21話:村の食料増産
朝日が昇る。
かつて盗賊に怯え、飢えに苦しんでいた貧困村。
今、その景色は少しずつ変わり始めていた。
畑が増えた。
人が増えた。
笑顔も増えた。
だが、ケルナインは満足していない。
村の人口は増加している。
エミリー。
セリナ。
マイケル。
エルナ。
トミー。
さらに新しい移住者も増え始めていた。
食わせなければならない。
国家になるなら、まず飢えを消さなければならない。
朝。
広大な畑。
ケルナインの前に農民たちが集まっていた。
「今日から食料増産を始める」
全員が真剣な顔になる。
農民たちは理解している。
戦いだけでは村は豊かにならない。
食料こそ国力。
飢えた兵は戦えない。
飢えた民は働けない。
飢えた子供は育たない。
セリナが静かに頷いた。
「最優先ですね」
「そうだ」
ケルナインは地面へ手を置く。
鑑定。
畑全体が視界へ映る。
土壌。
水分。
養分。
病気。
虫。
根の状態。
全て。
「この畑は半分死んでいる」
農民たちが驚く。
「え?」
「そんなはずは」
ケルナインは首を振る。
「見た目だけだ」
「根が弱い」
「養分が偏っている」
「収穫量は本来の四割」
ざわめきが起こる。
四割。
それは致命的だった。
今まで誰も気付けなかった。
教育が存在しなかったからだ。
・・・
ケルナインはエミリーを見る。
「水属性を使え」
「はい」
エミリーが前へ出る。
以前なら緊張していた。
今は違う。
学んでいる。
成長している。
「何をすればいい?」
「土の中を見る」
「水を流せ」
エミリーは目を閉じた。
水。
空気中の水。
土の中の水。
植物の中の水。
全てを感じる。
以前は出来なかった。
今は見える。
根が。
見える。
「・・・すごい」
思わず呟く。
根の先端。
乾燥。
病変。
養分不足。
全てが分かった。
「見えたか」
「はい」
「ここが弱っています」
ケルナインが頷く。
正解だった。
・・・
農民たちは驚愕していた。
畑を見るだけで病気が分かる。
そんな農業があるのか。
だが目の前で起きている。
現実だった。
・・・
マイケルも前へ出る。
「先生」
「病気の苗があります」
「治せるか?」
「やってみます」
光魔法。
ヒール。
さらに最近習得した。
ウォーターヒール。
水の循環を整える治癒。
柔らかな水が苗を包む。
弱っていた葉が少しずつ色を取り戻す。
農民たちが息を呑む。
「治った・・・」
「植物も治せるのか」
「生き物だからな」
ケルナインは当然のように言った。
・・・
エルナも加わる。
「病気の区画を分けましょう」
「健康な苗と混ぜると広がります」
農民たちが頷く。
誰も知らなかった知識。
今は学べる。
だから強くなる。
・・・
ケルナインは次の課題へ進む。
「水不足をなくす」
畑の中央へ歩く。
そして巨大な水球を生み出した。
直径五メートル。
村人たちが息を呑む。
実質無限魔力。
魔力吸収。
魔力操作。
魔力循環。
常識外れの技術。
しかし。
ケルナインは見せびらかさない。
重要なのは自分ではない。
村人だ。
「見るんだ」
水球が霧になる。
広がる。
畑全体を包む。
均一な散水。
無駄がない。
過不足がない。
農民たちが絶句した。
「これ・・・」
「何十人分だ・・・」
「一瞬・・・」
トミーが即座に計算する。
「人件費が消えた」
セリナが苦笑した。
「あなた本当に商人向きね」
「儲かるかどうかは重要だ」
トミーは真顔だった。
・・・
ケルナインはさらに続ける。
「増産する」
「どうやってですか?」
農民が尋ねる。
ケルナインは畑を見る。
「身体強化だ」
全員が固まった。
「畑に?」
「違う」
「人間にだ」
・・・
理解したのはエミリーだった。
「農民に筋肉強化を?」
「そうだ」
「アクセル」
「マッスル」
「短時間なら農作業効率は数倍になる」
農民たちが騒然となる。
確かにそうだ。
耕作。
収穫。
運搬。
全て速くなる。
・・・
ケルナインは続ける。
「戦闘だけが強化魔法じゃない」
「生活も強化できる」
これも教育だった。
この世界の人間は発想が狭い。
魔法は戦闘。
そう思い込んでいる。
違う。
生活。
産業。
農業。
物流。
全てに使える。
・・・
エミリーは改めて衝撃を受けていた。
水属性。
拘束。
捕縛。
窒息。
戦闘。
そう思っていた。
実際は違う。
身体強化。
筋肉強化。
治癒。
索敵。
農業。
全て繋がっている。
「本当に底がないな・・・」
思わず呟いた。
ケルナインは聞いていない。
聞いていても反応しないだろう。
・・・
昼。
農作業が始まる。
アクセル。
マッスル。
農民たちが驚く。
「軽い!」
「身体が動く!」
「疲れない!」
収穫量が増える。
作業速度が上がる。
効率が跳ね上がる。
・・・
ロバートも様子を見ていた。
将来の将軍。
人を見る目が育っている。
「なるほどな」
「戦う前に食わせるのか」
隣のセリナが頷く。
「兵站です」
「軍隊も村も同じ」
「食料がなければ終わります」
ロバートは笑った。
「本当に面白い村だ」
・・・
夕方。
成果が出た。
農民たちが集計する。
収穫量。
作業時間。
消費人員。
全て改善していた。
倍近い成果。
たった一日で。
・・・
トミーが目を輝かせる。
「売れる」
「余剰生産できる」
「市場に出せる」
セリナも頷く。
「食料が余れば移住者も受け入れられる」
「人口が増える」
「労働力も増える」
好循環だった。
・・・
ケルナインは静かに畑を見る。
人が育つ。
人が学ぶ。
人が教える。
環境が人を育てる。
マイケルが学んだ。
エミリーが学んだ。
エルナが学んだ。
農民も学び始めた。
そして学んだ人間が次を育てる。
それこそが本当の力だった。
・・・
夕日に染まる畑。
黄金色の作物が風に揺れる。
貧困村だった場所。
病に苦しみ。
飢えに苦しみ。
盗賊に怯えていた場所。
今は違う。
農業革命は始まった。
紡織産業も始まりつつある。
食料は増える。
人口も増える。
人材も増える。
村は確実に国家への道を歩き始めていた。
そして誰よりも変わったのは。
畑ではなく。
村人たち自身だった。




