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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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213話 海底移住

海洋都市アクアマリナ。


海底都市ネプトリア。


その二つを結ぶ巨大な港湾地区は、かつてないほどの活気に包まれていた。


海上には無数の巨大船が浮かんでいる。


大型ゴーレムフェリー。


アルカディア連邦と海洋連盟が共同開発した史上最大級の輸送艦だった。


全長数キロ。


内部には住宅区画。


学校。


病院。


市場。


工房。


倉庫。


農園。


ありとあらゆる設備が存在する。


もはや船ではない。


移動都市だった。


その巨大船が何百隻も港に並んでいる。


海風が吹く。


港に集まった人々は皆笑顔だった。


理由は単純だった。


移住である。


海底都市ネプトリアへの大規模移住計画。


募集が始まった瞬間。


アルカディア連邦全土から応募が殺到した。


予想を遥かに超えていた。


セリナは報告書を見ながら苦笑した。


「まさかここまでとは。」


トミーも肩を竦める。


「皆考えることは同じだな。」


目の前の資料には数字が並んでいた。


移住希望者。


十一億二千万人。


予定移住人数。


一億人。


倍率は凄まじかった。


それでも応募は止まらなかった。


理由は一つだった。


魚である。


アルカディア連邦は豊かだった。


農業革命。


紡織産業。


魔法技術。


医療技術。


教育制度。


全てが世界最高水準だった。


飢餓も病もほぼ存在しない。


食料充足率は一五〇〇%を超えている。


肉も野菜も果物も豊富だ。


しかし。


海は違う。


海洋連盟の魚介類は別格だった。


深海マグロ。


巨大エビ。


黄金カニ。


海底貝。


発光イカ。


魔魚。


深海海藻。


その鮮度は他国では絶対に再現できない。


海の民が長年培ってきた技術。


そして海底都市ネプトリアによる新たな養殖技術。


結果として世界最高峰の食文化が誕生していた。


美味しいものは偉大である。


それは理屈ではない。


人間も獣人もエルフもドワーフも魔族も同じだった。


食卓は幸福を生む。


幸福は人を動かす。


だから応募が殺到した。


抽選は公開で行われた。


不正は一切ない。


全ての記録が公開される。


教導スキルを持つ監査団。


鑑定技能者。


超能力者。


全員が確認する。


誰も文句を言わなかった。


公平だったからだ。


そして。


選ばれた。


一億人。


歴史上最大の移住計画だった。


港では出発式が始まる。


エミリーが移住者代表へ語りかける。


「向こうへ行っても忘れるな。」


「お前たちは客じゃない。」


「住民だ。」


「海を学べ。」


「働け。」


「教えろ。」


「そして育てろ。」


移住者たちが頷く。


彼らは理解していた。


アルカディア連邦の理念を。


与えられるだけではない。


自ら育つこと。


自ら学ぶこと。


自ら教えること。


それが環境を作る。


それが人を育てる。


港では子供たちがはしゃいでいた。


「海底都市だ!」


「魚がいっぱいだって!」


「イルカ族に会えるかな!」


「海底農場見たい!」


親たちも笑顔だった。


未来が見えている。


だから不安が少ない。


海底都市ネプトリア。


既に人口二億人を支えられる規模になっている。


海底農場。


海底養殖。


海底鉱山。


海底工業区。


教育都市。


研究施設。


医療都市。


どれも急速に発展していた。


海底農場ではさらに驚くべき成果が出ていた。


深海海藻。


特殊海藻。


魔力植物。


地上を超える収穫量。


病害虫がほぼ存在しない。


一定温度。


豊富な栄養。


安定した環境。


結果として地上農業を上回る生産性が実現していた。


移住者たちは未来を見ていた。


希望を見ていた。


だから船へ乗り込む。


巨大なゴーレムフェリーが次々と出港していく。


歓声が上がる。


汽笛代わりの魔導音が海へ響く。


巨大船団。


まるで新たな国家が移動しているようだった。


そして。


別の船団も準備を進めていた。


海洋連盟視察団。


オルカ。


ルミナ。


ガルシャ。


さらに学者。


教師。


技術者。


農業研究者。


商人。


若い海の民たち。


数万人規模の視察団である。


彼らの目的地は一つ。


セレンスキー王国。


アルカディア連邦の同盟国だった。


船内では期待の声が飛び交う。


「本当に雪が降るのか?」


「寒い国なんだろ?」


「海が凍るって本当か?」


「どんな料理があるんだろう。」


「魚を持って行こう。」


「向こうの農業を学びたい。」


「教師と交流したい。」


未知への好奇心。


それは教育が育てたものだった。


かつての世界では違った。


外の世界は敵だった。


他国は奪う存在だった。


異民族は恐怖の対象だった。


だから争いが絶えなかった。


しかしアルカディア連邦は違う。


教育がある。


知識がある。


交流がある。


だから未知は恐怖ではなくなる。


学ぶ対象になる。


セリナは出港する船団を眺めていた。


その隣にはトミーがいる。


「世界が狭くなるな。」


トミーが呟く。


セリナは首を振った。


「違います。」


「世界は広がります。」


トミーは笑った。


「確かにな。」


海を見る。


水平線の向こうにはまだ知らない国がある。


まだ知らない文化がある。


まだ知らない人々がいる。


セレンスキー王国。


サンナ・マリン王国。


その先にも国家は存在する。


教育が届いていない土地。


貧困に苦しむ地域。


病に苦しむ人々。


飢餓に怯える村。


かつてアルナ村がそうだったように。


かつてベルグ村がそうだったように。


かつて世界中に存在していたように。


だから行く。


支配のためではない。


征服のためでもない。


学び合うため。


共に豊かになるため。


巨大なゴーレムフェリーがゆっくりと動き出す。


海を切り裂きながら進む。


船上では子供たちが歓声を上げていた。


海洋連盟の若者たちも笑っていた。


未知の世界へ向かう喜び。


それは何よりの原動力だった。


港に残った人々は手を振る。


旅立つ人々も手を振り返す。


空は青い。


海も青い。


世界は広い。


そして。


その広い世界を結ぶための航海が、今始まったのである。







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