希望のない日々。


あれは遠い昔ではない。


ほんの少し前の話だった。


静寂。


そこで口を開いたのはケルナインではない。


セリナだった。


「受け入れます」


流民たちの顔が上がる。


「ただし条件があります」


静かな声だった。


「働く意思があること」


「学ぶ意思があること」


「犯罪者ではないこと」


誰も反論しない。


反論できない。


セリナは続ける。


「この村は施しだけを与える場所ではありません」


「共に働く共同体です」


「その条件を満たすなら歓迎します」


流民たちの目に光が戻った。


そこから選別が始まった。


---


セリナが聞き取りを担当する。


名前。


年齢。


職業。


技能。


家族構成。


過去。


一人ずつ確認する。


その隣ではトミーが目を光らせていた。


「鍛冶屋か?」


「はい」


「何年だ?」


「二十五年」


トミーは男の手を見る。


厚い皮。


火傷の跡。


本物だ。


「採用」


次。


農民。


次。


織工。


次。


大工。


次。


石工。


トミーの目が輝き始めた。


「当たりだな」


「大当たりだ」


セリナも帳面へ記入していく。


農民。


職人。


労働者。


技術者。


村に足りない人材ばかりだった。


その頃。


エミリーは別の仕事をしていた。


狼獣人の嗅覚。


耳。


勘。


それらを総動員する。


そして一人の男の前で止まった。


「臭う」


男の顔が固まる。


「何がだ」


「血の臭い」


周囲が静まる。


男が視線を逸らした。


その瞬間だった。


セリナが影を伸ばす。


闇属性魔法。


影拘束。


男の足が固定される。


「なっ!?」


倒れ込む男。


セリナは男の荷物へ触れた。


サイコメトリー。


念視。


記憶が流れ込む。


泣き叫ぶ子供。


鎖。


檻。


奴隷市場。


売買。


暴力。


セリナの目が冷たくなる。


「奴隷商です」


空気が変わった。


ロバートが前へ出る。


巨大な体が男を見下ろした。


「本当か」


「間違いありません」


男は叫ぶ。


「違う!」


「昔の話だ!」


しかし無駄だった。


エミリーは鼻を鳴らす。


「嘘」


さらに調査を進める。


結果。


仲間が四人見つかった。


合計五人。


全員が奴隷商崩れだった。


即座に追放が決定する。


流民たちは震えた。


自分たちまで追い返されると思ったからだ。


しかし違った。


セリナが言う。


「罪人を排除します」


「皆さんを排除するわけではありません」


その言葉に流民たちは安堵した。


---


夕方。


選別が終わる。


セリナが帳面を読み上げた。


「流民百人」


「犯罪者五人」


「追放五人」


「受け入れ九十五人」


数字は正確だった。


さらに続ける。


「農民三十七人」


「織工十一人」


「大工九人」


「石工六人」


「鍛冶五人」


「元神官三人」


「その他二十四人」


合計九十五人。


トミーが口笛を吹く。


「すげぇな」


「農地を増やせる」


「家も建つ」


「布も作れる」


織工十一人。


これは大きい。


紡織産業の種になる。


村人たちも理解していた。


人が増えただけではない。


技術が増えたのだ。


---


夜。


広場へ全員が集まる。


新しく来た九十五人。


そして村人たち。


静かにケルナインが前へ出た。


誰も喋らない。


ケルナインは短く言った。


「この村は人を捨てない」


流民たちが顔を上げる。


「種族も」


「出身も」


「身分も問わない」


エルフ。


獣人。


人間。


魔族。


皆を見る。


「働く者を歓迎する」


「学ぶ者を歓迎する」


「人を支える者を歓迎する」


静寂。


そして続く。


「だが」


その一言だけで空気が締まる。


「罪は別だ」


ケルナインは流民全員を見る。


「人を売る者」


「人を奪う者」


「弱者を食い物にする者」


「そういう者は不要だ」


誰も反論できなかった。


正論だからではない。


皆が被害者だったからだ。


だからこそ理解できた。


罪と罰。


それは必要だった。


ケルナインは最後に言う。


「才能が無い人間などいない」


皆が顔を上げる。


「教育が無かっただけだ」


「環境が無かっただけだ」


マイケルが頷く。


エルナも頷く。


エミリーも。


セリナも。


彼ら自身が証明だった。


かつて弱かった。


かつて何もできなかった。


しかし環境が変わった。


教育があった。


だから成長できた。


ケルナインは静かに言う。


「学べ」


「働け」


「そして次の誰かを育てろ」


その夜。


九十五人の流民が村人になった。


貧困村はまた一歩大きくなる。


農業革命は加速する。


紡織産業の芽が生まれる。


教育も広がる。


国家とは城ではない。


国家とは人である。


その事実を示すように、村の灯火は以前よりもずっと明るく夜を照らしていた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ