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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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21.5話 覚醒の兆し

盗賊を撃退してから数日。


貧困村だったこの村は、少しずつ変わり始めていた。


畑では作業する人間が増えた。


井戸の周囲では子供たちの笑い声が聞こえる。


以前なら考えられない光景だった。


だが、ケルナインは浮かれていなかった。


村が成長するほど、新しい問題が生まれる。


人が増えれば情報が必要になる。


食料が増えれば管理が必要になる。


守るものが増えれば索敵が必要になる。


そして。


村にはまだ知らない者たちがいた。


才能を持ちながら、それに気づいていない者たちが。



朝。


村外れの見張り台。


鳥人族のミシェルが空から降りてきた。


大きな翼。


鋭い目。


鳥人族。


人族からはハーピーと呼ばれる種族である。


空を飛べる。


それだけで大きな価値があった。


だが本人は首を振る。


「まだまだです」


「飛べるだけですよ」


ミシェルは苦笑した。


「本当に強い索敵師はもっと先が見えるそうです」


「風の流れを読み」


「魔力を感じ」


「遠くを見通す」


「私はまだ初心者です」


謙虚だった。


だからこそケルナインは評価していた。


飛べるだけでも十分な才能。


そこに努力が加わる。


伸びないはずがない。


近くではマイケルが頷く。


「先生はすごいですよ」


「空から見張ってくれるだけで助かってます」


ミシェルは照れくさそうに笑った。


まだ若い。


まだ未熟。


だから伸びる。


環境が人を育てる。


ケルナインの考えは変わらない。



その日。


セリナは村外の調査を担当していた。


盗賊団が壊滅した後の確認。


周辺の安全確認。


それが仕事だった。


ダークエルフの耳が風を拾う。


森は静かだった。


不自然なほどに。


「……」


歩く。


さらに歩く。


すると見つけた。


壊れた荷車。


折れた剣。


乾いた血。


数日前の戦闘跡。


盗賊の被害者だろう。


セリナは膝をつく。


冷静な女だった。


感情より先に状況を分析する。


何人。


どこから。


どこへ。


何が起きた。


知りたい。


理解したい。


真実を見たい。


その瞬間。


魔力が震えた。


視界が揺れる。


「え……?」


世界が反転する。


そして。


映像。


男。


女。


子供。


流民の一団。


痩せている。


病人もいる。


泣いている子供もいる。


そこへ盗賊が襲い掛かった。


悲鳴。


怒号。


血。


略奪。


荷物を奪われる。


家族が引き離される。


逃げる。


転ぶ。


泣く。


叫ぶ。


映像が終わった。


セリナは息を荒げる。


「今のは……」


理解できない。


だが。


確信だけはあった。


この剣が見せた。


過去を。


その時だった。


頭の中に声が響く。


【超能力覚醒】


【サイコメトリー】


物体に残留した記憶を読む能力。


セリナは目を見開いた。


「過去を……見る能力……」


理解する。


自分の性質に合っている。


知りたい。


理解したい。


分析したい。


その欲求が能力になった。


自然だった。



夕方。


村へ戻る。


セリナはケルナインへ報告した。


過去視のことも。


流民の存在も。


ケルナインは静かに聞いた。


「なるほど」


それだけだった。


驚かない。


否定もしない。


才能が開花した。


それだけのこと。


この村では珍しくない。


セリナは少し笑った。


以前なら信じられなかった。


今では違う。


才能は生まれつきではない。


環境で育つ。


この村はそれを証明している。



夜。


セリナは眠れなかった。


能力が気になる。


試したい。


理解したい。


村の外へ出る。


月明かり。


足元に影が落ちる。


その時。


影が揺れた。


「?」


風ではない。


自分の意思。


影が伸びる。


細く。


鋭く。


まるで鞭。


石へ当たる。


乾いた音。


セリナは息を呑んだ。


「影が……動いた……」


ダークエルフ。


闇属性。


本来の適性。


今まで眠っていた力。


影は再び動く。


今度は木へ絡みついた。


捕縛。


拘束。


闇属性。


影魔法。


理解した瞬間。


頭に情報が流れ込む。


【影鞭】


【影捕縛】


【影拘束】


セリナは小さく笑った。


「なるほど」


「こういうことですか」


力に溺れない。


力を理解する。


それがセリナだった。



同じ頃。


エレノア・グランディア侯爵も村に滞在していた。


白髪。


杖。


老女。


王都では変わり者扱いされた貴族。


奴隷制度へ反対した。


民を守ろうとした。


結果。


嫌われた。


追いやられた。


それでも信念は曲げなかった。


今。


彼女は村を見ていた。


畑。


学校。


治療院。


訓練場。


人が育つ場所。


「懐かしいですね」


誰にも聞こえない声。


若い頃。


目指した理想。


それがここにある。


エレノアは微笑む。


「まだ小さい」


「ですが」


「良い村です」


彼女は気づいていた。


この村は強い。


戦力ではない。


人材で。



翌朝。


ミシェルは空を飛ぶ。


マイケルは治療院へ向かう。


エルナは子供たちへ文字を教える。


エミリーは訓練場で汗を流す。


トミーは倉庫で在庫を数える。


ロバートは村人たちの相談に乗る。


セリナは新たな能力を試していた。


誰も完成していない。


誰も最強ではない。


だから成長できる。


環境が人を育てる。


その言葉を証明するように。


貧困村だった小さな村は。


静かに。


確実に。


未来へ向かって進み始めていた。


そしてその先には。


流民たちとの出会いが待っていた。







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