212話 世界を結ぶ船
海底都市ネプトリア建設計画が順調に進む中、新たな会議が海洋都市アクアマリナで開かれていた。
会議場には海洋連盟の代表たちと、アルカディア連邦の各分野の責任者たちが集まっている。
シャチ族長オルカ。
イルカ族代表ルミナ。
サメ族商人代表ガルシャ。
そしてアルカディア連邦側からはセリナ、トミー、ロバート、エミリー、ガイルらが参加していた。
巨大な海図が広げられる。
会議場は静かだった。
最初に口を開いたのはセリナだった。
「ネプトリア建設は順調です。」
「海底農場も成果を出しています。」
「海底鉱脈も発見されました。」
「海洋連盟との交易量も増えています。」
セリナは海図へ視線を向ける。
「ですが。」
「私はもっと先を見ています。」
会議場の全員が彼女を見る。
セリナは海図の外周を指差した。
「世界です。」
空気が変わった。
「世界?」
ルミナが首を傾げる。
セリナは静かに頷く。
「海は繋がっています。」
「海洋連盟とアルカディア連邦が協力すれば、世界中へ行けます。」
「交易できる。」
「知識を共有できる。」
「教育を広げられる。」
「病を減らせる。」
「飢餓をなくせる。」
「争いを減らせる。」
その言葉にガルシャが笑う。
「相変わらず大きな話だな。」
「好きだぜ。」
トミーも笑った。
「俺も賛成だ。」
「商売人として言わせてもらう。」
「海の向こうに市場があるなら行かねぇ理由がねぇ。」
会議場が少し和む。
セリナは続けた。
「そのために必要なのは船です。」
「普通の船ではありません。」
海図の中央に新たな設計図が映し出された。
ソートグラフィー。
念写能力による立体映像だった。
巨大な船。
いや。
それは船というより移動都市だった。
ガイルが唸る。
「でけぇな。」
「城じゃねぇか。」
セリナは説明を始めた。
「大型ゴーレムフェリー。」
「アルカディア連邦と海洋連盟の共同開発です。」
「全長二キロ。」
会議場がざわつく。
「乗員十万人。」
「貨物数百万トン。」
「海上農場搭載。」
「大型倉庫搭載。」
「病院搭載。」
「学校搭載。」
「工房搭載。」
「長期間航海可能。」
オルカが腕を組む。
「船そのものが都市か。」
「その通りです。」
セリナは頷いた。
「世界を回る交易都市です。」
ガイルの目が輝く。
職人は巨大な建造物が好きだった。
「面白ぇ。」
「やるぞ。」
「全部鉄で作る。」
「海底鉱脈なら材料はいくらでもある。」
ベルンも力強く頷いた。
「鍛冶師団を総動員します。」
「絶対に完成させる。」
ロバートが笑う。
「護衛なら任せろ。」
「海賊が出ようが魔物が出ようが沈めさせねぇ。」
エミリーも続く。
「海洋部隊を編成する。」
「新しい戦術も必要だな。」
会議が熱を帯びていく。
その時。
セリナが新たな提案を出した。
「そして。」
「行き先があります。」
海図の一角が光る。
北方。
サンナ・マリン王国。
ルミナが目を見開いた。
「同盟国?」
「はい。」
セリナは頷く。
「アルカディア連邦には既に複数の同盟国があります。」
「私たちだけ豊かになる意味はありません。」
「共に豊かになるべきです。」
静かな言葉だった。
しかし重みがあった。
アルカディア連邦がここまで大きくなった理由。
それは支配ではなかった。
教育だった。
独占ではなかった。
共有だった。
ガルシャが笑う。
「なるほどな。」
「だから強い。」
「普通なら技術を隠す。」
「お前らは配る。」
セリナは否定しない。
「配った方が豊かになります。」
「教育した方が成長します。」
「環境が人を育てます。」
会議場が静かになった。
その言葉は今やアルカディア連邦の理念だった。
貧困村から始まった思想。
人は育つ。
教えれば育つ。
環境があれば育つ。
だから世界を豊かにする。
ルミナが立ち上がった。
「海洋連盟は賛成します。」
「私たちも行きたい。」
「海の向こうを見たい。」
オルカも頷く。
「賛成だ。」
「未知の海へ出よう。」
ガルシャも笑う。
「儲かる匂いがする。」
会議場に笑いが広がる。
その日のうちに計画は承認された。
大型ゴーレムフェリー建造計画。
アルカディア連邦。
海洋連盟。
両勢力共同事業。
史上最大規模の建造計画だった。
翌日。
海底都市ネプトリア。
巨大な建造ドックが整備される。
海底鉱脈から運ばれる鉄。
金属魔法部隊。
鍛冶師団。
魔道具技師団。
建築部隊。
掘削部隊。
教師団。
数億人規模の技術者たちが動き始める。
教育を受けた人材がいる。
教導スキルがある。
技術共有がある。
だから巨大計画も可能だった。
ネプトリアの海底農場では収穫が続いていた。
海藻。
海底野菜。
魚介養殖。
地上を上回る収穫量。
飢餓は存在しない。
病も激減した。
海底鉱脈は無限に近い資源を供給する。
交易品は増え続ける。
そして。
世界へ向かう船が作られる。
かつて盗賊に怯えていた貧困村。
病に苦しみ飢えていた人々。
教育を知らなかった村人たち。
その子孫たちが今。
世界を繋ぐ船を作ろうとしていた。
誰かの遺産ではない。
古代文明でもない。
神の奇跡でもない。
人が学び。
人が教え。
人が育った結果だった。
海底都市ネプトリアの上空を魚群が泳ぐ。
青い海の中で巨大な建造ドックが輝いていた。
世界はまだ広い。
未知の海もある。
未知の国家もある。
未知の文化もある。
だから進む。
学ぶために。
教えるために。
共に豊かになるために。
世界を結ぶ船は、その第一歩だった。




