210話 海底都市計画
海底鉱脈の発見は、世界の常識を変えた。
鉄。
銅。
銀。
金。
魔鉄。
ミスリル。
高純度魔石。
その埋蔵量は莫大だった。
海洋連盟とアルカディア連邦は共同で開発を進めていたが、ある日、海洋都市アクアマリナで開かれた会議において、一つの提案が出された。
発言したのはイルカ族代表ルミナだった。
「鉱脈だけじゃありません」
「私たちは海そのものを利用できます」
会議室が静まり返る。
巨大な海図が広げられていた。
深海地形。
海流。
魔力流動。
海底火山。
鉱脈。
様々な情報が描かれている。
ルミナは海図の中央を指差した。
「ここです」
深海平原。
巨大な海底盆地。
地震も少ない。
海流も安定している。
さらに近隣には鉱脈。
魔石鉱床。
深海植物群生地。
食料資源も豊富だった。
オルカが腕を組む。
「海底都市か」
ガルシャも笑った。
「面白い」
セリナは即座に計算を始めていた。
物流。
建築費。
維持費。
防衛。
人口。
全てを組み立てていく。
やがて彼女は頷いた。
「可能です」
その一言で空気が変わった。
アルカディア連邦は不可能を不可能のまま放置しない。
教育する。
研究する。
試す。
改善する。
そして実現する。
それがこの国だった。
こうして。
アルカディア連邦と海洋連盟は共同事業を開始する。
海底都市計画。
後に世界史を変える巨大事業だった。
まず始まったのは設計だった。
設計者は数万人。
建築士。
魔道具士。
鍛冶師。
土木技師。
教師。
研究者。
全員が意見を出す。
ソートグラフィーによる念写技術も活躍した。
構想が映像化される。
誰でも理解できる。
改善案も共有される。
結果として。
設計速度は異常だった。
一週間で基本設計。
一か月で詳細設計。
三か月で実行計画。
普通の国家なら数十年かかる。
アルカディア連邦では違う。
人材がいる。
教育がある。
だから速い。
都市名も決まった。
海底新都市。
ネプトリア。
海と陸を繋ぐ象徴。
そんな意味が込められていた。
建設開始の日。
数百万人規模の作業員が集まった。
全員が教育を受けている。
全員が魔法を扱える。
全員が仕事を理解している。
まず行われたのは地盤整備だった。
土魔法部隊が動く。
海底岩盤を調査。
地震魔法部隊が振動解析。
重力魔法部隊が安定化。
鉄魔法部隊が補強材を形成。
全てが同時進行だった。
海底は静かだった。
だが作業は凄まじい。
巨大な平原が形成されていく。
そこへ建築部隊が投入される。
石壁。
鉄骨。
魔鉄柱。
透明水晶壁。
巨大構造物が次々と建設される。
海中呼吸装置がある。
海中作業に問題はない。
さらに。
魔力循環技術も利用された。
都市全体に魔力流路を敷設する。
まるで血管だった。
魔力が流れる。
照明。
空調。
浄水。
通信。
防壁。
全てを支える。
海洋連盟の技術も活躍した。
シャチ族。
イルカ族。
サメ族。
彼らは海を知っている。
海流の変化。
深海生物。
地形。
危険区域。
全て把握していた。
オルカは巨大な海底図を見ながら指示する。
「その先は深海魔物の通り道だ」
「避けろ」
建築部隊は即座に修正する。
無駄な衝突を避ける。
環境を壊さない。
共存を選ぶ。
これも教育の成果だった。
半年後。
都市の骨格が完成した。
巨大なドーム群。
水晶壁に囲まれた街区。
中央広場。
研究区画。
住宅区画。
商業区画。
農業区画。
全て整備される。
農業区画は特に注目された。
普通なら海底で農業など不可能。
しかしアルカディア連邦は違う。
土魔法。
光魔法。
水魔法。
全てが利用できる。
人工太陽が作られた。
巨大な光魔法装置。
昼夜を再現する。
根菜が育つ。
葉物が育つ。
果樹まで育つ。
マーガレットが視察に訪れた時。
彼女は目を丸くした。
「海底なのに畑があるの?」
セリナが頷く。
「あります」
「むしろ環境制御できます」
温度。
湿度。
光量。
害虫。
病気。
全て管理できる。
収穫量は地上以上だった。
さらに漁業区画も作られた。
魚類養殖。
海藻栽培。
貝類養殖。
巨大な水産施設。
海洋連盟の技術が最大限活かされる。
ルミナは笑顔だった。
「私たちの子供たちも安心して暮らせる」
その言葉には重みがあった。
海は豊かだ。
しかし危険でもある。
嵐。
魔物。
海流。
事故。
数多くの脅威が存在する。
海底都市は安全だった。
防壁。
魔法。
教育。
全てが揃っている。
だから未来がある。
一年後。
人口移住が始まった。
海洋連盟から数十万人。
アルカディア連邦から数十万人。
研究者。
職人。
商人。
教師。
学生。
様々な人材が集まる。
新しい学校も作られた。
教師数は莫大だった。
教導スキル覚醒者も数え切れない。
教育水準は高い。
子供たちは種族を超えて学ぶ。
シャチ族。
イルカ族。
サメ族。
ヒューマン。
エルフ。
ドワーフ。
魔族。
獣人。
全員が同じ教室で学ぶ。
かつての世界では考えられなかった光景だった。
マイケルが視察に訪れた時。
授業を見学した。
講師は若いイルカ族教師。
生徒たちは真剣に聞いている。
海流学。
深海生態学。
魔法工学。
鉱物学。
学問の幅も広い。
マイケルは微笑んだ。
「本当に育ってるな」
かつて貧困村だった世界。
教育がなかった世界。
それが今。
海底都市で未来を教えている。
環境が人を育てる。
ケルナインが残した思想は生きていた。
そして二年後。
海底都市ネプトリアは完成した。
人口三百万人。
巨大な海底国家都市。
研究。
産業。
教育。
物流。
全てが機能している。
完成記念式典の日。
オルカ。
ルミナ。
ガルシャ。
セリナ。
トミー。
マイケル。
多くの代表者が集まった。
巨大な透明ドームの外では魚群が泳いでいる。
発光魚が光る。
幻想的な景色だった。
オルカが静かに語る。
「昔は海を生きる場所だと思っていた」
「今は違う」
「海は未来だ」
会場から拍手が起こる。
ルミナも続ける。
「私たちは助けられた」
「でも今は違う」
「共に作った」
誇りがあった。
誰かに与えられた未来ではない。
自分たちで作った未来だった。
セリナは窓の外を見る。
深海。
魚群。
巨大な都市。
その向こうにはまだ未知が広がっている。
深海火山。
未発見資源。
新種の魔物。
新しい学問。
新しい産業。
可能性は無限だった。
アルカディア連邦と海洋連盟。
二つの共同体は。
陸だけではなく海までも生活圏に変えた。
それは支配ではない。
略奪でもない。
教育による発展だった。
人材が育つ。
環境が人を育てる。
その積み重ねが。
海底都市ネプトリアという奇跡を生み出したのである。




