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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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217話 北海の友人たち

ゴーレムフェリーの大船団が北の海を進む。


海洋連盟の使節団。

アルカディア連邦の使節団。


そして数千人規模の教師団。


彼らが目指すのは北方国家。


サンナ・マリン王国であった。


かつては人口六千万。


寒冷地ゆえに食料不足と貧困に苦しみ、病も多かった北の国。


しかし今は違う。


人口は一億人を突破している。


農業革命。

教育革命。

衛生革命。


ケルナインが残した思想を受け継いだ人々によって、この国は大きく成長していた。


港へ近づくにつれ、海洋連盟の面々は異変に気付く。


「……何だ?」


シャチ族長オルカが目を細めた。


海岸線が見えない。


人で埋まっているからだ。


港。


防波堤。


広場。


丘。


建物の屋根。


ありとあらゆる場所に人がいた。


数百万。


いや、それ以上。


割れんばかりの歓声が海を揺らした。


「アルカディア連邦万歳!」


「海洋連盟万歳!」


「ようこそ北の国へ!」


「歓迎するぞ!」


歓声が波のように押し寄せる。


イルカ族代表ルミナは目を丸くした。


「すごい……」


サメ族商人代表ガルシャも唖然としていた。


「ここまで歓迎されるとは思わなかったな……」


フェリーが港へ到着する。


その瞬間。


花火のように光魔法が空へ放たれた。


色とりどりの光。


北の空を埋め尽くす。


歓声はさらに大きくなる。


港の中央。


赤い絨毯の先に立っていたのは。


女王マリン・アルベルト。


そして王配アルベルトであった。


マリン女王は優雅に頭を下げた。


「アルカディア連邦の皆さま。」


「海洋連盟の皆さま。」


「サンナ・マリン王国へようこそ。」


その声は広場全体へ響く。


王配アルベルトも続いた。


「皆さまは我が国の友人です。」


「本日は心から歓迎いたします。」


海洋連盟の者たちは驚いていた。


王族自ら港で出迎える。


それだけではない。


国民全体が祝祭を開いている。


これほどの歓迎は経験したことがない。


セリナが前へ進む。


「ありがとうございます。」


「本日は海洋連盟の皆さまをお連れしました。」


「皆さまに北の友人を紹介したかったのです。」


マリン女王は微笑んだ。


「それは私たちも同じです。」


「海の友人を歓迎します。」


拍手が響く。


その後。


贈答式が始まった。


海洋連盟から運ばれてきた巨大な箱。


中には新鮮な海産物。


巨大なマグロ。


深海エビ。


貝類。


海藻。


珍しい魚介類。


さらに海底都市で作られた加工食品。


ルミナが説明する。


「こちらは海底農場で育てた海藻です。」


「栄養価が非常に高い食品です。」


会場がざわめく。


海藻を見たことがない者も多い。


オルカが笑った。


「美味いぞ。」


その一言で会場が笑いに包まれた。


続いて料理教師たちが動く。


教師が教師へ教える。


教導スキルが発動する。


理解が共有される。


調理法。


保存法。


栄養学。


衛生管理。


知識が瞬く間に広がった。


その夜。


大規模な食事会が開かれる。


焼き魚。


煮魚。


海鮮スープ。


海藻サラダ。


貝の蒸し料理。


国民たちは驚愕した。


「うまい!」


「こんな味があるのか!」


「魚ってこんなに美味しいのか!」


歓声が止まらない。


海洋連盟の者たちも笑顔になっていた。


翌日。


視察が始まる。


海洋連盟の一行はサンナ・マリン王国の発展に驚いた。


広大な温室。


巨大な農地。


整備された街道。


学校。


病院。


公衆浴場。


寒冷地でありながら緑が広がっている。


ルミナが立ち止まった。


「これは……。」


目の前には巨大な温室群。


透明なガラスに覆われた施設が何百キロも続いている。


案内役の教師が説明した。


「温室農法です。」


「寒冷地でも安定した農業生産が可能になりました。」


海洋連盟の教師たちは感心する。


さらに綿花畑へ向かう。


寒冷地専用に改良された品種。


広大な白い畑。


風に揺れている。


「これが寒冷地綿花です。」


教師が説明した。


「衣料品の原料になります。」


紡織産業も発展していた。


工場では大量の布が生産されている。


下着。


衣服。


寝具。


洗布。


濡拭布。


様々な製品が作られていた。


教師が布を見せる。


「これはタオルと呼びます。」


海洋連盟の一行が触る。


柔らかい。


吸水性が高い。


「素晴らしい。」


ガルシャが感心した。


「商売になる。」


周囲が笑う。


昼食では寒冷地芋のスープが振る舞われた。


湯気が立つ。


濃厚な香り。


海洋連盟の面々が口にする。


「うまい。」


「身体が温まる。」


「腹持ちもいい。」


北方独特の食文化。


海洋連盟には存在しない味だった。


交流は続く。


知識。


文化。


技術。


互いに学ぶ。


互いに教える。


まさに教育国家同士の交流であった。


その夜。


王城で晩餐会が開かれた。


そこでマリン女王が立ち上がる。


静寂。


全員が耳を傾ける。


「私たちは忘れません。」


「貧困に苦しんでいた日々を。」


「病で多くを失った時代を。」


「飢えを恐れていた時代を。」


女王は続ける。


「そして忘れません。」


「アルカディア連邦が差し伸べてくれた手を。」


会場は静まり返る。


「我が国は救われました。」


「だから今があります。」


「だから未来があります。」


「我々は友人であり続けます。」


大きな拍手が起こった。


翌日。


正式な同盟締結式。


サンナ・マリン王国。


アルカディア連邦。


海洋連盟。


三者は同盟へ署名した。


会場は歓声に包まれる。


続いて交換留学協定。


サンナ・マリン王国から教師三千名。


アルカディア連邦から教師三千名。


相互留学が決定した。


教育国家同士の新たな橋である。


さらに返礼品も贈られる。


大量の下着。


高品質な布。


洗布。


濡拭布。


タオル。


そして強い蒸留酒。


北方特産のスピリッツ。


海洋連盟の者たちは大喜びだった。


その後。


一行は公衆浴場を訪れる。


巨大な浴場。


清潔な施設。


湯気が立ち込める。


アルベルト王配が説明した。


「衛生は国家の基礎です。」


「病を防ぐ。」


「働く力を守る。」


「人を守る。」


海洋連盟の教師たちは真剣に聞いていた。


病との戦い。


それはどの国にも共通する課題だった。


数日後。


別れの日が来る。


港には再び膨大な人々が集まった。


女王マリン。


王配アルベルト。


教師たち。


兵士たち。


農民。


職人。


子供たち。


皆が見送りに来ている。


マリン女王が最後の演説を行う。


「友人たちよ。」


「また会いましょう。」


「我々は共に歩きます。」


「学び続けます。」


「成長し続けます。」


大歓声。


万歳の声。


旗が振られる。


フェリーがゆっくり離岸する。


海洋連盟の者たちは港を見つめていた。


ルミナが静かに呟く。


「いい国ですね。」


オルカも頷く。


「ああ。」


「本当にいい国だ。」


遠ざかる港。


それでも歓声はいつまでも聞こえていた。


北の大地で育った人々。


海で育った人々。


環境は違う。


種族も違う。


文化も違う。


それでも学び合える。


それでも友人になれる。


それを証明するように。


三つの旗が北の風に大きくはためいていた。







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