21.5話 覚醒の兆し
盗賊を撃退してから数日。
貧困村だったこの村は、少しずつ変わり始めていた。
畑では作業する人間が増えた。
井戸の周囲では子供たちの笑い声が聞こえる。
以前なら考えられない光景だった。
だが、ケルナインは浮かれていなかった。
村が成長するほど、新しい問題が生まれる。
人が増えれば情報が必要になる。
食料が増えれば管理が必要になる。
守るものが増えれば索敵が必要になる。
そして。
村にはまだ知らない者たちがいた。
才能を持ちながら、それに気づいていない者たちが。
◆
朝。
村外れの見張り台。
鳥人族のミシェルが空から降りてきた。
大きな翼。
鋭い目。
鳥人族。
人族からはハーピーと呼ばれる種族である。
空を飛べる。
それだけで大きな価値があった。
だが本人は首を振る。
「まだまだです」
「飛べるだけですよ」
ミシェルは苦笑した。
「本当に強い索敵師はもっと先が見えるそうです」
「風の流れを読み」
「魔力を感じ」
「遠くを見通す」
「私はまだ初心者です」
謙虚だった。
だからこそケルナインは評価していた。
飛べるだけでも十分な才能。
そこに努力が加わる。
伸びないはずがない。
近くではマイケルが頷く。
「先生はすごいですよ」
「空から見張ってくれるだけで助かってます」
ミシェルは照れくさそうに笑った。
まだ若い。
まだ未熟。
だから伸びる。
環境が人を育てる。
ケルナインの考えは変わらない。
◆
その日。
セリナは村外の調査を担当していた。
盗賊団が壊滅した後の確認。
周辺の安全確認。
それが仕事だった。
ダークエルフの耳が風を拾う。
森は静かだった。
不自然なほどに。
「……」
歩く。
さらに歩く。
すると見つけた。
壊れた荷車。
折れた剣。
乾いた血。
数日前の戦闘跡。
盗賊の被害者だろう。
セリナは膝をつく。
冷静な女だった。
感情より先に状況を分析する。
何人。
どこから。
どこへ。
何が起きた。
知りたい。
理解したい。
真実を見たい。
その瞬間。
魔力が震えた。
視界が揺れる。
「え……?」
世界が反転する。
そして。
映像。
男。
女。
子供。
流民の一団。
痩せている。
病人もいる。
泣いている子供もいる。
そこへ盗賊が襲い掛かった。
悲鳴。
怒号。
血。
略奪。
荷物を奪われる。
家族が引き離される。
逃げる。
転ぶ。
泣く。
叫ぶ。
映像が終わった。
セリナは息を荒げる。
「今のは……」
理解できない。
だが。
確信だけはあった。
この剣が見せた。
過去を。
その時だった。
頭の中に声が響く。
【超能力覚醒】
【サイコメトリー】
物体に残留した記憶を読む能力。
セリナは目を見開いた。
「過去を……見る能力……」
理解する。
自分の性質に合っている。
知りたい。
理解したい。
分析したい。
その欲求が能力になった。
自然だった。
◆
夕方。
村へ戻る。
セリナはケルナインへ報告した。
過去視のことも。
流民の存在も。
ケルナインは静かに聞いた。
「なるほど」
それだけだった。
驚かない。
否定もしない。
才能が開花した。
それだけのこと。
この村では珍しくない。
セリナは少し笑った。
以前なら信じられなかった。
今では違う。
才能は生まれつきではない。
環境で育つ。
この村はそれを証明している。
◆
夜。
セリナは眠れなかった。
能力が気になる。
試したい。
理解したい。
村の外へ出る。
月明かり。
足元に影が落ちる。
その時。
影が揺れた。
「?」
風ではない。
自分の意思。
影が伸びる。
細く。
鋭く。
まるで鞭。
石へ当たる。
乾いた音。
セリナは息を呑んだ。
「影が……動いた……」
ダークエルフ。
闇属性。
本来の適性。
今まで眠っていた力。
影は再び動く。
今度は木へ絡みついた。
捕縛。
拘束。
闇属性。
影魔法。
理解した瞬間。
頭に情報が流れ込む。
【影鞭】
【影捕縛】
【影拘束】
セリナは小さく笑った。
「なるほど」
「こういうことですか」
力に溺れない。
力を理解する。
それがセリナだった。
◆
同じ頃。
エレノア・グランディア侯爵も村に滞在していた。
白髪。
杖。
老女。
王都では変わり者扱いされた貴族。
奴隷制度へ反対した。
民を守ろうとした。
結果。
嫌われた。
追いやられた。
それでも信念は曲げなかった。
今。
彼女は村を見ていた。
畑。
学校。
治療院。
訓練場。
人が育つ場所。
「懐かしいですね」
誰にも聞こえない声。
若い頃。
目指した理想。
それがここにある。
エレノアは微笑む。
「まだ小さい」
「ですが」
「良い村です」
彼女は気づいていた。
この村は強い。
戦力ではない。
人材で。
◆
翌朝。
ミシェルは空を飛ぶ。
マイケルは治療院へ向かう。
エルナは子供たちへ文字を教える。
エミリーは訓練場で汗を流す。
トミーは倉庫で在庫を数える。
ロバートは村人たちの相談に乗る。
セリナは新たな能力を試していた。
誰も完成していない。
誰も最強ではない。
だから成長できる。
環境が人を育てる。
その言葉を証明するように。
貧困村だった小さな村は。
静かに。
確実に。
未来へ向かって進み始めていた。
そしてその先には。
流民たちとの出会いが待っていた。




