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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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206話 海と陸の学び舎

海上都市アクアマリナでの交流は続いていた。


最初は互いに警戒していた。


陸の民。


海の民。


文化も生活も違う。


食べるものも違う。


使う技術も違う。


しかし学ぶ姿勢だけは同じだった。


だから交流は驚くほど早く進んだ。


巨大な海上広場では今日も交易会議が行われている。


シャチ族長オルカ。


イルカ族代表ルミナ。


サメ族商人代表ガルシャ。


そしてアルカディア連邦側からはエミリー、セリナ、ソフィア、カタリナが参加していた。


会議場の中央には大量の品物が並べられている。


アルカディア連邦から持ち込まれた農産物だった。


巨大な大根。


人の胴ほどもある人参。


芋類。


玉葱。


葱。


韮。


白菜。


葉物野菜。


薬草。


果物。


さらに魔物の精肉。


加工肉。


干し肉。


燻製肉。


塩漬け肉。


保存食。


海洋連盟の代表たちは目を見開いていた。


「これほどの量を持ち込めるのか」


オルカが驚く。


エミリーが頷いた。


「連邦では農業革命が続いている」


「食料は十分以上にある」


実際。


アルカディア連邦の食料充足率は既に1500%を超えている。


人口十七億人。


それでも余る。


教育。


品種改良。


農地開発。


魔法。


超能力。


輸送網。


全てが噛み合った結果だった。


イルカ族の少女が人参をかじる。


目を丸くした。


「甘い!」


周囲から笑い声が上がる。


海洋連盟では魚介類は豊富だった。


しかし根菜類は少ない。


葉物野菜も限られる。


だからアルカディアの農産物は極めて価値が高かった。


一方。


海洋連盟も手ぶらではない。


巨大な真珠。


深海鉱石。


海底結晶。


海藻加工品。


乾燥魚介。


特殊な塩。


海洋魔物の素材。


アルカディア側も興味津々だった。


セリナは資料を眺める。


「相互補完ですね」


オルカが笑う。


「その通りだ」


「君たちには陸がある」


「我々には海がある」


「争う理由がない」


全員が頷いた。


交易とは本来そういうものだった。


その日の夕方。


料理研究会が開かれていた。


参加者は百名以上。


料理教師。


薬師。


農業教師。


海洋連盟の料理人。


魚料理研究はさらに進んでいた。


本日のテーマ。


香辛料。


魚に香辛料は合うのか。


試食会が始まる。


最初は刺身。


そこへ山葵を添える。


海洋連盟の者たちは最初戸惑った。


恐る恐る口へ運ぶ。


数秒後。


表情が変わった。


「魚の甘みが強くなる」


「香りが変わる」


「面白い」


続いて山椒。


焼き魚へ振りかける。


香りが広がる。


魚の脂が際立つ。


次は唐辛子。


蒸し魚へ合わせる。


辛味。


旨味。


香味油。


醤油。


絶妙だった。


マーガレットは完全に夢中だった。


「止まらないわ」


「本当に止まらない」


既に十皿以上食べている。


周囲も慣れていた。


「また始まった」


「魚になると別人だな」


「商会長なのに」


皆が笑う。


リーンは真剣に記録を続けていた。


魚と香辛料。


魚と薬味。


魚と野菜。


組み合わせは無限だった。


韮。


葱。


生姜。


大蒜。


山椒。


唐辛子。


葉物野菜。


根菜。


油。


研究は終わらない。


それもまた教育だった。


知識を積み上げる。


試す。


共有する。


失敗する。


改善する。


アルカディアの強さはそこにある。


数日後。


深海調査会議が開かれた。


海洋連盟側が主催だった。


巨大な地図が広げられる。


深海領域。


未踏査領域。


危険海域。


海流。


魔力流。


全てが記されている。


エミリーたちは驚いた。


海洋連盟は海を知り尽くしていた。


オルカが説明する。


「深海には魔物がいる」


「巨大種だ」


会場が静まる。


次々に資料が映し出される。


深海蛇。


深海甲殻種。


深海烏賊。


深海鮫。


深海鯨。


どれも巨大だった。


数十メートル級。


百メートル級。


海洋連盟でも警戒対象である。


しかし。


海洋連盟は恐れているわけではなかった。


研究していた。


観察していた。


分類していた。


対策していた。


アルカディア側も情報を共有する。


陸上魔物。


飛行魔物。


大型魔物。


災害級魔物。


互いの知識が結び付く。


教師たちが興奮していた。


「これは教材になる」


「新しい学問だ」


「海洋生態学が作れる」


「深海研究学科も必要になる」


教育者らしい反応だった。


その夜。


重大な合意が結ばれた。


正式な交易協定。


アルカディア連邦と海洋連盟。


双方の代表が署名する。


拍手が響く。


戦争ではない。


征服でもない。


協力だった。


そしてもう一つ。


教育交流協定。


留学生制度。


これが最も大きかった。


イルカ族の若者が立ち上がる。


「学びたい」


「アルカディアで」


その言葉に続く者は多かった。


シャチ族。


サメ族。


海蛇族。


海鳥族。


多くの若者が名乗りを上げた。


アルカディア側も歓迎する。


教師は余っている。


学校もある。


研究施設もある。


学ぶ環境がある。


数週間後。


第一陣が出発した。


数千人規模。


海洋連盟史上初。


海外留学だった。


巨大探索船が港を離れる。


若者たちが手を振る。


家族が見送る。


不安もある。


期待もある。


それでも彼らは進む。


学ぶために。


成長するために。


環境が人を育てる。


その思想は海にも届いた。


アルカディア連邦が巨大になった理由。


それは人口ではない。


兵力でもない。


魔法でもない。


教育だった。


だから海洋連盟も変わる。


学んだ者は戻る。


教師になる。


研究者になる。


技術者になる。


次の世代を育てる。


そしてまた環境が変わる。


人が育つ。


文化が育つ。


国家が育つ。


港の上空を海鳥が飛んでいた。


遠くでは探索船が新たな航路へ向かっている。


海はまだ広い。


深海もまだ謎に包まれている。


未知は尽きない。


だから学びも尽きない。


アルカディア連邦と海洋連盟。


二つの文明は出会った。


剣ではなく。


知識によって。


力ではなく。


教育によって。


その出会いは。


未来の歴史書でこう記されることになる。


『海と陸が学びを共有した日』


その日から世界はさらに広くなったのである。







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